蛇の村
蛇族のシェザは、突如として村を襲った龍人族から、命からがら逃げてきたことをカグヤたちに説明した。どうやら、四天王が二人陥落したことは、思った以上に龍人族に影響を与えていた。
ナキは煙管を吸い、煙を吐く。
「ふぅーーーーーー……っ、なるほどね。お嬢ちゃんの村が龍人族に」
「はい……蛇族の戦士はみんな連れて行かれて、村は龍人族に乗っ取られました。村のみんなは戦士たちの家族ばかりで……あたしの両親も」
「なるほど。つまり人質……いや、蛇質か」
アイシェラが言うと、シェザは俯いてしまう。
カグヤは大きな欠伸をしながら言う。
「くぁぁ~~~……じゃあさ、シェザの村行って龍人族ブチのめしましょうよ。そっちのが面白……じゃなくて、そうすればシェザの両親も龍人族に従う理由ないじゃん?」
「一瞬本音が漏れるあたりお前らしいな。でも、悪くねぇ……カグヤ、お前の強さなら龍人族相手でも問題ない」
「もち! ふふふ、ようやく楽しめそうね」
「ま、待ってください! だ、だめですよ……村を占拠している龍人族は、『毒龍ヴェノムスネーク』の側近の」
「あーあーあー、いい、言わなくていい。そんなことより、明日はアンタの村に行くから案内よろしくね」
「え……」
「こういう奴だ。まったく……ナキ、お前もいいんだな?」
アイシェラが最終確認すると、ナキがニヤリと笑う。
「当然だ。言っとくが、オレは弱いわけじゃねぇ。今までは多勢に無勢だったから戦わなかっただけだ。その気になりゃ、龍人族の三人や四人、相手できる」
「頼もしいな。では……明日はシェザの村に行こう」
「え、えぇ……ほ、本気なの?」
シェザはオロオロしていたが、結局疲れたのかぐっすり寝てしまった。
その日、ナキとアイシェラは交代で見張りをしていた。
カグヤは龍人族との戦いで筆頭戦力となる。今日は見張りをさせず、ゆっくり休ませることにした。
「やれやれ。カグヤの無鉄砲なところはフレアにそっくりだな」
「同感だ……ところで、聞いてもいいか?」
ナキは煙草をふかし、アイシェラに質問する。
なぜかニヤニヤしているような気がした。
「お前ら、男が一人、女が四人で旅してたんだろ?……何か面白いことはなかったのか?」
「……何を期待している」
「ま、長生き爺さんの暇つぶしさ。アイシェラ、お前はフレアのことどう思ってる?」
「無礼者で恥知らず、羞恥心の薄い男……」
「ひっでぇな……」
「というのは、昔の評価だ。今は違う……あいつは、どんな相手でも怯まない、強い男だ」
「ほぉ、惚れたのか?」
「私が愛しているのはお嬢様だけだ」
「……まぁ、お前みたいな奴は何人か見てきた。女好きの女、でもよ……そういう奴に限って、男に惚れたらどこまでも突っ走る」
「安心しろ、それはあり得ん」
「そうかい。じゃあ、プリムはどうだ? クロネ、カグヤは?」
「……お嬢様は間違いなく惹かれている。あいつの自由さはお嬢様の憧れそのものだ。それが愛情に変わり、恋に変わるのもそう遠くない。クロネは……自覚しているのかわからんが、撫でられると気持ちよさそうに鳴く。私やお嬢様ではああならん。カグヤは、フレアを認めている。仲間として、ライバルとしてな。もしかしたら、カグヤが一番フレアを気に入ってるかもしれんな」
「よーく見てることで」
煙草を消し、煙管をしまう。
なんとなく聞いてみたが、なかなか面白い話だった。
「ま、人の一生は短い……後悔しないような、燃えるような恋をするのをおススメするね」
「そうだな。少なくとも、お嬢様に後悔はしてほしくない」
「お前さんもな」
「……ナキ、そういうお前はどうなんだ?」
「あぁ。オレは二百年くらい前に結婚したんだ。今は離婚してるが、もう結婚生活はこりごりだね」
「……お前の話のが気になるぞ」
結局、二人は徹夜で語り合っていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
なぜか眠そうなアイシェラとナキを見たカグヤとシェザ。
「二人とも、たるんでるし」
「……何も言ぇねぇな」
「同感だ……」
「あの、大丈夫ですか? 村に案内しますけど……」
シェザは不安そうだったが、カグヤがグッと拳を握る。
「ま、アタシがいれば問題なし。二人が昼寝している間に終わらせるから」
「「…………」」
「じゃ、じゃあ案内しますね」
シェザは、馬車の前を這い出した。
下半身が蛇なので歩く速度とは段違い。なめらかな動きで地面を這う。
シェザには余裕があった。けっこうな速度なのに、まるで疲れがない。
「なるほど。蛇族の戦士は強そうだ」
「だな。這う音もほとんどしない……確か、蛇族は夜目も利くんだったな。夜襲や奇襲をさせたら強そうだぜ」
戦闘訓練などしていない女の子でこれだ。戦士となればさらに違うのだろう。
そんな戦士が、家族を人質に取られ連れて行かれた。
もしかしたら、別ルートのフレアたちと戦うかもしれない。
「急がねば……お嬢様に危機が迫っているかもしれん!!」
アイシェラは白黒号を急がせた。
カグヤは、馬車の屋根でグースカ昼寝をしていた。
そして数時間後……到着した。
「つ、つきました……ここが、わたしの村です」
村から離れた場所に馬車を止めた。
アイシェラは怪訝な顔をする。
「村……ど、どこだ?」
「よく見ろよ。あの穴倉だ。蛇族は洞窟に家を作って住んでるんだよ」
「なるほど……」
確かに、大きな洞窟があった。
カグヤは馬車から降り、その場で跳躍。屈伸をして背伸びする。
「さーて……運動の時間ね」
カグヤがニヤリと笑う。
ナキは少し困ったように、アイシェラはブルーパンサーを起動させた。
「チッ……狭い室内だとやりづらいぜ」
「ブルーパンサー、『実装』」
「『ウェアライズ』」
ブルーパンサーが変形し、アイシェラと合体した。
シェザが驚き、ナキが口笛を吹く。
「よし。作戦を「おーい!! 龍人族、これから喧嘩しに行くからねー!!」……おい、あいつは何やってるんだ」
カグヤは、洞窟に向かって宣戦布告していた。
アイシェラが頭を抱え、ナキは「は?」と口を開け、シェザが青ざめる。
「ななな、あああ、あの、カグヤさんは、なにををををを……!?」
「ああいうやつなんだ……全く。ナキ、来るぞ」
「……オレ、帰りたくなってきた」
「っしゃぁ!! 来たぁ!!」
洞窟の奥から、いくつもの気配が集まってきた。
アイシェラは馬車と白黒号とシェザを守り、ナキが援護、カグヤが前衛というポジションだ。
カグヤは、洞窟に向かって駆け出した。
「何者「神風流、『流星杭』!!」ぶわっがぁ!?」
洞窟から現れた龍人族の顔面に、カグヤの蹴りが直撃した。
鼻血を噴き出し吹っ飛ぶ龍人族。そして、洞窟からワラワラと龍人族が現れた。
その数、実に十人。カグヤはウキウキしながら足を構える。
「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ。龍人族、アタシの足の錆にしてやる!!」
戦いが始まり───……およそ十分で龍人族は全滅した。




