森の襲撃者
大量のエルフが弓矢を俺たちに向けていた。
ちょっとだけ驚いた。俺やカグヤもここまで接近されて気配を感じなかったし、シラヌイも臭いを感じていなかった。
周囲を見回していると、エルフの一人が枝の上から言う。
「そのまま動くなよ。少しでも動けば、お前たちの脳天に矢をブチこむぞ」
「あの、お前ら何? なんか用か?」
「動くんじゃねぇっつってんだ!!」
すると、矢が俺の足元へ。
なかなかの腕前だ。あと数センチずれてたら、俺の足に矢が刺さってた。
俺は、シラヌイとカグヤを押さえ質問する。
「動かないから教えてくれよ。なんで俺たちを狙う? 俺たち、ロードマンティスを討伐しに来た冒険者だ。狙われる理由がわかんねーよ」
エルフの一人が木から飛び降り、俺たちから離れた場所で言う。
「この森、正確にはこの区画……ここはエルフの縄張りだ。知らねーのか? グリーンエメラルドはエルフと龍人の国。入るのはいいが完全な自己責任……ここでお前たちを殺して、死体を冒険者ギルドに投げ込んでもいいんだぜ? 冒険者ギルドはグリーンエメラルド領土側に建ってるからな。ここじゃオレらのルールが適用されるんだよ」
「ふーん……で、目的は?」
「有り金全部。それと、お前たちの身柄を拘束して、本国へ連れて帰る」
「え、なんで?」
「決まってんだろ。若い労働力として死ぬまで働いてもらうんだよ」
「…………」
俺は少し考えこむ。
そろそろカグヤが限界だし、ずばり聞いてみた。
「あのさ……冒険者ギルドにいた冒険者たち、知り合い?」
「あぁん?……くははははっ!! もちろん知り合いだぜ? 知ってるか? ここに初めて来た冒険者に親切にして依頼を受けさせ、オレらに引き渡す……それがあそこの冒険者ギルドにいる連中の仕事だ。依頼受けるより、冒険者売った方がいい金になるんだとよ」
「ああ~……どうりで親切なわけだ。俺たち、売られたのか」
「そうさ。今頃、仲間がギルドの連中に金を払ってるだろうよ。ああ、お前たちの仲間もいたなぁ? へへへ、いい金になったぜ?」
「そっかそっか……」
一つだけ、間違いないことがあった。
「ははは。エルフってクズ集団なんだな。よくわかったよ」
「あぁん? おい教えてやる。グリーンエメラルド本国でそんな舐めた口聞いてみろ? 一瞬で挽肉にされるからな?」
エルフ男は俺に近づき、ナイフで頬をぺちぺち叩いた。
長い耳、白い肌、整った顔立ち、エメラルドグリーンの髪。なんとなく植物っぽい匂いがする……ああ、うん。もういいや。
すると、カグヤが言う。
「何人残す?」
「全員。せっかくだし、冒険者ギルドに連れていこうぜ。カグヤ、賊に出会った時の対処法だけど」
「なんだ? お前ら何言ってる?」
「賊に出会ったら、冒険者は身を守るため自衛が認められるのよ。捕らえれば報奨金も出るわ」
「よし。と言いたいけど……あのギルド、機能してんのかね?」
「ま、別にいいでしょ。それよりいい? アタシ、そろそろ限界」
「俺も。じゃあやるか」
「はぁ? お前ら───」
次の瞬間───俺とカグヤの殺気が周辺を包む。
「滅の型、『百花繚乱』!!」
「おぼぐぶげっ!? っげぁぁぁっ!?」
顔面だけを狙った拳が、エルフの顔を叩き潰す。
気絶しないように手加減した───すると、矢が飛んでくる。
「神風流、『嵐轟脚』!!」
カグヤの蹴りの風圧で矢の軌道が変わる。
そして、俺をも超える速度でカグヤは走り、跳躍───矢を番えていたエルフの女性めがけて蹴りを放った。
「神風流、『三雷雨』!!」
「ぎゃっはぁ!?」
顔面、心臓、股間を狙った蹴りを喰らい、女エルフは吹っ飛んで木にめり込んだ。
その後も、矢を番えるエルフを優先してカグヤは蹴りを放つ。股間、顔面、両腕、両足……骨を丹念に折り、男の股間を丁寧に潰し、女は顔面を蹴っていた。ほんと容赦ねーやつだ。
弓では不利と感じたエルフは、ナイフを抜いて木から飛び降り俺に向かって来た。
「舐めんな人間っ!!」
「舐めてんのはお前だろ。第六地獄炎、『天道』」
右の五指に黒い炎を灯し、エルフに触れた。
「───」
エルフはビクンと痙攣し、自らの武器で太ももを刺した。さらに腕を刺し、脇腹、目を刺し、脚の指を切り落とす───え、えっぐぅ……『自傷行為させる呪い』ってヤバいな。
だが、エルフは泣いていた。そして苦しんでいる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛い、痛いぃぃぃぃぃぃっ!! でも、でも、傷付けずにはいられねぇぇぇぇぇっ!!」
俺はそのエルフを無視。
『天道』を喰らった人間は『自傷行為』を行う。だが、第六地獄炎の炎は呪いだが死なない。苦しませるための炎だ。現に、切り落とした足の指は勝手に止血されてるし、血をいっぱい流しているのに血色はいい。
俺は、迫ってくるエルフに向かって拳を握る。
「だりゃぁぁっ!!」
「滅の型、『桜花連撃』!!」
拳を固め、骨を狙った連撃……エルフの骨が砕け倒れた。
同様に、向かってくるエルフは全て骨を狙った。立てないように、逃げないように。
俺とカグヤ、そしてシラヌイから逃げられるはずもなく、エルフの集団は全滅した。
全員が、数十箇所の骨折だ。カグヤにやられた奴は出血も多いが。
「で、まだやるか?」
俺は、最初に話しかけてきたエルフリーダーに聞く。
「ま、待て!! お、オレたちに手を出すとボスが黙っちゃいない。今逃がしてくれたら何もしない。頼む、もうやめてくれ」
「そういう奴に限って復讐してくるんだよな。なぁカグヤ」
「うんうん。まぁそっちのが楽しいけどね……どうする?」
「冒険者ギルドに引き渡す」
───と、俺は見逃さなかった。
引き渡すと言った瞬間、エルフの顔が笑ったのだ。
「なーに笑ってんだ?」
「え、いや別に」
「うし。じゃあ引き渡すか。カグヤ、その辺の樹から蔦持ってきてくれ。全員に巻いて引きずるから」
「はいはい。で、いいの? そいつそのままで」
「いや?」
「え───はぎゅっ!?」
俺はエルフの顔を殴った。
「おい、一つ教えてやる……死なない方が苦しい場合もあるからな」
「ふぇ、ふぇ……」
「まぁ、いっか」
そう言って、俺はエルフたちを蔦でぐるぐる巻きにし始めた。




