クロネの情報
買い物を終え、宿に戻ってきた。
荷物は部屋に置き、アイシェラは部屋の隅で丸くなっているブルーパンサーに話しかけた。
「起動」
『オーケー』
「メンテナンスモード」
『オーケー。メンテナンスライズ』
すると、ぷしゅーっと音がして、ブルーパンサーの身体を覆う装甲が綺麗に開かれた。
オリハルコン製の装甲は分厚く、中身は青銀のメインフレームと、俺では理解できないメイカの技術が詰まっていた。
アイシェラは、荷物から工具を取り出す。
「……見てても面白くないぞ」
「いや、暇だし見てる。夜になったらプリムたちと一緒に外で飯食おうぜ」
「ああ。そうだな」
アイシェラは服の上着を脱いで肩を露出させ、グローブを嵌める。
そして、ブルーパンサーの内部を点検。マガジンを取り出し銃弾を込めたり、よくわからん黄色い球体を抜いて、荷物から出した妙な箱に入れた。
「それ、なんだ?」
「これは『雷』が収められている特殊な箱だ。これに魔石を入れて『充電』し、再び戻す。そうすれば『雷銃弾』が放てる」
「へぇ~」
「メイカオリジナルの機構だ。あの子は自覚していなかったが、ラングラングラー博士を超える天才だぞ、彼女は」
「すげぇなぁ。今頃、新しい店舗でオリジナルゴーレム売ってたりしてな」
「かもな……」
アイシェラは工具を使い、ブルーパンサーの内部を点検する。
実装型はメンテナンス作業が大変らしい。俺はなんとなく聞いた。
「アイシェラ、楽しいか?」
「…………そうだな。正直、ゴーレムをいじるのは楽しい。私がお嬢様以外で夢中になるとは……正直、驚いているぞ」
「プリムに言えば? あいつ、きっと喜ぶぞ」
俺はベッドに寝転がり、アイシェラの作業を見守る。
今気づいたけど、こいつプリムより胸デカいな。仰向けになってブルーパンサーの下に潜り込んでカチャカチャやってるから、胸がけっこう揺れてる。
「……なんだ、不快な視線を感じるぞ」
「いや、お前って胸デカいな。邪魔じゃね?───っぶねぇ!?」
工具が飛んできたのでギリ躱した。
なんかアイシェラが睨んでる……胸押さえて。
俺、変なこと言った……まぁ、こんなに怒るってことは言ったんだろうな。
とりあえず謝る。
「悪かった。あ、そういえば、女って胸のこと言われると恥ずかしい……んだっけ?」
「貴様の生活環境を真剣に知りたいと思ったぞ。以前から言っていたが……呪術師に羞恥心はないのか?」
「んー……恥ずかしいって気持ちはあんまりないぞ? 門下生に男も女もないし。水浴びも男女一緒に川で素っ裸で浴びるし。俺と同年代の女もいたけど、みんな胸とか隠そうとはしてなかったぞ。素っ裸で昼寝してるやつもいるし」
「…………」
俺、先生やラルゴおじさんの背中を流したこともあるし、ヴァジュリ姉ちゃんの身体を拭いたこともある。恥ずかしいとかよくわかんねーや。
「呪術師……おそるべしだな」
「そうか?」
「ところで、貴様が言っていた呪術師。本当に心当たりはないのか?」
「ない。まぁ、来て喧嘩売られたら戦うけど。俺から何かするつもりない」
「そうしておけ。お嬢様に危険が迫るのだけはダメだぞ」
「ああ」
アイシェラはブルーパンサーの点検を終え、頭を撫でる。
「メンテナンス終了」
『オーケー。クローズライズ』
そして、青い装甲がゆっくりと元に戻る。ブルーパンサーの点検が終わった。
アイシェラは工具をしまい、首をコキコキ鳴らす。
「さて……お嬢様たちが戻ってくる前に汗を流したいのだが……貴様、覗くなよ?」
「なにを?」
「……もういい」
アイシェラは着替えを持って、シャワー室へ。
俺も大きな欠伸を一つ……とりあえず、寝るかな。
◇◇◇◇◇◇
夕方ごろ。
ホクホクした顔のカグヤとプリムが戻り、クロネとシラヌイも戻ってきた。
俺とアイシェラが出迎えると、プリムが言う。
「二人とも、仲良くしてましたか?」
「ああ。そういやアイシェラがさ、今夜プリムを襲うとか」
「馬鹿変なことを言うな!! お嬢様、こいつのデマに惑わされないで!!」
「…………なんだか仲良しですね」
すると、買い物袋を持ったカグヤが言う。
「ねー、ごはん食べに行きましょうよー。アタシとプリムでいいお店見つけたのよ!!」
「お、いいね。肉と魚どっち?」
「どっちも!! ほらクロネ、行くわよ!!」
「にゃん……」
『くぅん』
「ん、どうしたんだよ?」
『わんわん!』
シラヌイは尻尾をフリフリしながら俺の周りをぐるぐる回る。
よくわからんが、さっさとメシだ。
宿を出て、カグヤとプリムおすすめの飲食店へ。店はログハウス風で、店内は肉や魚の匂いがした。
「あの、予約した者です。個室をお願いします」
「は~い。予約のお客様はいりま~す」
二階の個室へ案内される。
個室はけっこう狭い。だが、二階からは外の景色が見え、ログハウスならではの樹の匂いがした。
「いい感じだな」
「でしょ? グリーンエメラルドの国境沿いだからなのか、自然あふれた感じのお店が多いのよ。プリムも、花で造った香水とか買ってたしね」
「えへへ。アロマです」
「お嬢様クンカクンカ!!」
「アイシェラ、嗅がないで」
と、いつのもやりとり。
料理メニューを見ると、森っぽい雰囲気なのにがっつりした肉料理や魚料理が多かった。
大皿メニューを頼み、待っている間……どうもクロネが暗い。
「おい、どうしたんだよ」
「にゃん……」
「ほら、ネコミミ~」
「にゃふぅ~ん……って、撫でんにゃ!!」
ネコミミ揉みでは誤魔化せなかった。
料理が運ばれてきたので、さっそく食べ始める。大皿メニュは-肉と魚中心で、プリムはサラダを個別で注文して食べていた。
店員が来ないのを見計らい、窓際を確認したクロネは話し始めた。
「この町、けっこうヤバいにゃん……特級冒険者序列7位の『森人』ナクシャトラがいるにゃん。エルフ最強の戦士で、エルフで最も人間嫌いの……」
「ふーん……あ、冒険者で思い出した。カグヤ、馬車のメンテナンスに何日かかかるし、冒険者ギルドで依頼でも受けようぜ」
「お、いいわね。討伐依頼とかないかな~」
「待つにゃん。やめた方がいいにゃん……ここのギルド、人間の冒険者は冷遇されるって話にゃん。人間嫌いのナクシャトラが、何も知らないで依頼を受けにきた人間の冒険者に無理難題を押し付けてわざと依頼失敗させて、多額の賠償金を請求するとかいう話もあるにゃん」
「……前から思ってたけど、特級冒険者ってクソしかいないのかしら?」
カグヤが嫌そうな顔をする。
ま、俺も同意見だ。ブリコラージュといい、クレイ爺さんといい、変なやつばっかりだ。
「ここはパープルアメジストとグリーンエメラルドの国境で中間都市だけど、グリーンエメラルドと思った方がいいにゃん。うち、情報集めして気付いたけど……けっこうな数のエルフがいるにゃん。それも、どいつもこいつも怪しい、盗賊みたいな連中」
「ふーん……まぁ、大丈夫だろ」
「そーね。アタシもフレアもいるし、アイシェラもかなり強くなったしね」
「お嬢様は私が守る!」
「にゃん……じゃあ、くれぐれもナクシャトラとは揉めるにゃよ」
「へいへい」
と言ったが───やっぱりクロネの期待は裏切られるのだった。
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