特異種という存在
ホワイトパール王国領土に入った俺たちは、アイシェラの操作する馬車で街道を走っていた。
馬車の中にはプリム、シラヌイ、クロネ。アイシェラの隣にナキが座り、屋根の上には俺とカグヤがうつ伏せになり並んで寝転がっていた。
俺は、馬車の屋根から顔を出す。
「なーアイシェラ、どこ向かってんだ?」
「この近くにある村だ。今日はそこで宿を取る。明日、北上して『岩塩湖』へ向かうぞ」
「がんえんこ……?」
「ホワイトパール王国の名所の一つだ。塩の湖と呼ばれて……まぁ、到着すればわかる」
と、ここでカグヤが挙手。
「はいはーい。そんなとこ行ってどうすんのよ」
「観光に決まっているだろう? フレア、お前は珍しいものを見たいんだったな。ホワイトパール王国領土の案内は任せておけ」
「おお! さっすがアイシェラ」
「ふ……一応、この辺りは庭のようなものだ」
ナキは煙草をふかしながら空を見上げる。なんだか煙草が似合う奴だな。
「で、ホワイトパール王国ってのはどこだ?」
「……ここから北上した先にある。それがどうした?」
「いや、行くのか?」
「…………」
アイシェラは無言だった。
いちおう、プリムはもうホワイトパール王族じゃないはず。ガブリエル様とかいう堕天使の養子になったみたいだし、書類上の手続きも終わってるとか。
でも、この国から逃げ出したことに変わりない。
俺はアイシェラに聞いた。
「アイシェラ、ホワイトパール王国に行って大丈夫か? 捕まったりしないか?」
「……わからん。だが、お嬢様の王位継承権はすでに放棄しているし、ブルーサファイア王国で養子の手続きもした。ホワイトパール王族とはもう関わりないはずだ。もし顔が露見しても、いきなり捕まるということはない……はず」
アイシェラは自信なさげに言う。
ナキは煙草の灰を小さなケースに入れ、煙管を懐へしまう。
「国内情勢がわかればな。次期国王の候補は何人かいたんだろ?」
「お嬢様のご兄弟が何人か……」
「それと、国王は病気だったんだよな?」
「ああ。内臓の病でな……余命一年か二年と医者が言っていた」
「あ、今のプリムなら治せんじゃね?」
「…………かもな」
アイシェラは、どこか複雑そうだ。
すると、カグヤが俺の肩を叩く。
「ねぇ、天使も来るんじゃない? あんたの身内もさ」
「かもな。あ、身内ってのやめろよ。もうあれは先生たちじゃないし」
「……ごめん」
暁の呪術師。
正確には、神が作った肉体に、改良した先生たちの魂を定着させた『人形』だ。ココロの切り替えはできたから、次に襲って来た時は容赦しない。
というか、あのクソ神……魂を改良とか、ナメやがって。
「……ねぇ、アタシがやろうか?」
「え?」
「その、師匠とか、知り合いなんでしょ? やりにくいなら……」
「お前じゃ勝てねーよ」
「あぁん!?」
「……悪い。これはマジだ。先生はたぶん、ミカちゃんとか今までの天使が束になっても勝てないと思う。やれるのは俺だけ……お前には、天使の相手をしてもらいたい」
「……まぁ、いいけど」
「悪いな。ちゃんと礼はするよ」
「……お礼ね。アタシが求めるのは決まってるわ」
「ん?」
カグヤは、俺の目をしっかり見て言う。
「天使とか神とか呪術師とかの戦いが終わったら……フレア、全てを賭けてアタシと戦いなさい」
「…………」
「アタシも、全てを賭ける。アンタとの戦いには、それくらいの価値がある」
「……マジだな?」
「当たり前。いい?」
「……わかった」
カグヤの、闘士としての願いだった。
これを受けないのは、戦士としてカグヤに失礼に当たる。
「……なんマジな話してるな」
「放っておけ。フレアとカグヤにしかわからないことだろう」
ナキとアイシェラには、どうも理解できないようだった。
◇◇◇◇◇◇
アイシェラの言っていた村に到着した。
のどかで小さな村だ。家が二十軒くらいで、畑や牧場とかもある。村の中を小さな川が流れており、子供が木剣を振り回して遊んだり、冒険者っぽいのが集団で歩いていた。
「ここにも冒険者ギルドがあったはず。フレア、カグヤ、ナキ、行ってみたらどうだ?」
「面白そう。俺、行こうかな」
「オレはパス。宿でのんびり寝たいね。馬車の揺れでケツがいてぇ」
「アタシは行く!」
と、馬車の窓が開く。
「うちは情報収集にゃん」
『わん!』
クロネとシラヌイは、俺たちが何か言う前に馬車から飛び出した。
シラヌイ、いつの間にかクロネの部下みたいになってやがる。
そして、プリムがそっと窓から顔を出した。
「……ホワイトパール王国。来ちゃいました」
「お嬢様。大丈夫です」
「アイシェラ……うん、ありがとう」
そして、馬車は宿屋へ到着。
二階建ての、簡素な宿だった。
アイシェラが受付し、二部屋確保。部屋に到着するなりナキはベッドで昼寝、アイシェラは馬の世話をするため厩舎へ。
「プリム、お前はどうする? 俺とカグヤは冒険者ギルドに行くけど」
「んー……大丈夫です。わたし、アイシェラと一緒にいます」
「そっか。まぁ狭い村だし、何かあったら呼べよ?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃ、行くわよ!」
カグヤが俺の襟を掴んで引っ張る……こいつ、なにすんだよ。
宿の外へ出ると、カグヤが言う。
「プリム、やっぱり不安みたいね」
「そうか?」
「鈍感なアンタにはわかんないでしょうね。あの子、やっぱりまだお家のこと引きずってんじゃない?」
「お家って……ホワイトパール王国のことか?」
「それしかないでしょ。書類上ではもう王族じゃないけど、血のつながりは残ってんのよ。あの子、末っ子でしょ? やっぱり寂しいんじゃないの?」
「でもよ、俺たちに何ができる? 兄貴とか姉ちゃんに会わせればいいのか?」
「それはプリムが決めることでしょ。とりあえず、あの子が家族に会いたいって言ったら、ちゃんと会わせてあげましょ」
「……お前、たまにはいいこと言うな」
「はぁ!?」
カグヤと冒険者ギルドへ向かう。
小さい村なのですぐ見つけた。だが、意外にもギルドは大きい。
さらに、近くには大きな教会もあった。
「教会かぁ。そういや、こういう建物見るの久しぶりだな」
「グリーンエメラルドじゃなかったもんね」
ギルドに入る前に、教会を見学する。
近くに行くと、かなり立派な建物だった。こののどかな村に合ってない建物だ……ぶっちゃけ、異物感がすごい。
教会を見上げていると、村人のおじいちゃんが寄ってきた。
「あんたら、旅人かい?」
「ん、あ、はい。いやー、立派な教会っすね」
「ほっほっほ。そうじゃろそうじゃろ? この辺境の村にも『聖天使教会』ができてのぉ……いやぁ、天使様に毎日祈りを捧げることができるわい」
「天使……」
「うむ。我々人間を導いてくださる至高の存在じゃ。いやーありがたい」
「はぁ……天使ねぇ」
「お前さんたち、せっかくだし祈っていきなさい。天使の御利益があるぞぉ?」
天使の御利益とか。
俺たち、かなりの数の天使ブチのめしてます。御利益とかより呪われてそうだな。
ちょっと曖昧な笑みを浮かべていると、おじいちゃんの顔つきが変わった。
「それともお前さんたち……まさか、『特異種』じゃなかろうね?」
「「…………」」
「ははは。そんなはずないか。卑しき呪い子なわけないなぁ」
そう言って、おじいちゃんは鍬を担いで去って行く。
俺とカグヤは、なんとなく顔を見合わせた。
「そういやアイシェラが言ってたな……ホワイトパール王国って、特異種に対する差別がものすごいって」
「……アタシ、キレたらどうしよう」
ホワイトパール王国。ここもけっこうめんどくさそうなところだ。




