雑魚の悲鳴
「ギャァァァァァァァァァァァ!?」
「ひぃぃぃぃ!? 悪かったっがぁぁぁぁ!?」
「嫌だっぁぁぁぁぁぁっ!!」
冒険者ギルド内は、下っ端冒険者たちの悲鳴が鳴り響いた。
俺とカグヤが向かってくる冒険者相手に大立ち回り。殴っては蹴って、殴っては蹴って。今日はそれプラス火傷と呪術も追加してある。
「蝕の型、『口内炎になっちまえ』」
「お? おっご、ごぉぉぉぉぉっ!?」
女冒険者の顔が一気に腫れあがる。口内炎三十個はキツイぞ?
そして、カグヤの足技が冴える。
「神風流、『四結柱打』」
トトトトン、と軽く蹴る。狙いは両肩関節と股関節……すると、蹴られた衝撃が関節の結合部に伝わり、カコンと脱臼した。
男は立っていることができず、そのまま崩れた。
「おお、お前にしては繊細な技じゃん」
「たまにはね。最近、大技ばかりだったし、たまには繊細な技を使うのもいいかなって」
そう言い、カグヤは剣を持って向かってくる女の両手首を狙い蹴りを放つ。
「神風流、『亡分』」
カコンと、手首の関節が外れた。
「いっぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「関節外しただけよ。大げさ、ねっっと!!」
「おがっ!?」
そのまま女の顎を蹴り上げた。女は気を失い地面に転がる。
カグヤ、すごいな。爪先で正確に関節の結合部を叩いて外してる。大技ばかりの印象だったから、こういう繊細な小技を見ると余計にすごく感じる。
冒険者たちは、あっという間に半分以下になった。
「───ぴゅぅ」
「───っと!? おわっ」
すると突然、細い矢が飛んできた。
複雑な軌道を描き、俺の首に向かって正確に飛んでくる。
躱そうと身体を捻るが、その躱した先に矢の軌道が変わり、俺はその矢を素手で掴む。
「これ、さっきの……お前か!!」
「チッ……なんなんだオメェら。これだけの数を……クソが!!」
ナクシャトラは立ち上がり、腰の両側に付いている矢筒に両手を突っ込む。そして、細い矢を何本も空中に放り投げると、口笛を吹いた。
「ぴゅぅるるるる───……」
「なんだ?……口笛?」
「浮いてる……」
口笛に合わせ、矢が浮かんでいた。
そして、鏃部分が俺とカグヤの方に向く。
「ぴゅぅい!!」
「おわっ、来たぞ!?」
「まさか───……特異種!?」
そういやクロネが言ってたっけ、特級冒険者は全員が特異種だって。
ナクシャトラの能力は矢の軌道を操作することか。それも一度にこんなたくさん。数は二十を超える矢が、俺とカグヤに向かって飛んできた。
が、問題はない。
「第一地獄炎、『紅蓮掌』」
両手に炎を纏わせ振る。
すると、炎が舞い炎に触れた矢が一瞬で燃え尽きたのだ。
「なっ!? この……」
ナクシャトラは再度、矢を抜いて投げる。口笛を吹くと矢が飛んできた。
「いや……同じ手、俺に通じると思うか?」
矢は再び燃えカスに。
気が付くと、冒険者たちは全員カグヤに倒された。
そして、最後の矢を投げ切ったナクシャトラの顔色が悪くなる。
「カグヤ、とどめどうする?」
「じゃあ一緒に」
「おう」
「ちょ、待て待て!! まっ」
「「せーのっ!!」」
俺とカグヤは一瞬で飛び出し、ナクシャトラにトドメを刺す。
ナクシャトラの顔面に拳、腹に蹴りを突き刺し、そのまま壁に吹っ飛んで激突。ナクシャトラは動かなくなり、そのまま気を失った。
「おしまい。なーんだ、特級冒険者っていうから強いと思ったけど、こんなモンか」
「期待外れねー……それより、こいつらどうする?」
「んー……」
俺は受付カウンターを見ると、職員がビクッと震えあがった。
せっかくなので受付嬢さんに聞いてみる。
「なぁ、冒険者資格はく奪する?」
「え、えーと。その……」
「ま、いいや。とりあえず見てたと思うけど、売られた喧嘩買って返り討ちにしただけだから。もうここでは依頼受けないし、盗賊の報酬もいらない」
「は、はい……」
「よくわかんねーけど、こういうのやめた方がいいよ。じゃ」
「ばいばーい。ねぇフレア、お腹減った」
「俺も。露店で買い食いしようぜ」
「アンタのおごりでね!」
「なんでだよ……」
そんな会話をしながら、俺とカグヤは冒険者ギルドを後にした。
もうこの冒険者ギルドはいいや。明日には出発だし、今日はのんびりしよう。
◇◇◇◇◇◇
カグヤと一緒に買い食いを楽しんでいると、聞き覚えのある声がした。
「い、いた!! おい、そこの二人!! おーい!!」
「ん……あれ、ナクシャトラじゃん」
「なによ。まだボコられたいの?」
「違う!! っと……ここじゃ目立つ。ちょっと来い!!」
「「は?」」
俺とカグヤはナクシャトラを睨む。
ナクシャトラはビクッとした。
「つーか、なんで命令口調なんだよ。お前、俺たちに喧嘩売ったの忘れたのか? 俺、売られた喧嘩は買うし、買ったあとも忘れないぞ」
「アタシも。正直ぶっ殺してやりたい」
「うっ……す、すまんかった。その、お前らの強さを見込んで頼みたいことがあるんだ!!」
「「…………」」
「頼む。メシなら奢ってやるから、話を聞いてくれ」
「……どうする?」
「面白い話ならいいわよ」
そりゃ聞かないとわからん。
ナクシャトラを見ると、最初の態度が噓みたいに弱く見えた。
まぁ、事情があるのかもな。
「わかった。聞いてやるけど……メシ、もうちょい食べたらな」
「わ、わかった。奢ってやる」
「やった! じゃあアタシあっちの海鮮焼き食べたーい」
「俺、あっちの肉串がいいなー」
「ああもう、いくらでも奢ってやる!!」
ナクシャトラの金が尽きるまで、俺とカグヤは露店を満喫したのだった。
さて、ナクシャトラの話とはなんだろうか?




