BOSS・闘龍四天王『毒龍』ヴェノムスネーク③
「だりゃぁぁぁっ!!」
それは、聞き覚えのある叫び。
そいつは、俺を狙っていた蛇族を蹴り飛ばした。
流星のような飛び蹴りを喰らった蛇族は吹っ飛び、俺の隣で着地した奴は構えを取る。
「やっほー、楽しそうじゃん」
「このアホ!! 狙うのはあの気味悪いホウキ野郎だけだ。残りの連中は気絶させるだけにしろ!!」
「アンタ、助けてやったのにいきなり命令? つーか」
「いいから言う通りにしろ!!」
「……わかったわよ」
けっこう強い口調で言ったおかげで、カグヤは渋々了承した。
カグヤがきたおかげで背中を気にする必要がなくなった。
俺はホウキ野郎を睨む。
「カグヤ、あいつは俺がやる。いいか、周りの連中をやりすぎんなよ!!」
「あ、ズルい!!」
俺は背中から第五地獄炎を噴射させ、この場から飛んだ。
そして、ホウキ野郎の前まで一気に飛ぶ。けっこうな速さのおかげで、龍人たちも反応できなかった。
向かい合う俺とホウキ野郎。
「よう。クソ腰抜け野郎、遊ぼうぜ」
「……チッ」
ホウキ野郎は舌打ちする。
忌々しげに俺を睨むと、ひょろりと立ちあがる……そして気付いた。
こいつ、腕が異常なくらい長い。そして。
「───ッ!?」
腕が鞭のようにしなり、俺の顔面すれすれを狙って飛んできた。
辛うじて躱し、お返しを食らわせた。
緑色の炎が塊となりホウキ野郎の座っていた柱を破壊する。
俺とホウキ野郎は着地し、向かい合う。
「闘龍四天王『毒龍』ヴェノムスネーク。キッシッシッシ……毒は好きか?」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前、毒よりキツイ呪い喰らったことあるか?」
三人目の四天王。この野郎は速攻で潰してやる!!
◇◇◇◇◇◇
俺は四肢を燃やし、ホウキ野郎に向かう。
「甲の型、『撃震』!!」
身体を硬直させた突進。
だが、ホウキ野郎はするりと躱す……こいつやっぱり速い。
俺も本気の速度でやる。
「シャァァァァァッ!!」
「甲の型、『鉄丸』!!」
と、想ったが……ホウキ野郎の両腕が鞭のようにしなり、俺の接近を許さない。
全身に『硬くなれ』の呪いを掛けて耐える。ヘタに躱して体力を消費するより、打たれて耐えた方がダメージは少ない……すくな、い?
「───……っ? あ、あれ」
「キシシシ……」
身体がふら付いた。
おかしい。なんか……頭がボンヤリ。
「シャァァァァァッ!!」
「ぐあぁつ!? いっでぇ!?」
鞭のような手が俺の脇腹に突き刺さる。
血こそ出なかったが、一瞬だけ呼吸が止まった。
ホウキ野郎の武器は手刀。それも、関節を外して伸びる腕をしならせ、変幻自在の技になっている。
さらに、この霞がかったような眩暈……間違いない。
俺は距離を取り、確認した。
「これ、毒か……!!」
「キーッシッシッシ!! そうさ、オレの身体からは常に毒が放出されてる。神経麻痺の猛毒だ!! いくらテメェに毒が効きにくくても、こんだけ接近すれば少しは効くだろう?」
「……ッ」
俺は口を押える。だが、ホウキ野郎は嗤うだけだった……くそ、ヤバいな。
俺に毒は効かない。じゃなくて、効きにくいだけだ。けっこうな量の毒を吸い込んでしまった。厄介なのは、このホウキ野郎の毒が色も香りもしないってことだ。
「さらに、オレはオレの望む毒を自在に作りだせる。こいつらを服従させる毒。家族を侵す遅効性の毒。即死させる毒も自由自在……キシシ、小僧、オレは四天王最強、毒龍だ。お前みたいなガキがどうこうできる相手じゃねーんだよ!!」
だらりと垂れた腕。そして毒……やっばい。こいつ強敵だ。
決して舐めていたわけではない。だが……心の中で、龍人族を軽視していた自分がいる。
油断───まだまだ修行が足りない。
「こうなったら……!!」
口を押えていた手を外し、毒に侵される覚悟で戦う。
さすがの俺でも呼吸しないと死ぬ。この一帯がどこまで毒に侵されているかわからない。でも……これ以上、ここにいる連中とは戦いたくなかった。
すると、ホウキ野郎の口が大きく裂けた。
「フシャァァァ~~~~~~ッ!! キシシシ、絶望はまだ始まったばかりだぜぇ?」
「ッ!?……っぐ、う」
ホウキ野郎は、毒ガスを吐いた。
色は白。霧っぽい煙が周囲を包み込み、辺りの種族や龍人たちが苦し気に呻き始めた。
そしてカグヤ。
「っぐ、あっが……な、なに、これ」
「カグヤ、息止めろ!! 毒だ!!」
「う、っぐ……」
カグヤは喉を押さえ蹲ってしまった。
俺は舌打ちし、カグヤの元へ。
「おい、しっかりしろ!! 息止めろ!!」
「ッ、っ……」
「くそっ!!」
カグヤの顔色が急激に悪くなっていく。
この毒、やばい。今までの比じゃない。
俺は応急処置をするため、カグヤの顔を押さえそのまま思いっきり口付けした。
「!?!?!?!?」
カグヤの目の色が変わる。だが無視。
俺はそのままカグヤに息を注ぎ込む。
「っぷは、そのまま息止めてろ!!」
「…………」
カグヤは口を押さえ、それを確認する間もなく俺はホウキ野郎へ視線を向け……ホウキ野郎が、巨大な蛇のような姿になっているのに気付いた。
これは、グレンデルと同じだ。これが龍人としての本気……こうなったら。
俺は右腕に魔神器を出現させようとした。
『やめときな。キシシシシ、この煙は揮発性……爆発するぜ?』
「!?」
全てが上手だった。
認めざるを得ない……甘かった。
どうするか……ほんの一瞬だけ悩んだ瞬間。
「大丈夫です!!」
「え」
「フレア、ここはわたしが!!」
「ぷ、プリム!? おいお前、なんで」
「大丈夫。わたしに任せてください!! アイシェラ、守ってね!!」
「この命に賭けても!!」
ブルーパンサーを装備したアイシェラがプリムを守るために前へ。
プリムは両手を組み、祈りを捧げるような体勢に。
『あぁん? なんだお前』
「お願いします。『水』の天使ガブリエル、『癒』の天使ジブリール……わたしに力を」
プリムの右手が青く、左手が白く輝き、手を合わせたことで青と白が混ざり合う。
なんともまぁ、神々しい。
ホウキ野郎はようやく気付いた。
『こいつ……半天使か!! しかもこの感じ、癒しの天使だと!? あの『破戒天使ガブリエル』と『滅亡天使ジブリール』の力か!? やべぇ!!』
ホウキ野郎はプリムに迫る。
だが、アイシェラが突撃槍をぶん投げると、ホウキ野郎の目の前の地面に突き刺さる。
「お嬢様には近づけさせん!!」
『この野郎……オレの毒が効いてねぇのか!?』
「フン。完全に無毒化とはいかんがな。このブルーパンサーの仮面には防毒マスクも付与している」
『チッ!!』
そして、プリムの祈りが完成した。
両手を広げると、青と白……水色の光が、毒の煙を消し去った。
そして、光が俺たちを包み込むと、気だるさが消える。
「毒、消えた?」
「あ、ホントだ……」
俺とカグヤだけじゃない。
倒れていた龍人たちや種族たちの毒も消えた。
そして……大汗をかいたプリムは、そのまま倒れてしまった。
「お嬢様!! ええいフレア、後は任せる!!」
「おう!! 毒さえ消えればこっちのモンだ!!」
俺はアイシェラと入れ替わるようにホウキ野郎の前へ
『ちっくしょう!! だったらもう一度……』
「させるかよ!! 第一地獄炎魔人解放!!」
俺の背後に炎の鎧巨人が現れ、一瞬でホウキ野郎に接近。
そのまま、超強烈なアッパーカットを繰り出し、ホウキ野郎は遥か上空に吹き飛ばされた。
大蛇のまま空に打ち上げられたホウキ野郎は、びちびちと動く。
俺は背中から第五地獄炎を噴射させ、一気に飛び上がる。
上空二百メートルくらいまで上昇し、ホウキ野郎と向き合った。
『っぐ、がぁ……この、野郎』
「お前には真の毒を食らわせてやる」
背中の炎が、爆発的に燃え上がり……一匹の、気持ち悪すぎる蟲になる。
「第五地獄炎魔蟲招来!! 『死屍累々毒蟲翅』!!」
魔神器『蟲翅』がさらに凶悪になった第五地獄炎の最終奥義。
濃い深緑色の煙がムカデのような形になり、ホウキ野郎に巻き付いた。
『ひっッぎぃぃぃぃぃぃやァァァァァァァァァァ!?』
ジュワジュワと生きたまま溶けていく。
この炎、『相手がもっとも苦しむ猛毒を自動で選別、喰らわせ、なるべく長めに苦しませてから殺す』技なのだ……えげつない。
地面に激突することなく、ホウキ野郎は溶けて消えた。
俺は着地し、勝利宣言する。
「押忍!!」
こうして、四天王の三人目を撃破した。




