BOSS・闘龍四天王『凱龍』グレンデル①
馬車は、ナクシャトラの村に到着した。
途中、御者をナクシャトラに代わり、アイシェラは馬車の中へ。
シラヌイとブルーパンサーは村近くの藪の中で待機。捕まったフリで村の中へ。
「いいか。もうすぐ村に着く……お前らはオレが捕まえた労働力。それと龍人族の奴隷だ」
「癪だけど仕方ないわね。でも、プリムに危害を及ぼすようなら、グレンデルとかいう奴が出てくる前に大暴れしちゃうから」
「俺も俺も」
「フレア、カグヤ……ありがとうございます」
プリムはにっこり笑った。なぜかアイシェラはハァハァしている。
俺とカグヤは首をコキコキ鳴らし、クロネは窓に視線を送り周囲の景色を目に焼き付ける。
それから間もなく、見えてきた。
「見えた……オレの村だ。お前ら、門番の龍人族がいる。気を付けろよ」
馬車がゆっくり減速、停止した。
すると、重たい石みたいな声が聞こえてきた。
「お前か。成果は?」
「女が三人、男が一人、獣人の女が一人だ。罠に引っかかった冒険者で、けっこう優秀な連中なんだ。グレンデル様に献上したい」
「ほう……豊作だな」
「ああ。で、対価は支払いしてくれんだろうな?」
「もちろんだ。お前の好きなエルフを一人解放してやる」
「一人だと!? おいおい、今回のは若くて脂の乗った人間たちだ。最低でも三人解放しなきゃ割に合わないぜ?」
「ほぅ……文句がある、ということだな? ならば」
「あー……そういうつもりじゃない。わかった、一人でいい。だがその前に、グレンデル様に献上させてくれよ。グレンデル様も間違いなく気に入ると思うしな」
「いいだろう。では通れ」
再び、馬車は走り出す。
馬車が門番の横を通り過ぎた瞬間、俺は初めて龍人族を見た。
「うぉ……でっけぇ」
身長二メートル半くらい。魔獣の皮で作った胸当てを素肌に装備している。むき出しの二の腕には緑色の鱗みたいなのがザラっと生えている。
顔は凶悪そのもの。目はくりっと丸く瞳が黄色い。さらに瞳孔が縦割れしており、歯がギザギザに生えている。極めつけは、頭部に生えている二本の枝分かれしたツノだ。
体格からして、体重は数百キロいじょうある。全身ムッキムキだし強そうだ。
「……長の家。今はグレンデルの家に向かってる。まずはオレが挨拶するから、全部終わったら好きに暴れろ。頼むぜ」
ナキは小声でつぶやく。
まさか、グレンデルをブッ倒すために冒険者を手引きしたなんて、バレたら処刑ものだ。
馬車がでっかい樹の前で止まり、ドアが開く。
「降りろ」
ナキは感情のこもっていない声で言う。
ああ、演技は始まってんのね。
馬車から降り、巨木を見上げる……なんと、巨木じゃなくこれが家だった。
巨木にドアが取り付けられている。ナキは俺たちに歩くように言い、巨木のドアをノックした。
「ナキだ。グレンデル様に献上品を持ってきた」
「入れ」
ドアが開き、門番龍人族よりもデカい龍人が何人もいた。
巨木の中はただの広い空間だ。半円形みたいな部屋で、壁には凝った装飾の絨毯とか、狩りで使う弓矢、さらに農具などがかけられている。
だが、それよりも驚いたのは。
「あ、ぁ……ぅ」
プリムが怯えていた。
危険な目にもあい、精神的にタフになったはずのプリムが怯えた。
アイシェラも青くなり、一筋の汗を流す。
クロネも、ネコミミや尻尾の毛が逆立っていた。
「グレンデル様。捕らえた人間を献上いたします」
ナキは跪き、グレンデルと呼ばれた龍人に頭を下げる。
「ほう……」
闘龍四天王の一人、グレンデル。
全長三メートルくらい。筋骨隆々で緑色の龍麟が腕だけでなく首元まで覆われていた。
ツノは四本も生え、うち二本は垂直に伸び、もう二本はヤギのようにねじ曲がっていた。
魔獣の骨で作られた椅子に座り……あ、よく見ると椅子の下に敷かれてる絨毯みたいなの、魔獣の皮だ。すっごく凝ってるな。
俺は、グレンデルをまっすぐ見た。
「……小僧」
「ん」
「ワシから目を逸らさない胆力、なかなかだ」
「どうも」
「『龍の掟』だ。ワシを倒すことができれば、貴様は自由……どうだ、闘るか?」
「龍の掟?」
「龍人が自身で決めたルールは絶対。そういうことだ。ワシはこの地に住まうエルフと、ワシに献上された人間相手に『ワシに勝つことができれば解放する』という掟を掲げている」
「ああ、そういやそうだっけ……うん、いいよ。闘おう」
「その意気や良し!!!!!!」
「うおっ」
グレンデルはいきなり叫び立ち上がる。
そして、周囲にいた龍人たちが拳を掌に叩きつけた。
「戦いの場へ!! くははははっ!! 楽しい時間になりそうだ」
グレンデルは着ていたローブを脱ぎ棄て上半身裸に。そして、家の裏口から出ていった。
すると、俺のそばに龍人が。
「戦いの場へ!!」
「戦いの場へ!!」
「人間。貴様、少しでも長くグレンデル様を楽しませろ!!」
「貴様の挽肉は、オレらが食す!!」
やかましい連中だった。
俺はプリムとアイシェラ、そしてクロネとナキを見てうなずく。
最後にカグヤに言った。
「じゃ、ここはもーらいっ……あとはよろしくな」
「ぐぅぅ……アタシがやりたかったのにぃ」
カグヤはつまらなそうに歯を食いしばる。
俺は軽く手を振り、グレンデルが出ていったドアへ。
すると、背後から声が。
「さぁ、貴様らは我らの相手をせよ!!」
「女!! 女は我々の食事だ!!……グハハハハッ!!」
「あのさぁ……掟だか何だか知らないけど、むかつくから蹴る」
「なにぃ? 人間の女、生意気なぶふぇぁぁっ!?」
龍人の一人がカグヤに蹴られ吹っ飛んだ。
カグヤは片足をブラブラさせて言う。
「アンタらで我慢してあげる。かかってきなさい!!」
「生意気なメス!!」「食ってやる!!」「いや、オレが喰う!!」
まぁ、カグヤに任せて大丈夫だろ。
俺の相手は、闘龍四天王の一人グレンデルだ。久しぶりに、相手にとって不足なしだぜ!!




