BOSS・闘龍四天王『凱龍』グレンデル②
戦いの場とかいう場所は、家の裏にある広場だった。
何もない広場だ。まっ平に舗装された地面は硬く、周囲には木々が一本もない。
俺は軽く準備運動をしていると、グレンデルが言う。
「一つ、言っておく」
「ん?」
「我が『龍名』は『凱龍』……どんな攻撃もワシの身体を傷つけることはできん。傷を付けられるのは、バルトアンデルス様だけだ」
「はぁ……それで?」
「つまり、『龍化』せずとも勝てるということだ」
「……そ、そうですか」
意味わかんねぇ。
なんだよ龍化って。りゅうめい、ってのは龍人としての二つ名みたいなモンで、凱龍ってのは『すっごく硬い龍人』って意味だと思うけど。
グレンデルは五指を開き、両腕を開く独特の構えを取る。
「さぁ人間、矮小な種族よ!! ワシを楽しませろ!!」
「あのさ、あんまり人のこと馬鹿にしないほうがいいぞ? 俺、めちゃくちゃ強いから」
「くぁっはっはっは!! その意気やよし!! さぁ名乗れぃ!!」
俺は甲の型で構えを取り、名乗る。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前を呪ってやるよ!!」
「闘龍四天王『凱龍』グレンデル。圧して参る!!」
俺とグレンデルの戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
俺はグレンデルに向かって突進。拳を握り、先制攻撃を仕掛ける。
「甲の型、『打厳』!!」
全身を固めた一撃だ。
巨岩も粉砕できるし、調子がいいと鉄板もブチ抜ける拳だ。
狙いはグレンデルの腹。身長は俺の倍くらいあるし、打ち上げるように拳を叩きこむ。
そして、拳がグレンデルの腹筋に突き刺さった……が。
「っぐ……か、かってぇ!?」
「その程度か?」
「───っ」
グレンデルが拳を握る───まさかこいつ。
俺は脱力し、グレンデルの打ち下ろしパンチを受け流す。
「『龍拳』!!」
「流の型、『漣』───っ、おっもぉ!?」
グレンデルの拳側面を叩き軌道をズラそうとしたが───……拳が重く、軌道が完全にずらせない。俺は身体を無理やり捻り、グレンデルの打ち下ろしをギリで躱す。
そして、グレンデルの拳が地面に叩きつけられ、冗談抜きで地面が揺れた……なんつう威力。
俺はグレンデルから距離を取るが、グレンデルはすぐさま接近。
「フンフンフン!! フンフンフン!!」
「っく、このっ……」
連撃。
確信した。グレンデルは格闘技を使う。拳を見ただけでわかる。かなり熟練した格闘家だ。
グレンデルの拳を躱すが、威力や重さだけでなく速さもある。
さらに、『漣』でも完全には受け流せない。
「ゼイハァァァァァっ!!」
「ぐおぁぁっ!?」
やべ……拳、腹……モロに受けちまった。
鉄丸で防御したが、衝撃がモロに伝わってくる。まさか鉄丸をすりぬける威力とは。
俺は腹を押さえ、ゲホゲホむせる。
「げっほげっほ!? っくそ、なんつうパワー……」
「人間とは違う。龍人こそ至高の種族。天使や吸血鬼などと比べるのすらおこがましいわ!!」
「……確かに、強いな」
俺は腹をさすりながら再び構えを取る。
グレンデルも構え、ニヤニヤしながら言う。
「多少はすばしっこいようだ。それに技もある……だが、中途半端だな」
「あ……?」
「弱いのだ。所詮は人間の武術。至高の存在である龍人が編み出した『龍闘技』には敵わない」
「……は?」
「だが、人間には小賢しい知能がある。その小賢しい頭で考え、生み出した武術。使いようがあるなら我が『龍闘技』に組み込めるだろう。さぁ人間、もっと小賢しい技を見せろ」
「…………小賢しい?」
「うん? 聞こえなかったのか?」
俺はふつふつと怒りを感じていた。
呪闘流が、小賢しいだと?
「……俺の格闘技は、俺が先生から習った俺の誇りだ」
「誇り?……ふざけるなよ人間!! 貴様のような矮小な人間が、容易く『誇り』など口にするな!!」
「はぁ?……なんだよそれ、俺にとっての誇りをお前が馬鹿にする権利なんてない」
「権利ならある。誇りというのは、我ら気高き龍人族が掲げるモノだ。ずる賢こく、同族同士で醜い争いをするような人間が誇りだと……笑わせるな!!」
「…………」
グレンデルは笑うのをやめ、不快とばかりに言う。
「貴様にその技を教えたのも人間だろう? 弱い人間が教える武術などたかがしれている。せめてもの情けとして我が『龍闘技』の糧にしてやろうというのだ。わかったならさっさと───」
「滅の型『極』───『破戒拳』!!」
グレンデルが最後まで言い切る前に、俺の拳がグレンデルの腹に突き刺さる。
「!?───お、っごっぼぁぁ!? ゲッヒぃ、げひっ!?」
グレンデルは血を吐き、腹を押さえた。
俺の怒りは収まらない。
「お前、先生を馬鹿にしたな?……弱いだと? 呪闘流がたかがしれているだと?」
「ぐ、おぉ…‥こ、この威力!!……し、信じられん。オレの身体に、ここまでのダメージを!!」
「おい……もう一度言えよ。俺の先生が弱いだと?」
「ふ、フフフフフ……がっはっはっはっは!! これほどの拳、どのような技を使ったのだ!? ほしい、欲しいぞ!! 人間んんんんっ!!」
グレンデルは立ち上がると、構えを取る。
同時に、身体も変化していく。
全身に鱗が生え、牙が伸び、ツノも伸び、手足が大きく、尾が生え……まるで巨大な二足歩行の蜥蜴のような姿になっていた。
トカゲと違うのは、背中に翼が生えているところだ。
『さぁ人間……本気で相手をしてやろう!! もっと貴様の技を見せろ!!』
「……やだね」
『ナニィ!?』
「お前みたいな野郎は万死に値する。地獄の炎で焼き尽くす!!」
第一地獄炎が俺の全身を包みこむ。
そして、再び構えを取る。
「こっからは、地獄炎の呪術師として相手してやる!!」




