BOSS・『──────』
ラルゴおじさん。
俺の師匠であるタック先生の友人。たまに先生の家に来ては酒を飲んでいた。
先生に内緒で武器術の指導をお願いしたところ、『ダメダメ。タックに怒られちまう……でも、お前にオレの武器術教えてやりてぇなぁ』なんてボヤいた。
剣を握ろうとしたところで先生登場。二人して怒られたっけ。
そんなラルゴおじさんが、俺の首に剣を突き付けている。
「ら、ラルゴおじさん……? 噓だ。だって、千年……」
「がっははは。まぁ、呪術師ならわかるだろう? 呪術はヒトを呪う。老いを止める呪いもあるってこった。まぁ、禁術だからおめーは知らねぇだろうがな」
「おじさん……本当に、ラルゴおじさん」
「そうだ。久しぶりだな、フレア」
ラルゴおじさんは、俺に突き付けていた剣を引く。
そして、ようやく向き合った。
鍛え抜かれた身体。黄色い呪道着。逆立った髪の毛に立派な鬚。俺を見る眼はどこか懐かし気で、口元は優しく笑っていた。
間違いなく───俺の知ってるラルゴおじさんだった。
「おじさん……おじさん!!」
「待った。男に抱き着かれる趣味はねーよ。ったく……よくもまぁ」
「へへへ……ところでおじさん、いろいろ聞きたいことが」
「ああ、わかってる」
ラルゴおじさんは、俺に向かって手を差し出す。
「出せ」
「え?」
聞きなれた声で、笑って言った。
「『魔王宝珠』だよ。地獄門の至宝、呪術師の源……お前が持っているんだろ?」
「…………お、おじさん?」
「ああ、お前の魂と同化してるんだっけな。大丈夫、オレらなら引き剥がす術がある。少し痛いし精神崩壊起こしちまうかもしれねぇが……」
「…………」
目の前にいるラルゴおじさんは、何を言っているのか。
すると、次の瞬間。俺の手に黒い十字架が握られる。
『騙されてはいけません!! 老いを止める呪術などありはしない。こいつは……こいつは『アメン・ラー』に造り替えられた人形です!!』
タケジザイテンの声が聞こえた。
ああ、この十字架は、第六地獄炎の魔神器『黒ノ十字架』だ。
ってか、何を言ってるんだ?
「『アメン・ラー』って……天使の神様? え、ラルゴおじさん……?」
「……地獄炎の魔王か。ったく、しょうがねぇなぁ」
ラルゴおじさんの身体が黄色い炎に包まれる。
第三地獄炎───すると、俺の左手に『テラ・ペ・ウェイン』が装備された。
『ぼくの炎……そういうことなんだな! これ、残り火なんだな!』
「え……ま、待て。わけわかんねーよ。どういう」
「フレア。構えな……抵抗くらいはさせてやる」
「ら、ラルゴおじさん……?」
ラルゴおじさんの身体が燃え、地面が燃えた。
すると、大地の土が浮き上がり、様々な武器へ姿を変える。
剣、双剣、斧、槍、土、薙刀、弓、鎖、三節根。合計九つの武器。
大地を燃やし、鉄分から生成した武器。
俺は理解した。以前、ミカちゃんが言っていた『魔九仙』の意味が。
「おじ、さん……」
「ネタばらししてやる。そうだ、オレは生まれ変わったんだよ。神様に身体を造り替えられて、神様のために仕事してる。お前は千年前の戦いの真実を知らねぇよな?……あれは、地獄門に眠る魔王宝珠を奪うための戦争だったんだ」
「え……ミカちゃんは小競り合いだって」
「そう仕組まれてたんだよ。魔王たちも信じたはずだ。まぁ、オレも知らなかったがな」
「どういう……」
「難しい話だからな。知らなくていい……だが、お前の魂と同化した《魔王宝珠》だけは回収しないといけねぇんだ。フレア……一緒に来てくれるか?」
「…………」
すると、右手に籠手が……『火乃加具土命』が装備される。
『相棒。絶対に駄目だ……こいつの言った通り、『アメン・ラー』にいじられてやがる。本人も魂もそのまま、『信じる気持ちや心』に改良を加えられ、肉体も老いないように『黒勾玉』が造り替えてる。どうやら敵は『三柱』の神で間違いねぇ。オレらを求める理由は不明だが、碌なことにならんだろうぜ』
「ラルゴおじさん……っ」
『戦え、相棒。こいつらが地獄炎を使える理由は、『トリウィア』が魔王宝珠との契約に細工したからに違いねぇ。まぁ残り火みてぇなモンだが……それでも、呪術師の操る炎は脅威のはず』
「…………ッ」
俺は構えを取る。
右手の拳を強く握りしめて。
「ラルゴおじさん……よくわかんないけど、この炎を渡しちゃいけない気がする。だから……戦ってでも守るよ」
「そうかい。じゃあ、授業開始だ。呪闘流最強の武器使いラルゴの技、見せてやる」
ラルゴおじさんは剣と槍を掴み、器用にクルクル回転させた。
「呪闘流鋼種皆伝呪術師ラルゴ・デロ・ゴルドラン。いざ、尋常に」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。ラルゴおじさん……ごめん!!」
わけのわからない、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、懐かしく胸が苦しい戦いが始まった。




