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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十章・深き森のグリーンエメラルド

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新しい領土へ

 呪術師との戦いを終えた俺は、馬車の屋根で寝転がっていた。

 揺れが気持ちよく、太陽の日差しが眩しい。

 目を閉じると、眠気が襲って───。


 ◇◇◇◇◇◇


「お───ここは」


 目を開けると、闇の中だった。

 いつもの空間。焼き鳥曰く『魔王宝珠?』とかいう、俺が取り込んだ宝石の中だ。

 俺の目の前に、黒い炎が燃えあがった。


『───やぁ』

「……お、おお」


 不思議な炎だった。

 上半身は呪道着みたいな服で、黄金の刺繍がされている。

 手には扇を持ち、下半身は初めから無い。全身が黒い炎に包まれ、浮いていた。

 顔つきは……なんとまあ、若い男だ。優男というか、黒く長い髪が腰まで伸び、包帯みたいなので巻いてまとめている。細長い帽子をかぶり、真っ白な肌は黒い炎が弾いているように見えた。

 なんとなく、白いお姉さんの真逆な感じ……そんな気がした。


『初めまして。私の名は『六天魔王タケジザイテン』……呪術師に呪いを授けた呪術の王だ』

「あ、どうも。フレアです」

『おや、驚かないのかな?』

「あー……焼き鳥が言ってたんで。第六地獄炎は呪いの炎、呪術師の呪いの元だって」

『あはは。火乃加具土に言われちゃったか。だがまぁ、そんなところさ。私の炎は『呪い』……きみに新しい力を授けることはできないけど、第六地獄炎が目覚めた今、強力な呪いを使うこともできるよ』

「強力な呪い……あの、クレイ爺さんに使ったみたいな?」

『うん。それ以外にもいくつか……試したいならどうぞ』


 どうぞ、って……この『黒い兄ちゃん』って変な感じ。呪術師の全てと言ってもいいのに。

 ぶっちゃけ、呪術師の始まりとか呪いとか興味ない。

 興味があるのは……あの呪術師たちだ。セキドウ、ジョカ、ハクレン、俺の知らない呪術師たち。


「あの、質問いい?」

『なんだい?』


 タケジザイテンはにっこり笑う。

 優しい兄貴ってこんな感じなのかな。


「あの、俺が知らない呪術師なんだけどさ……どうやって炎を使ってるんだ? それに、呪術師ってことは呪いも使えるんだろ? 魔王宝珠は俺が取り込んじゃったし、炎は使えないはず。どうなってんだ?」

『いっぱい質問があるね。全部は答えられないけど、いくつか教えてあげよう。まず、あの呪術師たち……きみの村出身の呪術師じゃないことは間違いない」

「やっぱりかぁ……」


 タケジザイテンは、呪術師を作りだした呪王だ。

 全ての呪術師は魂に呪いを……第六地獄炎の呪いを刻み込む。だから、タケジザイテンは全ての呪術師どうやって生まれたのかを知っているそうだ。

 なので、あの呪術師が俺の村出身でないことは間違いないそうだ。


『すべての答えを教えてもいいけど……どうする?』

「いらね。呪術師の村出身ならよかったなーって思っただけだし。それに、難しい話とか事情とかどうでもいい。俺、この世界を見て回って遊ぶのが目的だからな」

『ブレないねぇ。そういうところ、好きだよ』

「ど、どうも……」


 なんか一瞬だけ背中がひんやりした。

 タケジザイテンは、扇をバッと広げる。


『じゃあ一つだけ。彼らが炎を使える。でも、威力は大したことがないはずだよ』

「え、なんで?」

『簡単さ。全ての魔王宝珠はキミの魂と同化している。でも……呪術師が地獄炎とした『契約』……えっと、『八極式』の繋がりは消えていない。きみが大きな湖だとしたら、彼らは湖の水を手で掬っているだけに過ぎない』

「…………あー、なるほど」

『わからないならいいよ。でも、忘れないでね……きみの魂から魔王宝珠を取り出す方法、なくはない』

「え……」

『じゃあ、今日はここまで。最後の『紫』を目覚めさせたら、みんなでお茶でもしよう』

「お、お茶?」


 そして、視界がぼやけた。


 ◇◇◇◇◇◇


「───あれ?」

「ちょっと、いつまで寝てんのよ」

「……ああ、カグヤか」


 いつの間にか、馬車は止まっていた。

 アイシェラとクロネが地図を見て、プリムが馬のブラッシングをしている。

 シラヌイは大きな欠伸をして、馬車の傍で丸くなっている。

 カグヤが俺の顔を覗き込み、今まさに頭を叩こうとしていた。


「グリーンエメラルドに向かってるんだけど、ちょっと迷子になったみたい。国境近くに大きな町があるはずなんだけどね」

「ふーん……ん、んん~……くぁぁ、よく寝たぁ」

「ねぇ、起きたなら組手付き合ってよ。このへん、魔獣も出ないし暇なの」

「ああ、いい……」


 ちょっとだけ思いついた。

 ふふふ。せっかく覚えた炎、カグヤで試してみるか。

 馬車から降り、プリムたちに『組手する』と言い、少し離れて構えを取る。


「軽くでいいわよ。ガチでやると止まらないからね」

「ああ。じゃあ……やるか」


 同時に地面を蹴り、拳と足が交差した。

 カグヤの足裏と俺の拳がぶつかる。

 カグヤは細かい足さばきで連撃を繰り出し、俺は足を躱し拳を入れる。だがカグヤは上体捌きで上手く躱し、強烈な前蹴りを繰り出した。


「っとぉ、やるな」

「まだまだ!!」


 前蹴りを両腕を交差して防御。カグヤの追撃が来た。

 俺は追撃をうまく躱しつつ───右手の人差し指に、黒い炎を纏わせた。

 悪いなカグヤ……実験に付き合ってもらうぜ。


「神風流、『凪打ち』!!」


 延髄を狙った打ち下ろし───俺は左手でそっと触れる。


「流の型、『漣』」

「わっ!?」


 俺の受け流し、もう何度も見ているのに……アホなやつ。

 そして、右の人差し指をカグヤの額に押し付けた。


「第六地獄炎、『人間道(にんげんどう)』」

「───っ」


 カグヤに呪いをかける。

 黒い炎は一瞬でカグヤに吸い込まれた。

 実はこの呪い、第六地獄炎を覚えたことで使えるようになった。どんな効果かまだわからない。

 カグヤの動きはピタッと止まり、俯いて動かなくなった。


「あ、あれ?……おかしいな、死ぬような呪いじゃないけど……おい、カグヤ?」

「…………」

「んー……とりあえず、呪いを解じ」


 呪いを解除しようと手を伸ばした瞬間、カグヤに腕を掴まれた。


「やべ、油断───」


 手を外そうと腕を動かそうとした瞬間。


「うわっ!?」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 カグヤに抱きしめられた。

 しかも、とんでもない力だ。こいつ、足だけじゃなくて腕力も強い!!

 やばい。これ、強化の呪いか!!


「おいカグヤ、離───」

「はぁ、はぁ、はぁ……あ、熱い、熱いぃ……なにこれ……はぁぁ」

「え、あの……か、カグヤ?」

「アンタ、アタシに何を……ああ、ああぁ……もう、駄目ぇ」

「うおっ!?」


 足払いされ倒された。

 カグヤは馬乗りになり、なぜか自分の胸に手を這わせる。

 顔が赤く、汗がすごい。そしてクネクネと動き、俺の胸に触れた……なんかヤバい。俺の本能がそう告げている。

 これ、何の呪いだ……?


「あ、アタシ……なんか、熱い、なにこれ……アンタに触れたいの、アタシに触れて欲しいの……フレア、お願い……アタシ、もう」

「おお、落ち着け!! まてまて、今呪いを解除するから!! なんだこれ、ヤバい!!」


 その後───様子を見に来たプリムたちが止めに入り、俺は軽蔑の視線を浴びた。

 呪いを解除したカグヤは俺を全力でぶん殴り、しばらく組手をすることはなかった。

 後で知ったが、この第六地獄炎『人間道』の呪い効果は『発情』……浴びた者を強制的に発情させる呪いということがわかった。


 当分、この炎は使用禁止……すみませんでした、俺が悪かったです。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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