浮遊石地帯の龍
毒龍ヴェノムスネークを討伐した俺たちは、最後のエルフ領土である『浮遊石地帯』へ向かった。
嬉しいことに、毒の森からけっこう近い。
毒の森を抜け、木々が明るい色になり、馬車の窓を開けたプリムが言う。
「はぁ~……空気が美味しいです」
「そーね。辛気臭い森とおさらばよ」
「にゃん。もうあそこに入りたくないにゃん……」
カグヤとクロネも窓から身を乗り出して言う。
俺はシラヌイを撫でながら馬車の屋根に寝転がった。
「ふぁ~あ。ようやくいい日差しが差し込んできたわ……眠くなってきたぞ」
「じゃ、少し寝とけ。オレが周囲を警戒してやっからよ」
「お、悪いな。さすがナキ」
「さすがの意味がわかんねぇよ……アイシェラ、隣いいか?」
「構わんぞ」
ナキはアイシェラの隣に座り、煙草をふかし始めた。
アイシェラは手綱を強く握り、ナキに言う。
「ナキ。『浮遊石地帯』だが……」
「ああ。エルフの神が祀られてる。オレもガキの頃に一度だけ行ったな……もう何百年前のことだから覚えちゃいねぇが」
「そこに最後の四天王がいるのだな」
「ああ。確か浮遊石地帯には、神に仕える神聖なテラエルフがいたはずだ」
「……テラ、エルフ?」
「エルフの神『テラーロアー』に仕える聖なるエルフだ。ま、見た目はそんなに変わんねーから、人間は『エルフ』って認識でいいぜ」
ナキは煙を吐く。
そういえば、ナキってエルフだけど普通とは違うのかな?
俺は馬車から身を乗り出す。
「そーいや、ナキってエルフだよな?」
「まーな。人とエルフの混血、ハーフエルフだ」
「じゃあ、『森人』ってのは?」
「そりゃ冒険者が勝手につけた二つ名だ。ったく、センスねぇなぁ……もっとカッコいいのなかったのかねぇ?」
「ははは。俺はカッコいいと思うぞ。なぁみんな」
俺は馬車から身を乗り出してるプリムたちに言う。
「か、カッコいいと思います!」とプリム。
「どーでもいい」とカグヤ。
「うちもどーでもいいにゃん」とクロネ。
つまり、みんなどうでもよかった。
ナキは苦笑し、アイシェラはクスクス笑う。
俺もつられて笑ってしまった。やっぱり、男の仲間がいるっていいな。
「なぁナキ、マジでこの騒動終わったら一緒に冒険しようぜ」
「……それもいいかもな」
ナキは、ニヤッと白い歯を見せながら笑った。
◇◇◇◇◇◇
それから二日。
到着したのは、『浮遊石地帯』の名の通り、石が浮かんでいる変なところだった。
大きな岩が何個か浮いてる。そして、その周りを囲うように村みたいなのがあった。
そして、驚いたのは……すんなりと村に入れたこと。
そして、目の前にいるイケメンだった。
「ようこそ参られた。遠い国の客人たち」
スタイル抜群のイケメンだ。
サラサラの金髪。シンプルなシャツとズボン。イケメン顔にさわやか笑顔。
イケメンは、馬車が到着するなり俺たちを出迎えた。
俺はアイシェラとナキに目配せし、一人で馬車から降りる。カグヤが寝ててよかった……あいつが起きるとめんどくさそうだしな。
イケメンは、俺に向かって頭を下げた。
「ボクは『天龍エルドラド』……このエルフの地域を任された龍人だ」
「は?」
「戦う意志はない。部下も十人しかいない。どうか話を聞いてくれないか」
「……はい?」
天龍エルドラドと名乗ったイケメン龍人は、両手を上げて降伏する。
すると───どこに隠れていたのか、濃い緑色の髪をした少年少女が、エルドラドに突っ込んだ。
「どっかーん!」「えいやーっ!」
「うわわっ!? こ、こらこらレイク、アイコ、大事な話の最中だから出てくるなと」
「えっへへ、エルドラド兄ちゃん、遊んでくれるって言ったじゃん!」
「そうよそうよ!」
「う、うう。悪かった悪かった。後で遊ぶから」
「ほんと~?……あ、お客さんだ!」
「ほんとだ! 逃げろーっ!」
少年と少女は笑いながら逃げ出した……え、なにこれ?
エルドラドは、苦笑しながら言う。
「すまない。ここの子供たちは元気の塊でね……どうも相手をするのに体力がいる」
「……今の」
「ああ。テラエルフさ」
「……エルフは奴隷じゃないのかよ?」
「ボクは他の四天王とは違う。そのあたりを含め、話を聞いてほしい」
「…………」
「この地はエルフ族に返還する。ボクは待っていたんだ。キミたちのような存在が来てくれることを」
「…………わかった」
俺は構えを解く。
エルドラドはにっこり笑い、俺に握手を求めてきた。
「ありがとう……」
「ん、ああ……正直、まだ混乱してるけどな」
握手に応じ───気付いた。
こいつ、めちゃくちゃ強い。凱龍のおっさんよりも、毒龍のホウキ野郎よりも。
圧倒的な力が循環している。でも……闘う意志みたいなのが全く感じられなかった。
「わかってくれたかな?」
「ああ。お前、もしかしていい奴?」
「ははは。それはどうかな?……きみと、きみの仲間が見極めてくれたらいい」
「……わかった」
手を離し、俺は馬車へ戻る。
アイシェラ、ナキ、プリム、クロネがずっとこちらを見ていた。
「ど、どうしたんですか?」
「あいつ、戦う意志はないって。ってか、ここめっちゃ平和そうだぞ」
「……どういうことにゃん?」
「知らん。まずは話がしたいって」
「大丈夫なのか? お嬢様に不埒な真似をする輩が潜んでいるかもしれん」
「それはアイシェラでしょ」
「あっふぅん!!」
「……とりあえず、話を聞いてみようじゃねぇか」
ナキが緊張気味に言い、馬車を降りた。
プリムたちも馬車を降りる。
俺は寝ているカグヤの頭を軽く叩いた。
「ほにゃっ……んん~? なになに」
「着いたぞ。降りろ」
「戦うの~?」
「戦わない。ほら、降りろ。脇くすぐるぞ」
「いやぁ~……んんん」
寝ぼけカグヤの頭を強めに叩き、俺は馬車を降りた。
さて、わけわからんが……どうなるのかな。




