BOSS・かつて師の友人だった者
ラルゴおじさん。
武器を使うこと、先生並みに強いこと、いっぱい弟子がいること。俺が知ってるのはこのくらいだった。
先生の家でお酒を飲んだり、俺にお酌させたり、俺の作ったおつまみを美味い美味いとモグモグ食べたり……思い出すのは、こんなとことばかりだ。
だから、今初めて知った。
ラルゴおじさんが、こんなに強いなんて。
「鋼の型『九式』───『剣槍扇舞』」
「ッッッ!? っぐ───」
剣、槍を交互に持ち替えての連撃。
その速度、カグヤやラーファルエルなんて比じゃない。今まで戦った誰よりも速かった。
俺は、躱すだけで精一杯。反撃なんてできない。
「っく、くそ、なんで……っがっ!?」
躱す、躱す……だが、槍が腕を、剣が脇腹をこする。
第三地獄炎で大地を燃やし、その鉄分から精製した武器。
俺はこんな使い方しない。これが第三地獄炎の真骨頂。
「どうした? お前の『流転掌』はこんなモンか?」
「っぐぅ……だったら!!」
流転掌や漣で流しきれない。
だったら───全部受ける!!
俺は、ラルゴおじさんの振りかぶる斧を右手で受ける。
「甲の型『極』!! 『金剛夜叉』!!」
「ほう」
バギン!! と、ラルゴおじさんの斧が砕けた。
ほんの一瞬のチャンス。
俺は金剛夜叉を解除し、ラルゴおじさんに接近。そのまま正拳を───。
「甘い。流の型、『漣』」
ラルゴおじさんの武器は地獄炎だけじゃない。
呪闘流の基礎四大行。武器に囚われすぎてラルゴおじさんが使えることを忘れていた……なんてな。
俺の拳。軌道が変わる……だが。
「流の型、『漣返し』!!」
「ぬ!?」
「からの───滅の型、『百花繚乱』!!」
顔面を狙った連撃。
ラルゴおじさんは驚いていた。
このままいけば当たる。
悪いが、遠慮しない。タケジザイテンは偽物とか言ってたが、本物だろうと俺は手加減しない。
ラルゴおじさんは───何故か、苦笑していた。
「───っか、あ!?」
ラルゴおじさんの顔に拳が当たる瞬間、背中に激痛が走った。
拳が逸れる。すると、ラルゴおじさんがカウンターで俺の腹に蹴りを入れる。
「ごっがっ!?」
そのまま吹っ飛び、木に叩きつけられ……俺は血を吐いた。
背中からも血が出ている。
まるで、杭が刺さったような怪我。
「う、そ……だろ」
ラルゴおじさんの傍に、誰かがいた。
真っ黒な長い髪。着ているのは呪道着……肩が見え、胸元まで見えている。
足は長いスカートのような、刺繍の入ったデザインだ……ああ、見たことある。
ラルゴおじさんは言う。
「オレがいるんだ。ったく、予想くらいしとけ」
そして……ラルゴおじさんの隣にいた『女性』が言った。
「ごめんね、フレア」
「……ヴぁ、ヴァジュリ、姉ちゃん」
その女性は、俺の姉みたいな師……ヴァジュリ姉ちゃんだった。
◇◇◇◇◇◇
動けなかった……毒か。
久しぶりに会ったヴァジュリ姉ちゃん。顔色は良く、笑っていた。
俺は、なぜか安心感に包まれていた。
「ヴァジュリ姉ちゃん……身体、大丈夫なの?」
「ええ。神様に造り変えてもらったから。とても元気よ」
「そっか……」
もう、俺の知っているヴァジュリ姉ちゃんじゃなかった。
神に造り変えられた。ラルゴおじさんと同じだ。
すると、上空から巨大な水晶玉が落ちてきた。
水晶玉には座布団が敷かれ、そこに一人の老婆が座っている。
「マンドラ、お婆ちゃん……」
「ヒッヒッヒ。久しいねぇフレア。元気してたかい?」
呪術師の村。最高の預言者のマンドラ婆ちゃん……やっぱり。
呪術師の村で、最高の使い手が三人そろった。
マンドラ婆ちゃんが現れると同時に、いくつもの気配が集まってきた。
その数、七人。
「お、やったか」と、セキドウ。
「あぁ、フレア様……」と、ヒョウカ。
「兄さま、やっほー」と……誰?
「フレア、久しぶり」と、ハクレン。
「ふん……」と、フウゲツ。
「あらら……やっぱりこうなったか」と、オグロ。
「残念ね、ヴァルフレア」と、ジョカ。
暁の呪術師と名乗った呪術師たちが、揃っていた。
全員が、俺を囲むように見ている。
俺は痛む身体を押して立ち上がる……ワケがわからない。でも、負けっぱなしじゃいられない。
「やめておけ」
「えっ」
そして、聞こえた。
懐かしい声だった。
聞き間違えるはずがなかった。
その声は、俺が、俺が間違えるはずがなかった。
後ろから、聞こえてきた。
「あ……」
振り返ると、そこには。
傷だらけの顔、素足に草履、半纏のような呪闘着を着ていた。
俺は、身体が震えるのを感じた。
「せ、せん、せい……」
「ああ……久しぶりだな。フレア」
「先生……先生!!」
タック先生は、笑っていた。
どこか苦笑のような、先生の笑顔。
俺は、目の前の先生に。
『フレア!! 奴は、奴はタックではありません!! 気を付け───』
「フレア。悪いな」
「っ」
一瞬で目の前にきた先生の手が、俺の胸を貫いた。




