蜘蛛の森
蜘蛛族のレイナと出会った翌日。
朝食はシラヌイが捕まえたヘビ。この森って毒蛇めっちゃいるのな。
皮を剥ぎ、串焼きにして四人で食べる。
「整理するにゃん。目的地はレイナの村で、そこを支配した龍人族を排除。その後は毒の森中心に行って、四天王の一人『毒龍ヴェノムスネーク』を倒す。にゃん?」
「それそれ。で、レイナ。村は近いのか?」
「えっと……ここから半日くらいのところ」
「もぐもぐ……けっこう近いですね。追手とかは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だとおもう。わたし一人逃がしても、龍人族には何の影響もないから……」
「ははは。大丈夫じゃなかった結果を見せてやろうぜ」
俺は蛇を完食し、シラヌイと一緒にストレッチをする。
クロネたちもメシを終え、荷物を片付け立ちあがる。
「じゃ、レイナ。案内よろしく」
「うぅ……あの、本当に大丈夫なの? 人間二人と獣人一人で、あれだけの龍人族をどうにかするなんて……」
「大丈夫だって。お前は案内だけして隠れてろ。カグヤじゃないけど、俺が大暴れしてやる」
「カグヤ?……よ、よくわかんないけど、わかった」
レイナは八本脚で歩きだす。
下半身が蜘蛛……それぞれの足が器用に動き、藪や岩なんかを綺麗に躱して歩いている。
俺は気になって聞いてみた。
「なぁレイナ。木登りとかできるのか?」
「できるよ。ってか木登りできない蜘蛛族はいないし」
「へぇ~……じゃあさ、家とかはどうしてるんだ? やっぱり糸……なぁ、糸ってどっから出すんだっぶぁ!?」
「フレアの変態!」
「デリカシーがないにゃん!」
なぜかプリムとクロネにブッ叩かれた……レイナはなぜか照れてるし。
頭を押さえる俺。どうやら質問はここまでだった。
だが、レイナは言う。
「えっと……糸は、大人にならないと出せないの。わたし、まだ子供だから」
「そうなのか。ちょっと見てみたいなー」
「「フレア!!」」
「わ、わるかった……もう聴かないから」
プリムとクロネに怒られ、糸の話題は終わった。
たぶん、尻から糸は出るんだろうけど……どうも触れちゃいけないことみたい。
◇◇◇◇◇◇
森の奥に進んでいくと、ちょっとずつ景色が変わっていった。
まず、木々に蜘蛛の糸のようなものが引っかかっていた。
「おお、糸だ」
「触っちゃ駄目だよ。あれ、虫や小動物を捕まえるトラップだから」
「へぇ~……」
よく見ると、あちこちに糸がある。
プリムが引っかかりそうだったので、クロネが誘導していた。
「罠はいっぱいあるけど、龍人族には通用しなかったの……糸が絡まっても、力任せに引きちぎって……」
「龍人族、いっぱいいるのか?」
「うん。村に来たのは二十人くらい……村には五十人くらい大人の蜘蛛族がいるんだけど、みんな敵わなかったの……パパ、ママ」
「レイナ……大丈夫です。わたしたちがいますから!」
プリムはグッと気合を入れ、蜘蛛の糸に足をひっかけずっこけた。
そんなプリムに、レイナはくすっと笑う。ちょっとだけ元気が出たようだ。
「いたたた……うぅ、恥ずかしいです」
「プリム、大丈夫か? ははは、おっちょこちょいだなぁ」
「むぅぅ……」
「……二人とも静かにするにゃん。見えてきた」
クロネが言うと、レイナは驚いていた。
「よくわかったね。村、すぐそこだよ」
「うち、眼がいいにゃん。そんなことより……いっぱいいるにゃん」
「龍人族か?」
「にゃん。入口に三人、村の中に十人以上……」
「わかった。じゃあ、後は任せろ。シラヌイ、みんなを守れ」
『わん!』
俺は堂々と歩きだす。
レイナが慌てて止めようとしたが、プリムとクロネに言われた。
「大丈夫。フレアにお任せです」
「あいつが負けるとこ、みたことないにゃん」
「えぇ!? でで、でも……」
「フレア、怪我したら戻ってきてくださいね」
「ああ。わかった……さぁて、やるか」
俺は右手を軽くスナップさせ、シラヌイと一緒に蜘蛛族の村へ。
周囲を見るとやっぱり緑が多い……炎は使いにくいな。
まぁいい。ただ燃やすだけが炎じゃない。
「こんにちわー」
俺は堂々と村に乗り込んだ。
すると、案の定……村の入口にいた龍人族がギロリと睨む。
「なんだ貴様。こんなところに……人間か?」
「うん。ここ、蜘蛛族の村でしょ? ここを龍人族が支配してるっていうから、お前ら全員ブチのめして、蜘蛛族を解放することにしたんだ」
「「「…………は?」」」
「ってわけで、やろうぜ」
俺は構え、右手に炎を纏わせる。
燃やさないように最小限の規模で燃える拳。すると、龍人族の一人が笑った。
「ふぁっはっはっはっは!! 人間がたった一人で何ができる? ここは『毒龍』様の避暑地として使う予定だ。お前のような弱者が汚していい場所ではないわ!!」
「いや、ここは蜘蛛族の村だろ。汚してんのはお前らじゃん」
「ほざけ!! ここはヴェノムスネーク様の領地。蜘蛛族など奴隷にすぎん!!」
「もういいって。かかってこないならこっちから行くぞ」
俺は拳を握り、龍人族の懐へ潜り込む。
「矮小な人間の拳など効かん。好きなだけ殴れ。殴った後、貴様は捕らえて──」
「滅の型、『轟乱打』!!」
「おぼぼぶふぇっ!?」
炎を込めた拳が龍人族の腹に突き刺さり、肉を焼く。
グレンデルの時から思ってた……龍人族って、焼けるとめっちゃいい匂いするんだよな。ゴクリ……っと、いやいや、さすがに喰わんぞ。
腹を火傷した龍人族はそのまま蹲る。
龍人族は再生力が強いけど、再生力は個人差があるらしい。四天王クラスは瞬時に回復が始まるが、重症レベルだと普通の龍人族は数時間かかるらしい。
まぁ、数時間動けないなら十分だ。
「このガキ!!」
「流の型、『浸透打』!!」
「ごえっ!?」
腹に掌底を当て、内臓を狙った衝撃突きを食らわせる。
皮膚ではなく、内部を狙う技。『螺旋巡』の下位技だが十分だろう。
残りの一人。背後に回り、背中を蹴って肩車状態に。そのまま頭に両手を当てた。
「流の型、『揺船』」
「おっ……~~~っ!?」
ぐりんと世界が回り、龍人族は倒れた。
三人を無力化した俺は、その三人を引きずって村の中へ。
そして、三人を思いっきりぶん投げて叫んだ。
「たのもーう!! わっはっはー!! 龍人族はかかってきやがれーっ!!」
豪快に叫ぶ。すると、わんさと集まってきた龍人族たち。
蜘蛛族も奴隷としてすでに働いていた。外にいた全員が俺に注目する。
「レイナの両親いますか!! 俺、あいつに頼まれてきた!! レイナは無事だから安心してくれ!!」
すると、動物の解体をしていた男女の蜘蛛族が顔を押さえて泣きだした。
さらに、二十人近い龍人族が俺を包囲する。それを確認し、俺は構えを取った。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。呪いは効かないから……ぶん殴る!!」
まずは、この村にいる龍人族をぶちのめしますか!!




