BOSS・闘龍四天王『花龍』ロズワール
俺は、馬車に向かってきた龍人を相手に戦っていた。
花畑を燃やさないよう戦うには、炎を使わないのがベスト。全く、本当にめんどくさい土地だ。
なので、素手で龍人と戦っていた。
「甲の型───『三撃打突』!!」
龍人の懐に潜り込み、掌底の三連撃。
一撃目は軽めに。二撃目で皮膚と筋肉を緩めるための一撃。そして三撃目は内臓に衝撃を伝える本気の掌底を食らわせる。すると、龍人はゲロを吐いて蹲る。
何度か検証したが、龍人は打撃に強い。だが内臓は普通だ。
あと、皮膚が強いので武器は通じない。回転式の弾丸も弾かれた。
内臓に衝撃を与える技なら通じる……でも。
「流の型、『揺船』」
「おっご……おぉ?」
龍人の頭部に衝撃を与え、脳震盪を起こし気絶させる。
こういう技、俺の好みじゃないんだけどなー……まぁ仕方ない。
とりあえず、向かってきた龍人は全員倒した。
「終わったか」
「ああ。そっちはどうだ?」
「問題ない。表皮は硬いが中身は普通だな」
ブルーパンサーを装着したアイシェラの手がバチバチしていた。
どうやら、電気攻撃で龍人の頭を狙ったらしい。アイシェラ、ブルーパンサーを装備してからホントに強くなったよな。
クロネとナキは馬車の周りを固め、プリムは馬車の窓から村を見ていた。
「……カグヤ、どうしたんでしょうか」
「さーな。あいつの逆鱗に触れる何かがあったんだろ。とりあえず、俺が様子見てくるから、お前たちはここから動くなよ」
そう言い、俺は村に向かって歩き出す。
村の入口に到着。そして、先程のカグヤの一撃を思い出していた。
「……なんつう威力だよ」
入口には、龍人の下半身だけ残されていた。
老夫婦を殴っていた龍人のものだ。まさか、蹴りの威力だけで上半身が千切れて吹っ飛ぶとは思わなかった……俺の『破戒拳』と同等か、それ以上の威力。
怒りが加わり、かなりの威力に引き上げられた蹴り。俺は冷や汗を流す。
そして───……聞こえてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」
「たす、たすけ……」
「ひぃぃぃっ!!」
情けない声だった。
それが、誇り高い龍人族が、十六歳の女に怯え逃げ惑う叫びとは。
俺は村の中へ。すると……いた。
「神風流、『絶狼牙』」
「おげっ……」
ジュパン!!と、龍人の首が綺麗に切断され、頭がゴロゴロ転がった。
村の周りには、龍人の死体が山ほど転がっていた。どれも四肢が欠損し、凄惨な状態で事切れている。そこに慈悲などなく、怒りのまま殺したことがわかった。
「あいつ……マジでなにやってんだよ」
龍人たちは怯えていた。
それだけじゃない。奴隷のエルフ族も腰を抜かして怯えていた。
俺はカグヤを止めるべく気合を入れ、最悪の場合を想定してカグヤの元へ───すると、龍人たちが村の奥からゾロゾロやってきて整列し跪いた。
「なにやら騒がしいわね。サルが暴れてるって───」
ぼじゅん!!と、整列した龍人の間を優雅に歩いてきた龍人族の女の首が、綺麗に吹っ飛んだ。
ぶしゅーっと首から噴水のように血が噴き出し、女の身体が数歩、ゆっくり進み……そのままばたんと倒れた。
「邪魔……」
跪いた龍人は、ようやく気付く……女が、一瞬で殺された。
俺ですら、かろうじて見えた。
女が見えた瞬間カグヤが飛び出し、その首を回し蹴りで刈り取ったのだ。
「残りはこれだけね。ちょうどいい、さっさと殺してやる」
自分たちの主が瞬殺されたことに気付いた龍人族は、四十秒かからず全滅した。
◇◇◇◇◇◇
龍人族が全滅したのを見計らい、俺はカグヤに声を掛けた。
「おい、終わったぞ」
「…………うん」
「ったく、暴走しやがって……お前、周りを見ろよ。エルフ族全員、お前に怯えてるぞ」
「…………」
腰を抜かしていたエルフ族の奴隷たち。
カグヤを見る眼は、恐怖以外なかった。
すると、ナキがやってくる。
「あー……とりあえず、ここはオレとネコミミちゃんに任せろ。フレア、お前はカグヤを連れてけ」
「ああ。わかった」
「うちはネコミミちゃんじゃないにゃん!!」
ふしゃーっとキレるクロネの頭を軽く撫で、俺はカグヤを連れて村の外へ出た。
近くには花畑と川が流れており、俺は手拭いを絞ってカグヤに渡す。
「ほれ、顔拭けよ」
「ん……」
「それと、気を抜け。いつまでも臨戦態勢でいるなよ」
「あ、うん……ごめん」
カグヤは顔を拭き、ようやく肩の力を抜き……盛大にため息を吐いた。
「はぁ~~~……やっちゃったぁ」
「お前、どうしたんだよ。あんなにキレてさ……正直、ビビったぞ」
「……おじいちゃんおばあちゃん」
「え?」
「女の子のおじいちゃんおばあちゃん、いじめられてたでしょ? あれ見てちょっとキレちゃった。アタシを育ててくれたのも、おじいちゃんおばあちゃんだったから……」
「ふーん……」
カグヤは川べりの岩に座ったので、俺も隣に座る。
距離は近かったが、拒絶されることはなかった。
「あんなので心を乱すなんて。アタシも修行不足ね……」
「お前、たぶんだけど四天王の一人を瞬殺したぞ。名乗るくらいの暇は与えてやれよ」
「えー?……四天王って、マジで?」
「なんか偉そうに歩いてる女がいたじゃん」
「……? わかんない」
周りも見えてないくらいキレてたのかよ。
俺は苦笑すると、カグヤも苦笑した。こうやってこいつと二人きりになるの久しぶりだな。
「プリムたちは?」
「あっちのことはナキに任せてる。あとはエルフの問題だ」
この村を占拠していた龍人族は死亡。たぶん、村は解放される。
「俺が倒した生き残りもいるし、そいつらは逃がして龍人族の王様に報告させよう」
「そうね……はぁ」
「ま、気を落とすなよ。つーか、キレたお前強かったぞ? 十二使徒くらい強かったんじゃね?」
「ふん……慰めはいらないし」
「へいへい。じゃ、落ち着いたところで村に戻ろうぜ。いろいろ手伝いが必要そうだ」
「うん。それと、ありがとね」
「…………お前が素直に礼を言うとはねぇ」
「うるっさい!!」
さーて。残務処理の時間だ。
ちなみに、カグヤが倒した女龍人は、四天王の一人『花龍』ロズワールだったそうな……なんとも憐れな四天王で。




