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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十章・深き森のグリーンエメラルド

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穴倉に住む蛇

 カグヤ、アイシェラ、ナキを乗せた馬車は、迂回路を順調に進んでいた。

 アイシェラは御者を務め、カグヤは荷車の屋根で昼寝。ナキは馬車の後部に座り周囲を警戒していた。

 ナキは御者席に移動し、アイシェラに言う。


「魔獣がいないってところだけは、龍人族に感謝だな。このグリーンエメラルド、魔獣が殆どいないおかげで、動物たちが多く繁殖している」

「魔獣がいないのはいいことだが……動物だって危険なのはいるぞ」

「ま、狩りで間引きはしてる。まぁ……龍人族は強い魔獣ばかり狩って動物なんか見向きもしない。さらにエルフは龍人族の許可がないと狩りができないおかげで、動物たちは大繁殖してる」

「やれやれ……森を荒らすのは魔獣だけではないだろうに」

「ああ。まぁ、こうして獲物には困らねぇが、なっ!!」


 ナキの腰に吊るされた矢筒から、短矢が口笛の合図で飛ぶ。

 すると、馬車の横から飛び出してきたイノシシの頭に矢が刺さり、そのまま貫通した。


「さて、晩飯はこいつでいいな」

「お見事。いい腕だな」

「ま、百年以上訓練すりゃ誰でもできるさ」

「んぁ~……なになに? いのしし?」


 カグヤが起き、馬車の屋根からにゅっと顔を出す。

 長い銀髪がだらりと垂れ、アイシェラの視界を遮った。


「こら、見えないぞ」

「んあぁ……眠い。ねぇ、ご飯は?」

「眠いのか腹減ったのかどっちだよ……まぁいい。イノシシ解体するから手伝え。解体すりゃ眠気も覚めるだろ」

「えぇ~……めんどい」

「全く。とりあえず、この辺りで野営をするか」


 イノシシを仕留めたことで、今日の移動はここまでとなった。


 ◇◇◇◇◇◇


「あー美味しかったぁ」

「うむ。塩味が効いていた。懐かしい……騎士時代、遠征などで野営をすると、決まってイノシシやシカの丸焼きだった」

「お前らすげぇな……女二人でほとんど食っちまった」


 夜。三人で焚火を囲み、イノシシの丸焼きを完食。

 カグヤは骨を咥えながら満足げにナキに言う。


「アンタが少食なだけでしょ? ウチらはフツーよフツー、ね?」

「うむ。食事は大事だ。たくさん食べて悪いことなどない」

「そうですかい。まぁエルフが少食なのは間違ってねぇけど……保存食くらいは残るって考えてたオレが間違ってたわ」


 ナキは煙管を取り出し、煙草を吸う。

 アイシェラは、荷物から小さな酒瓶を取り出した。


「ナキ、一杯どうだ」

「お、いいね。葡萄酒か?」

「ああ。国境の町で山ほど仕入れた」

「アタシも飲みたい……う、やっぱいい。酒ってどうも苦手」

「ふ、お子様舌め」

「うっさい。あ、近くに川あったわよね? アタシ水浴びしてくる」

「気を付けろよ、魔獣はいないが夜行性のヘビはけっこういるぞ」

「はーい」


 カグヤは着替えとタオルを持って近くの川へ。

 ちらりと後ろを見ると、アイシェラとナキはすでに酒盛りを始めていた。


「けっこう仲良し……まぁ、酒飲み仲間ができてうれしいのかなぁ」


 酒は、アイシェラしか飲まない。

 フレアは飲める。だが町の居酒屋などで注文するのは酒だけでなく果実水、見たことのない珍しい物ばかり注文する。

 プリムは飲めないことはない。だが昔、酔いつぶれたときにアイシェラが覆いかぶさったことがありそれ以来アイシェラとは飲んでない。その時のアイシェラは「未遂です!」と叫んでいたのでなおさらだ。

 クロネは飲めない。完全な下戸で、水や果実水、マタタビ水という猫系獣人が好む飲み物を好む。

 カグヤは飲みたくない。味が嫌というシンプルな理由だ。

 そこに登場したのがナキ。アイシェラはナキと飲むのが嬉しいようだ。


「ま、どうでもいいや」


 カグヤは水場に到着。

 綺麗な小川だった。月明かりに照らされ、水面がキラキラ光っている。

 服と装備を脱ぎ、裸になったカグヤはさっそく川へ。


「つめたっ……ん~、でも気持ちいい」


 川はけっこうな深さだ。

 カグヤはゆっくり川の中央へ。ちょうど胸が見えなくなるくらいの深さで、まるで風呂に浸かっているような心地よさだ。

 カグヤは身体を洗い、髪を洗い、少しだけ泳いでみる。


「っはぁ~……月、綺麗ねぇ」


 ぷかぷかと仰向けに浮かび、真ん丸な月を眺める。

 カグヤの名前の由来となったおとぎ話に、カグヤヒメがいる。そのカグヤヒメがいるのが月だ。

 

「アタシの足、あそこまで届くかな」


 カグヤは、自分の足がどこまで伸びるのか試したことはない。

 数キロまでは試したが、それ以上伸ばしたことはない。

 もしかしたら、月まで届くかもしれない。もし月まで届いたら……カグヤヒメに会えるかもしれない。


「なーんて、バッカみたい。あんな遠いところまで行くつもりない───……っ」


 次の瞬間───カグヤの身体が沈んだ。


「ご!? っがぼ、ごぼぼっ……!?」


 身体が沈んだ。

 いきなり水中に引きずり込まれた。

 そして気付く……カグヤの右足に、何かが絡みついていた。


「ごボッ……びびどぎょぶじでびゅじゃばび!!」


 いい度胸してるじゃない。そう水中で叫ぶ。

 カグヤは何かが絡みついていない左足を伸ばし、水の底へ。そして、左足を軸にして思い切り伸ばした。すると、カグヤの身体は水面から出る……右足に、何かを巻き付けたまま。

 そして、左足を水面際まで縮め、右足を思い切り伸ばしながら振り、近くの岩に叩きつけた。


「んぎゃんっ!?」

「えっ……なにこれ」


 呻き声と共に、巻き付いていた足が離れた。

 それは、少女のような……ヘビだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「ただいまー」

「おう、戻ったか……あ?」

「どれ、次は私が水浴び……おい、なんだそれは」


 カグヤは、気絶した襲撃者のヘビ女を引きずってアイシェラたちの元へ。

 焚火の明かりで、ヘビ女の全貌がようやくわかった。まず、上半身は人間の女性だった。だが下半身は違う。下半身はヘビのような尾になっていた。

 ナキはすぐにわかった。


「蛇族じゃねぇか。なんでこんなところに」

「知ってんの?」

「ああ。グリーンエメラルドに住む希少種族だ」

「グリーンエメラルドにだと?」

「そうだ。グリーンエメラルドはエルフと龍人族が最も多い種族だが、蛇族や蜘蛛族みたいな亜人がけっこう隠れ住んでる。獣人や亜人も住んでるぜ」


 カグヤは蛇女を放り投げる。

 すると、蛇女は目を覚ました。


「うぅぅ~~~ん……あれ」

「あ、起きたわね」

「えっ……あ、あれれ? ここは……え、だれ?」

「アンタ、アタシに喧嘩売ったのよ。さぁて、続きやろっか?」

「ひっ……ちちち、違います。あたしはただ、お腹空いたからお魚を……」

「アタシ、魚じゃないし」

「え……じゃあ、さっき浮かんでたのって」

「アタシよ。で、アンタだれ? 喧嘩すんの?」

「しし、しません!! あたしは蛇族のシェザです。龍人族が襲い掛かってきたので逃げてきて……それで、お腹すいたから魚でもって……」


 ナキは、煙草に火を付けながら言う。


「龍人族から逃げてきただぁ?」

「はい……最近、龍人族がグリーンエメラルド中を回って、戦力になりそうな種族を片っ端から捕まえてるって聞いて……うちの村にも来たんです」

「……アイシェラ、カグヤ、詳しく聞いてもいいか?」

「私は構わん」

「アタシ、なんかワクワクしてきたかも!」

「ってわけだ。お嬢さん、何があったか教えてくれ」

「は、はい……」


 こうして、カグヤたちはカグヤたちで、面倒事に首を突っ込んでいた。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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