一方、そのころ(?????)
龍帝国ドラゴンキングダムの郊外に、そのダンジョンはあった。
三大ダンジョンの一つに、二人の人影。
一人は、蒼い髪をまとめて簪を差し、水色の着物を優雅に着こなした少女。もう一人は、上下真っ黒の呪道着を身に付けた、どこか顔色の悪い男だった。
青い少女は、手に一冊の「本」を持っている。
「これがダンジョンの秘宝……ふぅむ、綺麗な字ですわねぇ」
「だ、だ、だ、だめだよヒョウカ。勝手に読んじゃあ……そそ、それ、日記でしょ?」
「うるさいわね。少しめくっただけで読んでないわよ。それよりオグロ、ここに呪術師ヴァルフレアがいるって本当かしら?」
青い少女はヒョウカ。顔色の悪い男はオグロと言った。
オグロはウンウン頷く。
「う、うん。セキドウとフウゲツが言ってたから間違いないよ。あ、せ、接触はしちゃダメだって。ヴァルフレアはもう少しで完成するからって」
「ふぅん……」
ヒョウカは胸元から扇子を取り出して広げる。
青と白を基調とし、氷の結晶が描かれた美しい扇子だった。
ヒョウカは口元を隠すようにして嗤う。
「少しだけ……見てみない?」
「え」
「ふふ。面白そうじゃない。千年前の呪術師ヴァルフレア。七つの地獄炎を継承した最後の呪術師。そして……我々『暁の呪術師』の、最も重要なコマ」
「……え、行くの?」
「ええ。大丈夫よ。セキドウやフウゲツ、ジョカやハクレンも接触したのでしょう? ハイシャオとわらわたちだけ話もできないのはねぇ」
「えぇ~……ぼくは帰りたいよ。ダンジョン探索疲れたし」
「うるさいわね。さぁ、行きますわよ」
と、ヒョウカは歩きだし、オグロがトボトボ後を付いて歩きだした。
「ま、待て……」
だが、二人を止める声が地面から聞こえた。
正確には地面ではない。
ズタズタに身体を引き裂かれ、身体中が『黒い炎』で包まれた龍人族の男だった。
ヒョウカとオグロは振り返る。
「き、貴様、ら……一体、何が、目的、だ」
「あら、まだ生きてたの。オグロ、呪いが足りないのではなくて?」
「いやぁ、龍人族って呪いが効きにくいんだよ……というか、ぼくにばっかり働かせて、ヒョウカなんにもしてないじゃん……」
「何か言いまして?」
「い、いえ。なんでも」
じろりと睨むヒョウカ。オグロはそっぽ向いた。
龍人族の男は、血塗れの状態だ。
黒い炎に阻害され傷が修復されない。本来、呪術は龍人族には効かないはずなのだが、オグロの炎は龍人族の身体を蝕んでいた。
ヒョウカは、仕方なしと手をかざす。
「冰の型、『凍蓮華』」
地面から氷柱がせり上がり、龍人族の身体が浮かぶ。
氷柱が龍人族の身体を一瞬で氷結させた。ヒョウカは流れるように龍人族に接近し、掌打を当てる。すると、凍り付いた龍人族の身体が粉々に砕け散った。
ヒョウカは手を払い、オグロに言う。
「あなたも、念のためやっておきなさいな」
「はいはい……」
オグロが目を向けたのは、地面に転がる数十人の龍人族たち。
このダンジョンを管理していた龍人族だが、ダンジョンの秘宝を回収しにきたヒョウカとオグロに返り討ちにあった。
オグロは、両手を合わせ地面に叩き付ける。
「闇の型、『仄暗い黒炎』」
黒炎が大地を覆いつくし、龍人族の身体が燃える。
身体を燃やすのではなく、傷を燃やし苦しめる呪いの炎だ。地獄の苦しみだが、龍人族たちはピクリとも動かない。どうやら完全に死んでいるようだった。
「ん、大丈夫かな」
「そう。では、参りましょうか」
「えー……ほんとに行くのかい?」
「ええ。さ、グズグズしていると置いていきますわよ」
「はいはい……はぁ」
歩きだしたヒョウカを追い、オグロはため息を吐きながら歩きだした。
◇◇◇◇◇◇
「やっべぇ~~~……なんだありゃ。呪術師、だよなぁぁ?」
この戦いを見ていたものがいた。
気配を隠し、身を隠し、心臓の鼓動すら隠しきった男。
逆立った虹色の髪、ピアスまみれの顔に上半身裸でローブを纏った男は、隠れていた木の影からそーっと顔をのぞかせる。
聖天使教会十二使徒『音』のハドラエルは、アルデバロンの命令で『暁の呪術師』たちを捜索し、グリーンエメラルド領土に入ったという情報を掴んで、ようやく見つけたのだ。
そして、二人はダンジョンに入り、お宝の『本』を回収して去って行った。
「フゥゥ~~、ありゃヤバい。関わったらヤバめだぜ。それに、なんか怪しい匂いがプンプンしやがる……昔戦った呪術師みてぇな、ヤバい匂い」
ハドラエルはごくりと唾を飲み、その場から離れようとする。
「アルデバロンの旦那に報告して、この一件から手を引くゼ。な~んか嫌な『音』がしやがる。オレっちは関わらず、観客に徹して───」
ぴゅん、と音がした。
何かが横切ったような、軽い音だった。
「───あぁん?」
視界が急に低くなった。
ぼんやりと目がかすみ、身体が動かない。
そして、身体が動かない理由が分かった。
ハドラエルの目の前に、首のない身体……自分の身体があったのだ。
「ホォウ! あれ、オレッちのか、ら」
視界が黒くなり、ハドラエルは死亡した。
最後に見えたのは……決してあり得ない、幻覚のような『何か』だった。
『悪いな。天使に邪魔されるワケにはいかねーんだ』
見覚えがある、誰か、だれだったか?
「───…………」
聖天使教会十二使徒『音』のハドラエルは、自分が見た『誰か』を思い出すことなく死亡した。




