実力を測りましょう!!
「落ち着いたか?」
「は、はい……見苦しいところをお見せしました」
「いいよ。お前も溜まってたんだな」
「……恥ずかしいです。男の人の前で、こんな大泣きを……うぅ」
「ぐ、おぉぉ……わ、わたしも、なお、せぇぇ……は、腹が、痛いぃぃ」
急性胃腸炎でアイシェラのお腹がピーピー音を立てている。このままでは決壊する……見た目も臭いもヤバそうなので、仕方なく治してやった。
「じゅ、呪術恐るべし……大昔、呪術師が最強と言われたのがよくわかった」
「言っとくけど、俺はまだ優しいからな。先生なんて全身に腫瘍を作ったり、本気の時は容赦なく死の呪いを叩き込むぞ」
「…………」
先生、危険な魔獣との戦いでは触れるだけで殺してた。
呪闘技を使わず触れるだけで殺す。それは先生が強者と認めた証であり、手加減せずに倒すということ……一応、俺も死の呪いは教わったけど、使ったことはない。
ま、それは別にいいとして。
「で、どうすんだ? 俺は一緒に行っていいのか、悪いのか」
「私は一緒がいいです!!」
「姫様!! まだそんなことを!!」
「じゃあアイシェラはここでお別れ。私にはフレアが必要です」
「なっ……」
「アイシェラ、お願い。私……フレアにいろいろ教えてもらいたいの」
「いや、むしろ俺が教わりたい。千年ぶりの世界で知らないこといっぱいなんだよ」
「姫様には私が手取り足取り教えて差し上げます!! あんなことやこんなことも!!」
「アイシェラ、テメーはクビだ」
「うっほぉぉぉんんっ!! じゃなくて!! ああもう!!」
「アイシェラ、忙しいなぁ」
「やかましい!! っく……はぁぁ、わかりました……そいつも連れていきましょう」
お、アイシェラが折れた。
つーか、今も言ったけど俺が知りたいんだよな。プリムとアイシェラに同行したのも、この世界が千年前と違うし、そもそも俺は故郷から出たことがない。まぁ……こいつらと一緒だと退屈しないけど。
「ただし。ブルーサファイア王国に入国後、姫様が無事に亡命できるまでだ」
「ああ、それでいいよ。送り届けたら次の冒険に出るし」
「ふん……それと言っておく。天使が現れたら責任を持って倒せ。姫様の御身に何かあったら、私は貴様を許さんぞ」
「はいはい。わかってますー」
「それと、姫様の初めては私の物だ。いいな」
「別にいいけど……」
「テメーのもんじゃねぇよクソ野郎が」
「くっはぁぁぁぁっ!? 姫様の言葉が突き刺さるぅぅぅっ!!」
「プリム、マジでこいつをクビにしろよ」
「考えておきます」
というわけで、俺はブルーサファイア王国までの同行を許された。
◇◇◇◇◇◇
それから、魔獣を倒しつつ海沿いの町に向かった。
広い街道沿いなのにけっこう魔獣が現れる。俺の炎とアイシェラの剣、そしてプリムの護衛にシラヌイを付け、旅は進む。
けっこう、面白いモノもたくさん見た。
「なぁ、あれなんだ?」
「あれは滝ですね」
「たき? 水がどどどーって落ちてるな!! すっげぇ迫力!!」
「近くに行くともっと迫力がありますよ!!」
「へぇー……なぁ、行ってみないか?」
「はい!!」
「姫様可愛い。おい貴様、姫様をむやみに連れ出すな」
「本音が最初に出るのがあんたらしいな……」
川の流れが激しい場所の先に、スゴイ落差の地面があった。そこに水が流れ落ち、すごい音がした……世界にこんなすごい川、じゃなくて滝があるなんて。
「……ん?」
「フレア?」
「あ、いや……誰かいないか? ほら」
「え?……誰もいないですけど」
「んー……気のせいか」
ふと、滝に人影が……まさかまた変態天使かと思ったが、どうやら気のせいみたいだ。
すると、アイシェラが言った。
「滝もけっこうだがそろそろ行くぞ。この滝があるということは町まで近い……恐らく、明日には到着するだろう」
「お、そうか。じゃあ今日はとびっきりの野営料理を作らないとな」
「やったぁ! で、ヘビですか!?」
「お前、すっかりヘビ好きになったよな……まぁいいけど」
この日は、全長十メートルのヘビを捕獲。大蛇の丸焼きを作り大いに盛り上がった。
◇◇◇◇◇◇
「目標発見」
「第七王女確認」
「呪術師確認」
「目標確認」
「戦術固定」
「よろしく頼むよみんな~♪ 呪術師の少年をツツいてくれ♪ 量産型天使クン♪」
「「「「「十二使徒の御心のままに」」」」」
◇◇◇◇◇◇
もうすぐ海沿いの町に到着。とはいかなかった。
広い街道の真ん中を歩き─────俺は気付いた。
「…………アイシェラ、シラヌイ、プリムを頼む」
「え……?」
「わかった。お前が言うなら間違いないのだろう」
『グルル……』
アイシェラが剣を抜き、シラヌイの身体が燃える。
俺はプリムたちから離れるように前に出ると、空から光の槍が何本も振ってきた。
「燃えろ、『火乃加具土命』!!」
右腕をすっぽり覆う籠手を出し、炎の壁を空に造って光の槍を相殺する。
右手の指を二本立て、空から降ってくる何者かの一つに狙いを定め『呪炎弾』を発射……うっぉお、籠手から出した呪炎弾、いつもよりデカくて速度も半端じゃない。
「─────っ!?」
「命中!!」
空から来た何者かは五人。そのうちの一人に命中し、骨も残らず燃え尽きた。
威力も上がってるし、呪術を込めなくても燃え尽きちまった……この籠手ヤバいっす。
そして、残り四人。
やっぱり天使……背中に天使の翼がありやがる。
四人の天使は俺を囲むと、それぞれの光の槍を生み出した。
「呪術師抹殺」
「第七王女抹殺」
「呪術師抹殺」
「第七王女抹殺」
「抹殺・抹殺・抹殺・抹殺」
「……なんだこいつら。四つ子か?」
四人は同じ顔だった。
光の槍の形状だけ違う。
一人は巨大な槍を両手に持ち、もう一人は帆先が長く柄の短い槍を両手に、もう一人は短剣のような槍を何本も持ち、最後の一人は普通の槍を一本構えている。
「あの、何か御用……ですよね!!」
短剣サイズの光の槍が飛んできた。
俺は全身を炎で覆い、籠手を構えて短剣天使に向かう。すると双剣天使が俺に向かって突っ込んできた。
「抹殺」
「知るかボケ!!」
「ごぁぁっ!?」
「お前も、邪魔ぁぁっ!!」
「ぐっぶっ!?」
交差して斬りかかってきたのでしゃがみ、そのまま飛び上がり膝蹴り。顎にヒットし、そのまま全身が火達磨になって燃え尽きた。
もう一人も回し蹴りで首の骨をへし折る。するとやっぱり火達磨に。
「抹殺」
「ふんっ!!」
巨大槍天使は槍を斧のように振り下ろす。だが、火力を上げ籠手で受けると、巨大槍はジュワっと蒸発した。
巨大槍天使の顔が驚愕に歪むと同時に顔面パンチ。巨大槍天使の顔と身体が燃えあがる。
最後、俺は拳を構える。
「第一地獄炎、『噴射砲』!!」
「─────っ!?」
全身の炎を後方に向かって噴射。推進力に変え、短剣天使のボディに向かって飛び殴る。
短剣天使は火達磨になりながら吹っ飛び、消滅した。
「押忍!!」
襲撃開始から約二分。天使は消滅した……なんか弱かった。
◇◇◇◇◇◇
天使の襲撃が終わった直後。
フレアですら気付かない上空に、一人のイケメン天使がいた。
「ふむふむ。やっぱり量産型天使じゃ傷一つ付けられない……こりゃ第五階梯天使でも無理かなぁ~……それに、戦い方を見ると彼、接近戦はすごいけど遠距離が大したことないねぇ。炎の弾を撃つだけ、それだけじゃぁオレには勝てない……」
聖天使教会十二使徒・『風』のラーファルエルは、量産型天使という十二階梯よりも弱い天使をフレアにぶつけ、実力を測っていた。
そして、改めて思う。
「魔神器の炎だけじゃオレには勝てない。よーし、情報は集まったしそろそろオレがツツいてやろうかな……ふふ、久しぶりに楽しくなってきた♪」
久しぶりに、『風』のラーファルエルは楽しくなってきた。




