プリムの帰る家
たいしたイベントもなく夜になり、俺たちは宿へ。
夕飯はもう入らない……出店の魚介を食べまくったからな。焼き魚に焼き貝、めっちゃ美味かった……タレを搦めて焼いた魚介は最高です!
俺はプリムとアイシェラの部屋に呼ばれた。
「……なぁ、なんで俺を呼んだ?」
「決まっている。貴様が不埒な真似をしないように監視するためだ」
「いや、別に興味ないし。というか、俺よりあんたのがヤバいんじゃね?」
「なんだと貴様!!」
えー、現在プリムは入浴中。
俺が部屋に呼ばれた理由は、『自分が目の前で見張るので、どうぞ安心して入浴を』とアイシェラが言ったからだ。現に、浴室前のドアにアイシェラはどっかり座り、剣を持って俺を睨む……。
「なぁアイシェラ」
「気安く名を呼ぶな」
「これからどうすんだ? でっかい船に乗ってブルーサファイア王国に行くんだろ?」
「……その前に、ブルーサファイア王国に書状を送る。姫様の婚約者であるブルーサファイア王族第七王子なら、気に食わないが姫様を匿ってくれるはずだ」
「ふーん。大丈夫なのか?」
「ああ。暗殺者クロネが姫様の暗殺成功を報告しても、ブルーサファイア王国に知らせが届くまで時間がかかるはずだ。その間に第七王子に接触して事情を説明し、隠れ家を用意してもらう……そのくらいのことは容易のはずだ」
「ふ~ん……で、そいつは信用できんの?」
「ああ。クソ気に食わんが、第七王子は姫様にゾッコンだ」
「ぞっこん? ぞっこんってなに?」
「…………とても愛しているということだ」
「へぇ~、まぁよくわかんないけど、ブルーサファイア王国に行けば安心ってことだな!!」
「大馬鹿者め……まぁいい。姫様が亡命に成功したらお前はお役御免だ」
「はいはい。ブルーサファイア王国を観光して、ゆっくり世界を回るとするよ……シラヌイ、お前は一緒に来るよな?」
『わんわんっ!!』
シラヌイは俺の周りをグルグル回って吠えた。可愛い奴め。
ブルーサファイア王国まで逃げれば安心。俺はお役御免か……ちょっと寂しいけど仕方ないよな。
「明日、ブルーサファイア王国海軍に書状を届けに行く。非常に気に食わんが……貴様には姫様の護衛を務めてもらう」
「え、いいけど……お前は?」
「書状は私が届けに行く。信用できる馴染みの将校がいるからな」
「はいよ。せっかくだし観光してるよ。町は広いし、面白そうだ」
海沿いの町は広い。出店以外にも面白そうなものはたくさんありそうだ。
すると、アイシェラが歯を食いしばり血の涙を流しながら言う。
「いいか!! 決して不埒な真似はするなよ……た、たた、例えば、けけ、結合とか!!」
「結合……? なんだそれ」
「ううううるさいい!! いいか、姫様のハジメテは私のだ!! お前のようなぽっと出の小僧に奪われてたまるかぁぁぁっ!!」
「いや、いらないし」
「なんだと貴さまぶぐっふぁ!?」
次の瞬間────浴室のドアが開いてアイシェラが木桶でぶん殴られた。
木桶が割れ、プリムがどす黒い殺気の籠った目でアイシェラを見る。
「ぶっ殺すぞテメェ……これ以上喋んじゃねぇ」
「はいぃぃぃぃんんっ!! ふぁぁぁ、姫様の視線が突き刺さるぅぅぅっ!!」
「あのさ、俺もう寝ていい?」
面倒になった俺は一人、シラヌイと一緒に寝床の物置で転がった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。なぜかボコボコのアイシェラを見送り、俺とプリムは町へ。
「なぁなぁ、美味いモノいっぱい食べようぜ」
「はい!! 海産物が有名なブルーサファイア王国には、まだまだ美味しいものがいっぱいありますよ。今日はたくさん案内しちゃいます!!」
「おお!! じゃあ行くぞプリム、シラヌイ!!」
「はい!!」
『わんわんっ!!』
俺とプリムとシラヌイは町を巡る。
昨日に引き続き出店を巡り、魚や貝をたくさん食べる。海産物のスープとか絶品だ。
それ以外に、土産物店を見た。
貝殻の首飾りやアクセサリーがいっぱい売られている。他にも砂を詰めた小瓶とか、海の魔獣の骨とか、魚の干物とかが売られていた。
「お、この干物いいなぁ。日持ちしそうだし、いくつか買ってくれよ」
「はい」
買い物を終え、俺とプリムは飲み物を買って外のベンチに座る。
「はぁ……すっごく楽しいです。こんなの初めて」
「だな。俺もめっちゃ楽しいよ。見るのも触れるのも全部初めてだし、楽しくてしょうがねーよ。世界は広いや!!」
「…………」
「プリム?」
シラヌイがプリムの足下で大きな欠伸をし、プリムはそっと撫でる。
「フレア。フレアの旅はまだまだ続くんですよね……?」
「おう。まずはブルーサファイア王国だな、海に囲まれた島国とかめっちゃ面白そうじゃん!! んで、次は……あ、そういえば俺、地理のことよくわかんねーな」
「……ホワイトパール王国領の隣にはレッドルビー王国領があります」
「レッドルビー!! いいね、冒険の香りがする!!」
「…………」
プリムはなんか悲しそうだ……まさか、食い足りないのか?
「フレア。私……ここまでの旅、すっごく楽しかったです」
「そうか。俺もめっちゃ楽しい」
「もし、もしですよ? 私がフレアと一緒に旅を続けたいって言ったら……」
「いいぞ。一緒に行くか?」
「え」
プリムと一緒。うん、それは面白そうだ。
プリムは目をパチパチさせてる……目がかゆいのかな。まぁいいや。
「俺とシラヌイだけで笑うより、こうしてプリムと一緒に笑い合ったほうがずっと楽しいもんな!! あ、でも婚約者はいいのか? アイシェラがブルーサファイア王国に書状を届けに行っちゃったけど」
「王位継承権を放棄した私はすでに王族ではありません。それに、クロネさんが死亡の報告をすれば、第七王女プリマヴェーラの存在はホワイトパール王国から消える……ここにいるのはただのプリムです」
「ふーん。じゃあさ、ブルーサファイア王国を観光して一緒に旅するか? 帰る家をブルーサファイア王国にして、遊びに出かけるような感覚で一緒に来ればいいじゃん」
「…………ふふっ」
プリムは、おかしそうに笑った。
なんで? 俺、変なこと言ったかな?
「フレアはまっすぐで、すっごく自由です。私、羨ましいです……」
「?????」
「フレア。私、あなたと旅がしたい。あなたと一緒に世界を見たい」
「おう。じゃあ行くか!! あ、でもアイシェラも付いてくるよな……あいつ俺のこと毛嫌いしてるしめんどくせーな」
「ふふ、なら二人で行っちゃいます……? なんて」
「いいけど、アイシェラは追ってくるぞ……風邪の呪いで動けなくしてから行くか」
「あはは、いいですねそれ」
なんだ、プリムもやっぱり冒険したいんじゃん。
ま、俺としては一人より二人のが楽しい。なんだかんだ言ったが、アイシェラも加えていい。
「じゃ、ブルーサファイア王国に行って帰る家を手に入れるか。そのあと、一緒に冒険しようぜ!!」
「はい!! ふふ、冒険……ずっと憧れていたんです」
さて、目的が変わった。
ブルーサファイア王国に亡命……じゃなく、プリムの帰る家を手に入れる。
家さえあれば、好きな時に帰ることができる。家ってのはあるだけで嬉しいよな。
「そろそろ、アイシェラのもとへ行きましょうか」
「ああ。あいつ、うるさそうだしな」
だが、この時点では気付かなかった。
ブルーサファイア王国へ向かう道中、めんどくさい敵が待ち構えていることに。




