龍の宴
宴となった。
浮遊石を中心に櫓を組み、燃やす。
そして、その周りをテラエルフたちが伝統的な衣装を着て舞い、俺たちは上座に座り、ここの領土で作られた野菜や肉の料理をいっぱい食べていた。
俺は、カグヤと一緒に肉を喰っていた。
「うんめぇぇ!! この肉すっげぇうめぇぞ!!」
「あ、それアタシの!! 取らないでよ!!」
「はっはっは。肉はまだまだたくさんある。喧嘩しないで食べてくれ」
エルドラドは、薬酒というテラエルフが作る薬草の酒を飲んでいた。
アイシェラは、テラエルフがお酌する薬酒を飲み上機嫌だ。
「おじょうさまぁ~~~……ああ、柔らかおっぱいぃぃ~~!!」
「きゃぁぁぁぁ!? アイシェラ、何してるの!?」
アイシェラ、プリムの胸に顔をうずめてフガフガしている。
隣に座るクロネは魚に夢中で無視。ナキはというと、テラエルフの美女に囲まれてさらに上機嫌だった。
「お兄さん、いい身体してるわねぇ~」
「そうだろ? 今夜どう? オレのベッドは十人まで寝れるぜ?」
「「「きゃぁ~~っ!」」」
「はっはっは!! さぁさぁ、お嬢さんたちも飲みな。天国へ連れてってやるよ」
ナキはテラエルフの女性を口説きまくっていた。
俺は、肉を食べながらエルドラドに聞く。
「にしても、ほんとすっげぇ明るいよな。今までのエルフはみんな奴隷だったのに」
「ボクがおかしいだけさ。本来、龍人族は他種族を受け入れたりしないよ」
「じゃ、あんたはいいやつなんだな」
「いい奴?……ふふっ、そんなこと言われたの初めてだな」
エルドラドは、薬酒を飲みながら笑う。
俺の隣で肉を喰らうカグヤはまるで聞いていない。立ち上がり、プリムとアイシェラの間にある肉の皿に向かって行った。プリムとアイシェラは……あれ、アイシェラの頭にデカいたんこぶが。どうやら木槌で殴られたようだ。
「戦いは嫌いだ。でも……ボクは強かった。四天王なんて呼ばれて、この地を与えられ、好きにしろと言われて数十年。ボクはボクなりにこの地を統治してきた。でも、ある日知ったんだ……ボク以外の四天王が、エルフや他種族を奴隷のように扱っていることを」
「酷かったぞ。ほんとに」
「……すまない。何度かヴァルトアンデルス様に直訴したんだ。他種族と共存すべきだと。でも、突っぱねられたよ。そういうのはお前の土地でやれってね」
「ふーん」
「だから、ボクはこの地で争いの場にさせない。他の領地もそうだ。いずれ全ての土地をエルフに還し、ヴァルトアンデルス様には他種族との共存、交渉をしてもらおうって。でも……ヴァルトアンデルス様は龍人の中の龍人。他種族と交渉なんてするつもりは絶対にない。だから、ボクは王になろうと思ったんだ」
「ほお」
「でも、王は強い。ボクじゃ歯が立たない。でも……キミたちがいれば」
「そこは問題ない! 俺、めっちゃ強いし」
「ふふ。数日で四天王を三人も倒すなんてね。キミみたいな人間は初めてだよ」
「はっはっは。任せろ任せろ」
俺は薬酒を一気飲み……ぐえ、これ美味しくない。
エルドラドは、俺のコップに薬酒のおかわりを注いだ。
「明日。ボクは本国に向かい王に謁見する。最後にもう一度だけ、全ての領土を返還して他種族との交流の場を設けてもらえないか、説得する」
「真面目だなぁ。ぶん殴ればいいじゃん」
「言ったろ? 争いはしたくない。話し合いでできることなら、話すべきだ」
「へいへい。じゃ、俺たちは?」
「ボクが戻るまでここにいてくれ」
「わかった。じゃ、明日も宴会な!」
「やれやれ。わかったよ」
エルドラドは苦笑し、薬酒を飲み干した。
◇◇◇◇◇◇
翌日。エルドラドは数人の龍人を連れて出て行った。
残された俺等は留守番。エルドラドが戻ってきたら龍人族の王国へ向かう。
俺たちは、エルドラドの家でのんびりお茶を飲んでいた。
「いやー楽しみだな! 今日の宴会と龍人族の王国!」
「どっちだ貴様……それより、昨日の記憶がない。お嬢様、私はお嬢様をお守りできたでしょうか?」
「知らない。アイシェラの馬鹿」
「え……?」
アイシェラは首を傾げる。
ナキは煙草を吸いながら苦笑した。
「アイシェラ。おめーさん、昨日はプリムのお嬢ちゃんに」
「わーわー! 言わなくていいですぅ!」
「うるさいにゃん……それより、今後のことを話しておくにゃん」
『わぅん』
クロネは、シラヌイを撫でながら言う。いつのまにこんな仲良くなったんだ?
「龍人族の王ヴァルトアンデルス。かなりヤバい奴みたいにゃん。強さは十二使徒五人分くらいで、聖天使教会の指導者アルデバロンと引き分けた実力者にゃん」
「アルデバロン……天使っぽくない名前だな」
「……確か、改名したんだっけか」
ナキがそう言うと、クロネがポカンとしていた。
「数百年前だったか? 聖天使教会のトップが改名したんだと。よくわかんねーけど……聖天使同士でいざこざがあったとか。あー、よく知らん」
「う、うちは初耳にゃん……」
「オレも噂程度だ。もう聴くな」
クロネは自分が知らなかったことでショックを受けている。
すると、カグヤが欠伸した。
「そんなことより、エルドラド戻ってきたら殴り込みでしょ? ウズウズするわ」
「その前に、今夜も宴会だぞ! あ、そうだ。せっかくだし狩猟行かね? 美味い肉狩りに行こうぜ!」
「はい! わたしも行きたいです。お世話になったエルフの皆さんにお肉プレゼントしたいです!」
「お嬢様のいるところ我あり。もちろん私も行くぞ」
「お、いいね。森のことならオレに任せな。こう見えてけっこう狩りは好きでね」
「うちも行くにゃん。まぁ暇だし……」
というわけで、全員で狩りに行くことになった。
◇◇◇◇◇◇
さっそく全員で村を出た。
馬車に乗り、近くにいい広場があるというのでピクニックがてら向かう。
天気もいいし、いいピクニック日和だ。
俺とカグヤは、馬車の屋根で仰向けになり空を見上げる。
「いやー……のどかだ」
「そうね~……龍人族の王様に喧嘩売りに行くとは思えないわ」
「だなぁ……くぁ~あ、眠い」
「寝ていいわよ。アタシが獲物全部いただくから」
「は、冗談」
軽口を叩きあい、なんとなく笑っていた。
プリムとクロネが窓から顔を出し、アイシェラとナキは御者席でお喋り。シラヌイはプリムの傍で昼寝……いやー、まさに『旅』って感じだ。
この辺りの森は木々が閑散としているので、日の光がよく当たる。
俺は空を見上げていた。
「───ん?」
そして、気付いた。
一匹の巨大なドラゴンが、空を飛んでいた。
「お、見ろよカグヤ、ドラゴ───」
と───……ドラゴンを指さした瞬間。
『ゴァァァァァァァァァァァァッ!!』
ドラゴンは、巨大な炎を吐いた。
いきなりだった。
炎は、どこを狙ったのか。
俺たちの後方だった。
そこにあったのは、浮遊石……そして、テラエルフの村。
「───おい、まさか」
「アイシェラ!! 戻れ!! まさか……まさか!!」
ナキが叫ぶ。
アイシェラは硬直し、ナキは手綱を強引に奪った。
プリムは茫然とし、クロネが窓から飛び出す。
「先行くにゃん」
それだけ言って消えた。恐るべきスピードだった。
俺も無意識に飛び出した。
カグヤが飛び出そうとしたが手で制する。
「───頼む」
「……うん」
俺は全力で走った。
同時に……臭ってきた。肉の焼ける匂い。木々が燃える匂い。
嫌な予感が止まらない。
そして、村に到着───そこは、地獄と化していた。
「……………………噓、だろ」
「……ひどい、にゃん」
クロネがへたり込んでいた。
そこには、黒い地獄しかなかった。
人のような何かが転がり、家屋は全て焼けていた。炎の威力がすさまじく、燃えたのは一瞬……一瞬で焼き尽くし、何も残らなかった。
プリムたちの馬車が到着した。アイシェラとナキは蒼白になり、カグヤは馬車のカーテンを押さえ開かないようにしていた。
「……………………」
俺の背中は冷えていた。
そして、背中から緑色の炎が爆発的に燃え上がる。
ぷつんと、何かが切れたような気がした。
「あ、の……クソドラゴンがァァァァァァーーーーーーッ!!」
怒りのまま叫び、俺は全力で空を飛んだ。




