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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第九章・からくりの王国パープルアメジスト

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欠落した心

 結局、シリウスは『ゴーレム・エンタープライズ』の作った最新型で、オリジナルゴーレム大会の最後にサプライズ出場させるつもりだったが、ちょっとした手違いで早く登場してしまった……ということになった。

 俺の姿はばっちり見られた。さらに、『煉獄絶甲』もパープルアメジストの住人ほぼ全員に見られてしまい、なぜか『モルガン整備工場の最新型ゴーレム、ゴーレム・エンタープライズの最新型を焼き尽くす!』とかいう話が、ほんの数時間で爆発的に加速してしまった。

 シリウスを倒した後、俺は会場から脱出……カグヤと合流し、ゴーレム・エンタープライズ本社に戻ってきた。

 一応、警戒はしていたが……すんなりとクレイ爺さんに会えた。

 通されたのは、シリウスがいた地下の実験場。


「いやー、いいデータが取れたよ。シリウスはもったいなかったけどね」

「「…………」」

「小生の依頼を無視したのも不問にする。報酬も支払うよ。うんうん。ありがとうね」


 クレイ爺さんは、怒りすらしていない。

 何も考えていないような、どこか空っぽの笑顔だった。

 だが、周囲にいた研究者たちは俺とカグヤを睨んでいた。シリウスの破壊はやはり大きな損失らしい……町のこと、どうでもいいのかな。


「じゃ、ごくろうさん。帰っていいよー」

「……アンタ、怒らないの?」

「へ? なにが?」

「アタシとフレア、アンタの作ったゴーレムをぶっ壊したのよ?」

「怒る?……んー、べつに怒ってないよ。最初に言った通り、小生の目的はデータ収集だしね。まぁ、シリウスの武装をもっと試したかったってのはあるけどね。うんうん」

「…………」


 狂っていた。

 ようやくわかった。カグヤも理解した。

 俺は拳をぱきっと鳴らし、カグヤは爪先をトンと叩き───。


「おお?」


 殺気を込め、即死級の一撃をクレイ爺さんに喰らわせるふりをした。

 俺の正拳は心臓付近で寸止め、カグヤの蹴りは首で寸止め。

 俺とカグヤの殺気に、周りにいた研究者たちは腰を抜かす。だが……クレイ爺さんはポカンとしていた。


「なになに? びっくりしたなぁ」

「……カグヤ、帰ろうぜ」

「そうね。もうこいつとは関わりたくない」


 クレイ爺さんは、感情が欠落していた。

 命に無頓着。結婚とかしてるか知らないけど、嫁さんや子供が目の前で死んでも変わらなそうだ。

 死に、なんの疑問も持っていない。

 たぶん、ゴーレムが機能停止するのと人が死ぬのは同じ、そんな感覚なんだ。

 クレイ爺さんに背を向け、部屋を出ようと歩きだす。


「あー、ところでキミ。キミの赤いゴーレム、あれはなにかね? シリウスを溶解させるなんてとんでもない熱量だねぇ。うんうん。もしよかったら新しい依頼を」

「パス。もうあんたと関わりたくないわ」


 悪人には悪意がある。

 誰かを踏みにじり、嘲笑い、自分を潤すために他者を蹴り落とす悪意がある。だから許せないし、ぶっ飛ばしたいって思う。

 クレイ爺さんには悪意がない。悪意がないから……こうしてヘラヘラ笑っていられる。俺の言葉なんか通じないし、たぶん死ぬまで変わらない。

 最後に、俺は言う。


「悪意じゃない悪意、か……あんたみたいなやつが『悪魔』なんだろうな」

「んー?」


 クレイ爺さんが首を傾げた瞬間だった。


 ◇◇◇◇◇◇


『そう、それが人間の恐ろしいところだ。天使は神に生み出された以上、心を無くすことは絶対にない……でも、人は心を殺しても生きていける』

「……え?」

『人の闇を理解したね。フレア……きみにプレゼントだ』

「あ───」


 ◇◇◇◇◇◇


 俺の右手の人差し指から、『黒い炎』が灯る。

 その指を、クレイ爺さんに向ける。


「第六地獄炎の呪王『六天魔王タケジザイテン』……『修羅道(しゅらどう)』」


 指先ほどの黒い炎がクレイ爺さんの胸に吸い込まれていった。

 一瞬のことだったのでクレイ爺さんは気付いていない。


「じゃ、元気でねー」


 クレイ爺さんは、明るく空っぽな声で俺たちを見送った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ゴーレム・エンタープライズを出るとカグヤが言う。

 どうやらカグヤは気付いたようだ。


「アンタ、なにやったの?」

「ん……『第六地獄炎』でクレイ爺さんを呪った。すっごく濃い呪力の炎……とんでもないな」

「?……呪術?」

「ああ。第六地獄炎は呪術師が魂に刻む呪いの炎だ」

「よくわかんなーい」

「ま、帰ろうぜ。大会も終わったみたいだし……けっこうな騒ぎになってるみたいだ」


 シリウスが町を破壊したことが伝わってきたのか、住人たちが騒がしい。

 それらを無視し、俺とカグヤはモルガンたちのいるアメジストドームへ。

 アメジストドームの控室へ行くと……メイカたちが、何やら囲まれていた。


「モルガン整備工場の新型ですか!」「あの赤いゴーレムは!」

「フレア選手はどこに!?」「お話をお願いします!!」

「まま、待ってくれ待って。ぼ、ボクらもさっぱり……」

「お引き取りくださーい!!」


 どうやら取材っぽい。俺とカグヤは隠れた。

 すると、クロネが俺の隣に来た。


「……あんたら何したにゃん? あんたの赤いの、モルガン整備工場の新型だって言われて、大会中止になるわで大変だったにゃん……」

「え、中止になったのか?」

「そうにゃん。プリムとアイシェラはあんたらを探してる。まずは合流して、宿に行くにゃん」


 取材はメイカたちに任せるか。

 はぁ……なんか疲れたわ。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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