BOSS・呪闘流八極式焔種第一級呪術師セキドウ
セキドウと名乗った男は、俺と同い年かちょい上くらいだ。
両手に炎を纏い、俺の知らない型で構えを取っていた。
着ている服は呪道着……それに、なんとなく雰囲気が呪術師っぽい。
俺は甲の型で構え、様子を見た。
「甲の型『甲式の構え』か。様になってんじゃねぇか」
「そりゃどうも……」
間違いなく呪術師。呪闘流を収めた奴だ。
ジョカといいハクレンといい、呪術師がまだいたなんて。
というか、なんで炎を使えるんだ?
「おら、頭悪いくせに余計なこと考えてんじゃねぇよ。かかってきな」
「いや俺、頭悪くないし」
「はっ……じゃあ、オレから行くぜ!!」
「───っ!!」
セキドウは地面を滑るように迫ってきた。
拳に炎を載せ、鋭い一撃───いや、細かい連撃を繰り出す。
「っく……流の型『流転掌』!!」
流転掌で、セキドウの拳を全て受け流す。
だが、セキドウは笑っていた。
「滅の型、『百花繚乱』!!」
「ぐっ!?」
顔面を狙った片手連続パンチ。
俺の得意技を使われた。だが、俺だって負けていない。
反転し拳を躱し、セキドウの脇腹に向かって蹴りを放つ───だが、セキドウの腹は鉄のように硬い。
「甲の型『鉄丸』───痒いぜ」
「蝕の型、『腹下せ』」
足から呪力を流し、腹痛の呪いを送る───だが、やはり効かない。
呪術師に、呪術は通じないのだ。
「だらぁっ!!」
「っく……強い」
「まだまだぁぁぁっ!!」
セキドウの動きは小さく細かい。
超接近しての連続攻撃だ。拳、突き、肘、膝、蹴り。手足の使い方が抜群にうまい。
俺は攻撃をかわし、受け、防御し反撃───だが、セキドウも上手く躱す。
「やるじゃねぇかっ!!」
「そりゃどうもっ!!」
パパパパパパパ───と、細かい攻防が続く。
手数。それこそがセキドウの得意技なのか。でも、それだけじゃない気がした。
そして……楽しかった。
「ハハハハハ!! 楽しいぜぇ!!」
「───ああ」
楽しかった。
同じ呪闘流の戦士と戦ったのは、先生以外いない。ラルゴおじさんの門下生や、村の人たちと戦うことは禁じられていたから。だから……同年代の呪闘流と戦うのが、とても楽しかった。
だから───俺も本気を出す。
「む……ッ!?」
「流の型、『漣』」
「甘い!! 流の型、『漣返し』!!」
セキドウの拳を受け軌道を変え体勢を崩す───だが、変えた体勢からおれの拳を掴み、逆に体勢を崩されてしまう。
俺のバランスが崩れ、セキドウがニヤリと笑う。
「滅の型、『打厳』!!」
「───」
崩れた体勢から、顔面を狙って拳が放たれた。
だが───俺は崩れた体勢から、その攻撃を右の手のひらで受ける。
「流の型『極』───『螺旋巡』」
「っ!? がぁぁっ!?」
セキドウの力がそのまま返され、セキドウの腕がビキビキと音を立てた。
そう。崩れた体勢こそ俺の狙いだった。崩れたように見せかけ、螺旋巡が最も狙いやすい位置を取って拳を誘導したのだ。
セキドウは俺から離れ、腕を抑える。
「っつ……『極』かよ。てめぇ、習得してたのか」
「え?……いや、習得するだろ」
「はっ、何もしらねぇのか。基礎四大行の『極』は習得するのが至難なんだよ」
「え、そうなんだ……先生、そんなこと言ってなかったけど」
「……先生、ねぇ。まぁいい。だが……テメェ、これは知らねぇだろ?」
「?」
セキドウは、両拳と足に炎を集中させた。
俺の知らない構え……再び構える俺。
「───行くぜ」
セキドウの踵から炎が噴射、地面を滑るように移動してきた。
そして、手の炎が螺旋を描くように回転して燃え、そのまま突きを繰り出す。
「烈の型、『回転炎旋突き』!!」
「なっ───!?」
速い───!?
突きの速度が今までと桁が違う。
俺は見た。セキドウの肘、手首、肩にも炎が燃え、腕の突き出す勢いを加速させている。
俺は流転掌でかろうじて躱す───俺より早い。
「っぐ……!? がぁぁっ!?」
一撃、肩に喰らってしまい吹っ飛ぶ。
だが、地面を転がるように体勢を整えた。
「烈の、型……?」
「やっぱ知らねぇようだな。呪闘流の技」
「……どういうことだ」
肩を押さえる俺。
第四地獄炎は自分に使えない……くそ。
すると、セキドウは構えたまま言う。
「基礎四大行を終えた呪闘流の闘士は、炎の資質に合わせ流派を学ぶ。それが『八極式』だ。忘れたのか? オレらは地獄炎の呪術師だぜ? 呪術師の技と炎を組み合わせた技こそ、真の呪術師。呪闘流の闘士なんだよ」
な、なんと……え、じゃあ俺って、え? とんでもなく遅れてるんじゃ。
「お、俺……甲種第三級なんだけど」
「ぶははははははっ!! いやぁ、うん。どんまい」
「うぉぉぉ……じ、地味にショックぅ……え、ってことは!! 武器、武器術って!!」
「武器ぃ? 武器術は八極式から習えるぜ。ちなみにオレも武器は使える。まぁ、今のお前相手に使うつもりはないけどな」
「…………」
俺、弱すぎぃ……八極式って、えぇ~?
がっくり肩を落としていると───風が舞う。
「セキドウ。喋りすぎだ」
「んだよ、別にいいだろ?……で、見つけたのか?」
「ああ」
いきなり、緑色の炎……第五地獄炎の炎が燃えた。
空を見ると、長髪の男が浮いていた。呪道着を着てるってことは、こいつも。
「貴様がヴァルフレアか……」
「……あんたは?」
「フウゲツと名乗っておく。今はそれだけでいい……セキドウ、力試しは終わっただろう。そろそろ帰るぞ」
「へいよ。おいヴァルフレア、もっと鍛えて強くなれ。オレらの目的のためにもな」
「あ、おい!!」
フウゲツと呼ばれた男が手をかざすと、セキドウの身体が浮かぶ。
「フウゲツ、目当てのモンは?」
「これだ。この国のダンジョン最深部に隠されていた」
フウゲツが懐から取り出したのは、見覚えのある本───あれは。
「それ、ヴァジュリ姉ちゃんの日記……!? お前ら、それ!!」
「この先はグリーンエメラルドだ。エルフや龍人と戦って少しは強くなれよ!!」
「ふ……ではな」
「あ、待ておい!!」
二人はすごい速度で飛んでいった。
もう、わけわからん……なんだよ一体。
そして、ようやく馬車が俺の元へ。アイシェラが馬を止めて下りてきた。カグヤとクロネ、プリムも下りてくる。
「何があった!? おいフレア!!」
「…………」
「なんか燃えてる……敵いたんでしょ!!」
「……もういないにゃん。気配が消えた」
「フレア……大丈夫ですか?」
「…………」
俺は、しばらく青空を見上げたまま動けなかった。




