BOSS・闘龍四天王『凱龍』グレンデル③
龍化。その名の通り、選ばれた龍人にしか使えない奥の手。
龍人とは、最強の魔獣種であるドラゴンの血を引いた種族で、高い知能、ドラゴンのパワー・スピード、そしてその二つを掛け合わせた最強の戦闘形態のことを『龍化』という。
ヒトの知能を持ったドラゴンに変身することで、ただ力を振りまく野良ドラゴンとは比べ物にならない戦闘力を獲得することができるのだ。
「こ、これが……闘龍四天王と、我らの王のみが扱える、『龍化』だ……げほっ」
「ふーん……面白そうね。アンタらは使えないの?」
「無理だ……げっほ、龍化を習得するのは容易ではない。優れた才能、そして血の滲むような鍛錬の先にある、最高最強の戦闘形態……がっはぁ」
「よーくわかったわ」
カグヤは、ボコボコにして胸倉を器用に足で摑んでいた龍人を放す。
カグヤたちを襲おうとしていた龍人は五人。三人をカグヤが倒し、もう二人はアイシェラが倒した。
プリムは、アイシェラを見て言う。
「アイシェラ、すごい……」
「いえ。このブルーパンサーの性能のおかげです」
ブルーパンサーを実装したアイシェラのマスク部分が展開し素顔が見える。
突撃槍を背負い、手には折り畳み式の『ライジングブレード』を持っている。『雷』を宿した魔石の力を刃にした、パープルアメジスト最新の技術だ。
ちなみに、メイカのオリジナルである。
アイシェラは、ライジングブレードの電源を落とす。すると剣が自動で折りたたまれ柄だけとなり、アイシェラは太腿部分の装甲に柄を収納した。
「それにしても、これが龍人か……こいつらは下っ端兵士でしょうが、それでもA級冒険者以上の力を持っている。フレアを連れて行ったグレンデルとやらは、間違いなくS級の力を持っているだろう」
アイシェラはカグヤに言った。
カグヤは不敵な笑みを浮かべる。
「四天王ってことは四人いるのよね……ふふふ。次はアタシがやるからね」
「……つーか、マジかよお前ら」
「ん、なによ」
手を出さず、壁際にいたナキは驚愕していた。
ナキでも、龍人を五人同時に相手にするのは分が悪い。だが、カグヤとアイシェラは二人で挑み、五分とかからずに龍人を倒してしまった。
「あれ?……クロネがいません」
「ここにゃん」
『わん!』
すると、どこからともなくクロネとシラヌイが現れた。
手に、なにやら羊皮紙や何枚もの書類を持っている。
「ウチらがここに連れてこられてる間に、シラヌイにいろいろ調べてもらってたにゃん。ふふふ、この辺りの地図、他の龍人や王様とのやり取り、ダンジョンの情報をゲットしたにゃん!」
『わぅぅぅん!!』
「い、いつの間に……クロネ、すごいです!」
「にゃふふーん」
胸を張るクロネとシラヌイ。いつの間にかいいコンビになっていた。
「うち、戦いより情報集めのが得意だし。シラヌイもちゃんとやってくれるにゃん。シラヌイ、うちと組んで情報屋を開業しないかにゃん?」
『くーん……』
シラヌイは、フレアが消えた方を見ていた。
戦いの気配を感じ取り、フレアの邪魔をしないように待っている。
クロネは肩をすくめ、シラヌイを撫でた。
「とりあえず、あいつが戻ってくるまで待つにゃん」
「そうだな。お嬢様は私の傍へ。カグヤは周囲の警戒をしろ。クロネ、お前は手に入れた情報を頭に叩き込んでおけ」
「言われなくてもやるわよ。命令すんな」
「うちもにゃん!」
「アイシェラ、肩を抱かないで近づかないで」
それっぽいことを言ったのに、アイシェラは拒絶された。
そんなプリムたちを見ながら、ナキはごくりと唾を飲む。
「こいつらなら、もしかして……」
そう呟いた瞬間、隣の部屋から轟音が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇
「どわぁぁぁっ!?」
ぶっ飛ばすと意気込んだ俺だが、桁違いのパワーに翻弄されていた。
グレンデルが変身してから、全ての能力が上がった。
パワーは当然として、三メートルを超える二足歩行のトカゲのくせにスピードもある。さらに長い尾を振りまわしての広範囲攻撃に、口から火まで噴いた。まぁ火は効かないけど。
「どうしたどうした!? もっと本気を出せ!!」
「このやろっ……」
グレンデルは、巨大な尾を振りまわす。
横薙ぎの尾をジャンプで躱すと、グレンデルは俺めがけて火を噴く。
「ブガァァァァォォォッ!!」
「のわぁっ!?」
炎によるダメージはない。だが、視界が封じられる。
グレンデルは一瞬で俺に接近し、馬鹿みたいにデカい拳を突き出してくる。
「流の型、……っづぁ!?」
『漣』で受け流せない。
パワーが桁違いすぎて軌道を逸らせない。俺は全身を燃やし、第一地獄炎で防御する……すると、グレンデルの腕と手が燃え、ジュウジュウと肉の焼ける匂いがした。
だが、それもほんの一瞬。
「フン……炎とは。貴様、地獄炎の呪術師とはな……まだ生き残りがいたのか」
「ぐっ……」
フッ飛ばされた俺は壁に叩き付けられ、口からペッと血を吐く。
いってぇ……この野郎。マジでタフだし強い。
「呪術師か……過去に何度か戦ったことがある。だが、我らは負けたことがなかった」
「は?」
「我らに、呪術は効かん。呪術は人間や天使など、ヒト種の血が混ざった種族にしか効果はない。それと、地獄炎……これは厄介だが、ドラゴンの特徴である圧倒的な回復力があれば問題ない」
すると、溶解しかかっていたグレンデルの腕が、ジュワジュワと肉が盛り上がり治ってしまった。
驚いていると、グレンデルは嗤う。
「龍人は最強。その最もたる所以……それは、この回復力にある。どんな怪我を負っても、我々の回復力ならすぐに治癒できる。わかっただろう? この世で最強なのは吸血鬼でも天使でも呪術師でもない。我ら龍人こそが最強の種族なのだ!!」
「…………」
俺は深呼吸し、手足をブラブラさせ、軽くジャンプする。
「圧倒的回復力。さらに身体はガチガチに硬いし頭もいい。そのトカゲみたいな姿になってから勝てる要素が一個もないな」
「フン……その通りだ」
「でも、勝てる」
「……ほう?」
「先生が言ってた。自分に絶対の自信があるやつほど、崩れたら脆いって」
「矮小な人間らしい考えだ」
「だから……徹底的に、ブッ叩けって!!」
「なに───?」
俺は一瞬でグレンデルの懐へ潜り、右手に『火乃加具土』を装備、全身を一気に燃やした。
「第一地獄炎極限奥義!! 『真・灼熱魔神拳』!!」
「な───っ!? ごぶぁばっ!?」
「第一地獄炎、『烈火円舞』!!」
アッパーで浮き上がった身体に、両拳のラッシュと回し蹴りを叩き込み更に浮かし、俺は大きくジャンプ。炎の勢いを乗せた踵落としをグレンデルの背中に叩き込む。
「第一地獄炎、『龍槌炎』!!」
「ごがぁっ!?」
全身が燃えた状態で、グレンデルは床に叩き付けられる。
着地した俺は、全身を燃やしたまま炎の勢いを付けて側転。グレンデルの頭に全力で踵落としを食らわせた。打ち下ろし気味のかかとは、グレンデルの頭に突き刺さる。
「第一地獄炎、『車輪炎槌』!!」
「ごえっ!? っご、ごの、ガキ」
グレンデルはふらつきながら立ち上がる。
俺は、グレンデルの真正面に立ち、構えを確認する。
「えっと……確か、こんな感じ」
「ぐ、あぁ……こ、このガ」
「喰らえ……烈の型、『回転炎旋突き』!!」
螺旋を描く炎と拳による突きが、グレンデルの腹に突き刺さる。
ただの拳じゃない。肘、手首、肩にも炎が燃え、腕の突き出す勢いを加速させた一撃だ。
グレンデルは火達磨になり、何度も床を転がる。
さらに、ダメ押し。
「燃え上がれ、『火乃加具土・煉獄絶甲』」
籠手が燃え上がり、炎の鎧となる。
そして、まだ立ちあがるグレンデルの背後に回り、その身体を思いきり抱き締めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」
「炎の威力、調節してあるぞ。回復しながら『参った』するまで焼くからな」
グレンデルがじたばた暴れるが、煉獄絶甲の抱き着きからは逃れられない。
「ままま、まげん!! りゅうじんは、まげにゃぁぁぁぁぁーーーーーーッ!?」
「じゃ、我慢比べといきますか」
俺はその場で寝転がり、燃え続けるグレンデルを眺めた。
部屋中に響くグレンデルの叫び。俺は欠伸をしながら聞く。
それから三分後。
「まいっだぁぁぁぁガァァァァァァーーーーーーッ!! まいっだぁぁぁぁ!!」
「……ほんとに?」
「まげだ、まげだぁぁぁぁっづぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」
「わかった。じゃあ俺の勝ちな」
煉獄絶甲を解除すると、黒焦げになったグレンデルがぼてっと倒れた。
こうして、俺は龍人との戦いに勝利した。
「…………ごくり」
ホカホカのステーキみたいな匂いのするグレンデル……う、美味そうなんて思ってないからな?




