BOSS・聖天使教会十二使徒『風』のラーファルエル①
「すっげぇ……」
『くぅん……』
青い空、白い雲、そして……青い海。
白い鳥がニャーニャーと猫みたいに鳴き、群れを作って飛んでいる。
見渡す限りが青い海。そんな中を船は進んでいた……船長の『愛』で浮いてるらしい、この世界には俺の知らない『力』があふれていると実感した。
シラヌイは船の柵に前足をかけ、尻尾をフリフリしている。
「う~ん……風が気持ちいい」
『わぅん』
「シラヌイ、落ちるなよー?」
『わんっ!!』
海沿いの町を出航して一時間。船はのんびりゆったり進んでいた。
船に『帆』とかいう布を張って風の力で進んでるらしい。風ってどこから吹いてるのかな……これも『愛』の力なんだろうか。
すると、プリムが船室からやってきた。
「フレア」
「お、プリム」
「ふふ、風が気持ちいいですね」
「おう。なぁプリム、この風も『愛』の力なのかな?」
「え」
シラヌイを撫でるプリムの手が止まる。
「船長さんがさ、この船が海に浮かぶのは『愛』の力て言ったんだ。じゃあさ、船の帆が風を受けて進むのも『愛』の力なのかなー?」
「え、えと……そ、それは違うような」
「じゃあ、この風はどこから吹いてるんだ? ほら、風も前のほうに吹いてるし、この方向ってブルーサファイア王国だろ? こんな都合のいい風、何かしらの力が働いてると思うんだよなぁ」
「あ、愛ではないと思います……その、愛は」
「愛は?」
「~~~~~~っ!! そ、そういうのはフレアには早いです!!」
「え、なんで?」
「なんでって、その……と、ともかく!! 愛ではありません!!」
「お、おう。わかった」
プリム、めっちゃぷりぷりしてる……プリムがプリプリ、ぷぷっ。
「フレア……なにか下らないこと考えてません?」
「い、いや、そんなことはないぞ?」
「もう……」
プリムはプリプリしたままシラヌイを撫でる。
「あれ、アイシェラは?」
「船長さんとお話ししてます。昔、お世話になったみたいです」
「へぇ~……そういえば、アイシェラのことよく知らねーな」
「アイシェラはホワイトパール王国騎士団長の娘です。末娘ですけど実力は本物で……でも、女だからという理由であまりいい扱いはされなかったみたいです。私の専属騎士になったのも私が末っ子で王族でも発言力も力もなかったからお似合いだと言われたからで……」
「ほほー、苦労してんのな」
「ええ。でもアイシェラは周りの言葉を無視して私に仕えてくれました。ちょっと気持ち悪いようなことも普通にしてましたけど……まさか、王位継承権を放棄した私と一緒に来てくれるとは思ってませんでしたけどね」
気持ち悪いこと……ああ、あの変態的な行動か。
いい話なんだろうけど、プリムに睨まれ痙攣して喜ぶような変態だしなぁ……。
「ま、あいつはプリム大好きの変態。それでいいや」
「そ、それでいいんですか……?」
「それよりさ、いい風だし昼寝でもするか?」
シラヌイを抱いて寝れば気持ちいいかも。
「いい風……ふふ、嬉しいこと言ってくれるね~♪」
ふと、そんな声が聞こえてきた。
俺とプリムが空を見上げると─────なんかいた。
「え、誰?」
「はじめまして、地獄門の呪術師くん」
一言で言うなら、線の細い優男。長い銀髪を束ね、メガネをかけていた。
白を基調としたダサい服を着て浮いている……なんだこいつ?
「近くで見るとかなり若いねぇ。キミ、いくつ?」
「十六」
「うんうん。若いのはいいねぇ♪ そっちの子はホワイトパール王国の第七王女プリマヴェーラだね? 確か暗殺依頼が来てたけど、うちのモーリエがしくじっちゃったんだっけ。天使が失敗するなんて今までなかったからねぇ、依頼自体どうなったかわからないけど、ここで始末しておこうかな?」
「ひっ」
俺はプリムを守るように前に出て、右手に『火乃加具土命』を纏う。
「お、それが地獄炎の魔神器かぁ……呪術師たちの秘宝、なかなか美しいねぇ」
「お前、天使だな? なんだ、喧嘩売ってんのか!? やるなら相手してやる!!」
「おいおい、せっかくだし会話を楽しもうぜ? というかきみ、オレに聞きたいこととかないのかい? その魔神器がなんなのかとか、地獄炎ってなんなのかとか」
「いや別にどうでもいい。炎を出せる、親切な焼き鳥がこれをくれた、それで十分」
「ははは……焼き鳥?」
「おう。で、やんのか?」
と、ここでようやく船から兵士やアイシェラ、船長のエリザベータ中将が出てきた。
手には妙な『筒』を持っている。なんだあれ?
エリザベータ中将が前に出た。
「これはこれは天使様……いったい、どのような御用で?」
「大したことじゃないよ。単なる暇つぶしに来ただけさ。それより、態度がなっちゃいないねぇ……人間が天使に逆らうってことの意味、わかってる?」
「……申し訳ない。我々は天使様の家畜になったつもりはありませんので」
「ふ~ん? はは、『堕天使』が付いてる王国は強気でいいねぇ。そもそも、この世界に平和と秩序をもたらした天使に感謝もしないとは」
「平和と秩序? ふん、呪術師の撲滅後による天使たちの人間管理の間違いだろう? 牧場を作り人間を管理していた頃が懐かしいとでもいうのか?」
「あはは。ちょっとやりすぎだよねぇ~? おかげで天使たちの反乱軍ができちゃって内部分裂、今じゃ『堕天使』とか言われて人間と組んじゃってる……駆逐しなきゃねぇ」
「っ!!」
なんか白熱してるなぁ。
堕天使とか家畜とかどうでもいい。というか、こいつは何しに来たんだ?
「ま、家畜相手に喋るのも楽しいけどね。今日はキミに会いに来たんだ」
「へ? 俺?」
すると、兵士やエリザベータ中将が俺の背後から一斉に『筒』を向ける。
「悪いが、お引き取り願おう……アタシの船、アタシの海に、天使が土足で踏み込むんじゃないよ!!」
「あはは、勇ましいねぇ」
「撃て!!」
轟音と共に、筒から何か出た…………あの、死ぬほどビビったんですけど。
いつの間にかプリムとアイシェラ、ついでにシラヌイは下がってるし……あのさ、一言くらい言ってくれよ。マジで驚いたぞ。
筒から煙がモクモク出てる。筒から出た何かが目の前の天使を直撃したようだ。
「び、びっくりしたぁ……あの、なにそれ?」
「なんだ、銃を知らんのか? 爆発する粉を砲身に詰め、鉛玉を飛ばす武器だ」
「か、かっこいい……欲しいなぁ」
「アタシの部下になるならくれてやるよ」
「え、うーん……悩むな。部下、でも冒険……いやかっこいい」
この武器欲しい。ジュウって言うのか……。
「はは、やめときなよ。こんな武器で天使を傷付けることなんてできないよ」
そんな声が聞こえ、風が舞う。
煙が晴れ、そこには……無傷の天使と、空中で静止する鉛の玉があった。
「おかえし♪」
指をクイッと動かすと、鉛の玉が飛ぶ。
玉は兵士たちの身体に突き刺さり、血しぶきが舞い……兵士たちがバタバタ倒れた。
エリザベータ中将が、脇腹を押さえ脂汗を流す。脇腹からは……血が流れていた。
「っぐ、う……」
「おばさん!!」
「おばさん、言うな……クソ餓鬼」
俺はエリザベータ中将を支える。
目の前の天使はゲラゲラ笑いながら言った。
「あっはっは!! 量産型天使くらいなら倒せたかもしれないけど、十二使徒のオレに傷を付けるには威力が足りないね。人間も少しはマシな武器を持つようになったけど……天使には届かない」
「お前……」
「さ、前座はおしまい。そろそろやろうか?」
「…………」
俺はエリザベータ中将から離れ、樽の影に隠れているアイシェラとプリムに言う。
「プリム、アイシェラ、みんなを頼む」
「フレア!!」
「大丈夫。こいつむかつく……やっつける」
「……任せるぞ」
「おう!!」
俺は甲の型の構えを取る。
天使は、十枚の翼を広げる。するとキラキラしたエメラルドグリーンの風が舞う。
「聖天使教会十二使徒・『風』のラーファルエル。よろしく♪」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前……マジで呪ってやる」
炎と風の戦いが始まった……が、俺はすぐに思い知らされる。




