天龍の話
エルドラドの元へ、全員で向かった。
俺が正面。アイシェラがプリムを守り、ナキとクロネが周囲を警戒、シラヌイは鼻をピクピクさせ、俺に頭を叩かれ不機嫌なカグヤは俺を睨んでいた。
エルドラドは、苦笑する。
「警戒するのもわかる。だが……殺気だけは向けないでほしい。ボクも、ボクの部下たちも敵意はない。テラエルフたちが怯えてしまう」
「わかった。ナキ、クロネ、やめておけ」
「……でもよ」
「……うち、シラヌイと離れて警戒してるにゃん」
『くぅーん』
クロネはシラヌイと一緒に距離を取る。いざという場合に逃げられるようにだ。
エルドラドは苦笑したまま歩きだす。
浮遊石地帯の村は、テラエルフや龍人たちが多くいた。
「お、エルドラド様。果物食べてくか?」
「お客さんかい?」「エルドラドさまーっ!」
「エルドラド様。お疲れ様です」
そんな声ばかりだ。
プリムは、思わずこぼす。
「平和です……ここ、悪意がありません」
「それはどうも」
エルドラドの微笑みにプリムは頬を染め、アイシェラが本気で睨んでいた。
そして、一軒の簡素な家に到着。木造の平屋だ。
「ボクの家だ。さぁどうぞ」
「……あんた、四天王なのにこんな狭い家に住んでんの?」
「まぁ、一人暮らしだしね。これでも広いくらいさ」
庶民的すぎる。
中は、暖炉があり椅子テーブルが並んでいる。キッチンはあまり使われた形跡がなく、リビングルーム以外にあるのはベッドルームと洗面台だけのようだ。
エルドラドは、倉庫から椅子の予備を引っ張り出して並べる。
「さ、座ってくれ。お茶を淹れよう」
とりあえず着席……アイシェラがコソコソ言う。
「外に気配がない。見張りも、護衛もいないぞ。本当に奴は龍人で四天王なのか?……どうもそうは思えん」
「俺もそう思う。でも、あいつめっちゃ強いぞ」
「アタシも同感。背中蹴っ飛ばしてやろうと思ったけど、隙なさすぎ」
運ばれてきたのは渋い紅茶だった。
エルドラドは座り、紅茶を啜る。
「……うん、渋い。あはは、また失敗しちゃったよ」
「あっはっは」
「あっはっは……じゃないにゃん。そろそろ、話を聞かせてもらうにゃん」
「そうだな。オレも気になるぜ、なんでここはこうも平和なんだ?」
笑う俺を押しのけるように、クロネとナキが言う。
エルドラドは、紅茶を飲み干して静かにカップを置き、話し始めた。
「まず最初に。ボクは争いが嫌いだ。愚かとすら感じている……まぁ、こんな考えだけど、そこそこ強かったから四天王なんてやってるけどね」
「で?」
「だから、ボクの管理する領地では戦いは厳禁だ。正直、エルフと争うのも嫌だ。平和的に、互いに手を取り合う道がある、そう信じている」
「……へぇ」
ナキは煙管を取り出す。すると、エルドラドは灰皿を出した。
「謀反を起こすことも考えた。でも……ボク一人で四天王を三人倒しても、龍王様には負ける。戦いを挑むなら万全の状態がいい。だから……きみたちのような、四天王を倒せる力を持つ者を待っていた」
「…………で?」
「頼む。ボクと一緒に、龍王ヴァルトアンデルスを倒してくれ」
エルドラドは頭を下げた。
すると、クロネが言う。
「危険にゃん」
「……」
「残りの四天王はこいつ一人。王様を倒したら?……次の王がお前になる。話が上手すぎるにゃん」
「確かにその通り。でも……勝つには、これしかないんだ。それに、きみたちが四天王を三人倒したおかげで、龍王は気が立っている。ボクに命令してエルフの全領地を統一させ、報復にエルフという種族そのものを絶滅させることだってありえるんだ……時間がない」
「わかった。じゃあ一緒に戦おうぜ」
「頼む!! 都合がいいのはわかってる。でも……え?」
「おいフレア!! 慎重になれ。こいつの気分次第で、テラエルフが人質になる可能性だってある。この家が完全に包囲されることだって」
ナキが俺に怒鳴る。だが、俺はなんとなく確信していた。
「こいつ、嘘ついてないと思う。だって、目が優しいぞ」
「……あの、わたしもそう思います」
プリムも挙手した。
そして、エルドラドの目を見て言う。
「フレアの言う通りです。この方、すっごく優しい目をしています……信じられます」
「お嬢様……そうですね。お嬢様がそう言うなら」
「い、いいのかにゃん!?」
「ああ。お嬢様は幼少期より、大人の悪意というものを見てきた。そういう輩は、どんなに隠そうとしても、目には映る……ドス黒く、濁った眼がな」
「うん。でも、この方には優しさがあふれてる。お聞きします。あなたの目指すものは?」
「……自由だ。争いを完全にはなくせない。だったら、誇り高く、自由に生きるべき。これがボクの龍人としての考えだ」
「……ふふ、やっぱり信じれます」
俺も信じれた。
エルドラド。こいつは、嘘を付くような奴じゃない。
すると、諦めたのかクロネとナキがため息を吐いた。
「はぁ……ったく、甘ちゃん野郎め」
「とりあえず、うちは少しだけ気を抜くにゃん」
「ねぇねぇ、お腹減ったわ。お菓子くらい出しなさいよー」
『わうーん』
カグヤとシラヌイは聞いてすらいなかった。
エルドラド。今度は苦笑じゃなく笑顔を浮かべる。
「よし。今夜は宴にしよう! 客人をもてなすために盛大にね!」
「お、いいね! メシいっぱい頼むぜ!」
「はいはーい! アタシ肉がいい!」
『わおーん!』
「ふ、フレアにカグヤ、失礼ですよ!」
「お嬢様。馬鹿は放っておきましょう」
「はぁ~……こいつらと一緒だとおかしくなりそうだぜ」
「同感にゃん……でも、なんか悪い気しないにゃん」
こうして、この日は宴となった。




