森を抜けて、旅をする。
グリーンエメラルド領土を抜け、ホワイトパール王国領へ入った。
日が傾く前に野営をするため、いい感じの川が流れている林の中へ。
馬車を止め、馬を休め、野営の準備……すっごく手慣れてるな。プリムでさえ、捕まえたヘビを華麗にさばいては串に刺している。
みんなでしてきた旅も、けっこうな場数を踏んだ。
俺はナキとテントを組み終えた。
「さて、料理はオレとネコミミちゃんに任せな」
「ネコミミちゃんって言うにゃ。クロネって呼ぶにゃん」
クロネとナキは調理を始め、プリムはシラヌイのブラッシング、アイシェラは馬の毛繕いや蹄の手入れ。俺はカグヤに誘われ、みんなから少し離れた場所で向かい合っていた。
「行くわよ……」
「おう」
カグヤは俺に向かって突っ込んで来た。
そのまま回転、回し蹴り───……俺は受けることなく躱し、カグヤの腹めがけて拳を振るう。
だが、俺の拳はカグヤに躱された。こいつ、身のこなしが先生並みに上手い。
少し距離ができた。
「甲の型、『鉄芯甲』!!」
全身を固め、肘撃ちの体勢でダッシュ。
避けられることを想定していたが、カグヤは避けなかった。
「フンッ!!」
前蹴りで、俺の肘を受け止めた。
でも、俺の『鉄芯甲』のが威力、速度共にある。カグヤは押し負ける……だが、カグヤは押しまけた反動を利用して後方へジャンプ。そこからダッシュし、飛び蹴りを放った。
「神風流、『流星杭』!!」
「───っく」
こいつ、『鉄芯甲』を止めることじゃなくて、速度を落とさせるのが狙いだったのか。『鉄芯甲』の速度が落ち、技の終わりめがけて飛び蹴りを放つとは。
俺は両腕でカグヤの飛び蹴りを防御……だが、威力が凄まじく、背後にたたらを踏む。
カグヤは見逃さなかった。
「神風流、『連撃蹴打』!!
高速の連蹴り。
なかなかやる───……俺は試してみることにした。
「零式創世炎、『SEVENS・FLARE』」
俺の身体が黄金の炎に包まれる。
不思議と温かいんだよな、この炎。
「第一、第二、第三地獄炎、『TRINITY・FIRE』」
「はぁ!?」
俺の身体から、三種類の炎が上がる。
左手から第三地獄炎が上がり大地から板のように土が盛り上がり、それを第二地獄炎が凍らせる。
カグヤの足下が泥化し体制を崩し、第一地獄炎が氷を砕き、礫のようにカグヤに襲い掛かった。
「あいたたたっ!? あっちちちちっ!?」
「ほい、俺の勝ち」
「あっ」
俺は一瞬でカグヤの懐へ潜り込む、胸をポンと叩いた……あ、やべ。
「って、胸触んなっ!!」
「あ、悪い」
カグヤは胸を押さえ後ずさる……しまった。こいつと戦ってると《女》ってこと忘れそうになるんだよな。胸とか足を触ると怒るんだよ。
だが、今日は少し違った。
「……まぁいいわ。それにしてもアンタ、反則じゃないそれ」
「は?」
「その黄金の炎、他の地獄炎も同時に使えるんでしょ?」
「まぁな。かなり面白いぞ」
「ふーん……はぁ、アンタ、やばいくらい強くなったわね」
「そうか?」
「ええ。くやしいけど、今のアタシじゃ勝てないわ」
カグヤは悔しそうに俺を睨む。
でも、カグヤも相当な強さだ。十二使徒レベルだと俺は思う。
「確かにそうかもだけど、お前はかなり強いぞ。お前、俺とずっと一緒に旅してるからな。お前がどういう奴で、どういう攻撃するとか、なんとなくわかる。お前もだろ?」
「まぁね……」
「俺とお前、身体の相性いいしな」
「はぁ!? ななな、何言ってんのアンタ!! かか、身体の相性って」
なんだこいつ。急に赤くなって……わけわからん。身体の相性って、模擬戦やる上での相性って意味だぞ?
カグヤは赤くなったまま、俺を軽く蹴る。
「まぁ……アタシでよければ、とことん付き合ってやるわ。アンタとの決着、まだ付いてないしね」
「おう。頼むぜ、カグヤ」
「ええ……ふふ、なんか変な感じね」
「だな」
カグヤと笑い合う。こいつともすっかり打ち解けた。
たぶん、天使や神との戦いにカグヤの力は必要だ。頼りにしてるぜカグヤ。
◇◇◇◇◇◇
晩飯は、ヘビ料理だった。
満足した俺たちは、水浴びと片付けに分かれる。
俺とナキは片付け、女性陣とシラヌイは水浴びへ。
「覗きたい!! って思わねぇの?」
「なんで?」
「いや、年頃の女のハダカ、見たくねぇの?」
「いやべつに?」
「……枯れてるっていうか、価値観の違いかねぇ? どういう生活してたんだか」
ナキは左右に首を振る。
片付けも終わり、今は二人で焚火を囲んでお茶を飲んでいる。
「ま、それは置いといて。フレア、ホワイトパール王国のこと知ってるか?」
「プリムとアイシェラの故郷だろ?」
「ま、その程度か。いいか、ホワイトパール王国は《特異種》への差別が激しい。オレ、お前、カグヤ、プリムのお嬢ちゃんは気を付けねーとな」
「差別……なんで?」
「ホワイトパール王国は、天使を崇拝してるんだよ。だから、特異種は『天使の血が混ざった出来損ない』って見られるんだ。神聖な天使を汚す存在ってな」
「ふーん」
「とにかく、気を付けようぜ」
特異種への差別。
俺は、俺たちは……身をもって知ることになる。




