特級冒険者序列5位ラングラングラー博士
パープルアメジスト王国。
王国って言うから王様がいる。んで城もある。
城は町の一番奥に建っていたデカい建物……だと思ったら違った。
パープルアメジスト王城は、王国の隅っこにひっそり建っていた。じゃああの一番奥にある城は……そう、それは城であって城じゃなかった。
「まさか、これがゴーレム・エンタープライズの本拠地とはなぁ」
「本拠地じゃなくて本社でしょ」
「どうでもいいよ。それより、行こうぜ」
俺とカグヤは、王城にしか見えない会社に向かって歩きだす。
門の前にゴーレムが二台止まっていた。どうやら門兵っぽい。
すると、ゴーレムが喋った。
『お待ちしていました。フレア様、カグヤ様ですね? 社長がお待ちですので、中へお進みください』
「うおっ……しゃ、喋ったぞ」
「実装型なのかな?」
『いえ。遠隔起動です。では、案内ゴーレムに付いて行ってください』
門が開き、車輪が付いた小さなゴーレムが出てきた。
カグヤと顔を見合わせ、とりあえず案内ゴーレムに付いていく。
城の中庭を進んでいくと……。
「わぁ……ゴーレム、ゴーレムゴーレム、ゴーレムだらけ」
そう、中庭は大型ゴーレムだらけだ。
車輪付きやタンクタイプ、二脚や四脚型など様々だ。まるで巨大ゴーレムの集会だな。
すると、案内ゴーレムが言う。
『こちらは屋外ハンガーになります。各企業が提出したオリジナルゴーレムを作成した専用ハンガーです。ゴーレム・エンタープライズ製のゴーレムは社内地下にあります』
「へぇ~、面白そうね」
「だな。それとも戦ってみたいなぁ」
『……まずは、社長にお会いください』
案内ゴーレムに案内され、城の中へ。
城の中は、外観とは大幅に違っていた。壁はよくわからん材質で真っ白な壁だし、ランプじゃなくて白い光が室内を照らしている。研究員っぽい服装の男女がいっぱいいて、何やら小難しい話をしながら歩いていた。
それに、ガラス張りの個室だらけだ。個室内ではゴーレムのパーツっぽいのを何人かで囲んで話し合っているし……素人の俺じゃ何を話しているのかさっぱりだ。もちろんカグヤも。
「で、ラングラングラー博士はどこ?」
『こちらです』
案内ゴーレムはよどみなく動いて城の中を進む。
扉の前で止まり、扉横のスイッチを押すと扉が開いた。
中は狭く、行き止まりだ。
『昇降機です。これで最上階まで進みます』
「「……?」」
『さ、中へ』
中に入ると扉が閉まり、一瞬の浮遊感……そして、ドアが開くと景色が変わっていた。
「え、なにこれ!?」
「なんかふわふわするな……」
『ここが社長室です。中で社長がお待ちです』
「あ、どーも」
大きなドアが目の前にある部屋だった。
案内ゴーレムがドアをノックすると、中から『うんうん、入っていいよ』と声が聞こえた。
案内ゴーレムがドアを開け、俺とカグヤは中へ。
「うんうん。いらっしゃい。悪いね、わざわざ来てもらって」
そこにいたのは、特級冒険者序列5位ラングラングラー博士だった。
◇◇◇◇◇◇
「うんうん。じゃ、仕事の話しようか」
「いきなりだな……まぁ楽でいいけど」
クレイ爺さんはサイドテーブルにあった水差しを掴み、そのままがぶ飲みした。いやグラス使えよ……って思ったが、『特級冒険者は頭がおかしい』の言葉を思い出す。
そして、花瓶に生けてあった花の茎を掴み、そのままモグモグ食べ始めた。
「うんうん。植物植物。自然食品は美味しいねぇ」
「「…………」」
「さて、仕事だけど」
て、テンポ掴みづらい……なんだこいつ。
俺とカグヤはアイコンタクトし、余計なことは言わずさっさと話しをさせることにした。
クレイ爺さんは、花を食べ終えると言う。
「きみたち、小生の試作品と最高傑作と戦って欲しいのよ」
「やる!!」
「おいカグヤ、最後まで聞こうぜ」
「むー」
俺は続きを促す。
「小生の最高傑作、造ったはいいけど会社のゴーレムが束になっても適わなくてねぇ……理論上では、黄金級十二体を一体で相手できるスペックを持つんだ」
「それヤバいだろ……なんでそんなもの作ったんだよ」
「そりゃ思いついたからさ」
うん……こいつも頭おかしいわ。
思いついたから作るとか、あとのこと考えろよ。
「それと、試作型だけど。新型の実装型ゴーレムを作ったんだ。それの性能実験もしてみたい。うんうん。けっこうヤバいシステム組み込んでみたし、いろいろデータ取りたいんだよね」
「けっこうヤバい……?」
「うんうん。それを確かめて欲しいんだ。頼むよ」
つまり、クレイ爺さんの作ったゴーレムと戦えってことか。
カグヤは目を輝かせてるし……まぁいいか。それに、黄金級を超えるゴーレム、興味ある。
「じゃ、やるか」
「決まりね!」
「うんうん。よかったよかった。じゃあ冒険者ギルドに指名依頼出しとくから受けてね。ギルド長に口添えしておくから、依頼成功した暁には等級がアップするから」
「え、マジで?」
「やったぁ!」
「もちろん、報酬も払うよ。なにがいい? お金?」
と、ここでカグヤと俺は顔を見合わせる。
事前に、メイカから頼まれていたことがあった。
「じゃあさ、俺の仲間がゴーレムを所有する権利をくれよ」
「え? そんなことでいいの? うんうん、いいよ」
「よーし決まりね!」
ゴーレムは、許可がなければ所有できない。
現在、アイシェラは違法で所持している状態だ。今のままじゃパープルアメジストからゴーレムを持ちだすことができない。
クレイ爺さんはちり紙に何かを書き、ポケットから取り出したハンコを押す。
「はい。これを一階の受付で見せて。そうすれば許可証出るから。それとギルドで依頼受けたら戻ってきて。すぐに実験始めるから。うんうん」
「お、おお。ってかこんなちり紙で許可証とか……」
「ほらフレア、行くわよ!!」
「お、おい、引っ張んな!!」
カグヤに引っ張られ、俺は部屋の外へ出た。
「さーて……小生も準備準備」
扉が閉まる直前に見たクレイ爺さんは、子供のように嗤っていた。




