BOSS・黄金級鉄機『獅子座』レオ・ノウヴァ②
カグヤとドミニクの戦いは、佳境に入っていた。
互いに一歩も譲らない攻防で、決定打が入らない。
カグヤの回し蹴りがドミニクの腹部に突き刺さり後方に吹っ飛ぶ。だが、ドミニクはピンピンしていた。
少し距離が空き、ドミニクは首をコキコキ鳴らす。
『大したものだ……ふふ、恐るべき使い手が外にはいるのだな』
「アンタもね。ふふ、外はいいわよ? とんでもない奴がゴロゴロしてる。アタシ、そいつらと戦って強くなったのよ。アンタも外の世界に出てみたら?」
『……それもいいな』
レオ・エボルを装備したドミニクは構えを取る。
カグヤも構え、呼吸を整えた。
「アンタは強い。だからこそアタシも敬意を払うわ」
『ほう、今までは本気でなかったと?』
「ううん、本気よ。でも……ここからはもっと本気。全身全霊で行くわ」
『それは楽しみだ……オレもリミッターを外そう』
すると、レオの銀色の装甲が淡く輝きだす。
黄金級の本気に、カグヤの背筋が凍り付く……だが、それ以上に落ち着いていた。
足を抱げ、そのままくるりと回り、足を地面にたたきつける。
舞台に亀裂が入る。
「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ───」
カグヤが、ポツリと名乗る。
レオの爪が銀色に輝きだす。
間違いなく、最強の技で来るだろう。
黄金級ゴーレムは、固有の特性がある。
キャンサーは体内が工場になっており、分裂体を自在に生み出せる。
タウルスは黄金級最硬度の装甲を持つ。
アクエリアスは水分を自在に操る。
そして、レオ。レオの能力は装着者の身体機能を極限までアシストするサポート機能。身体能力が高い者が装備すれば、恐るべき真価を発揮する。
ドミニクという条件を満たした男が装備したレオは、第二階梯天使に匹敵する強さを持っていた。
『いくぞ……『獅子十王裂爪』!!」
リミッターカットし、極限まで身体機能を増幅させたレオ。
輝く爪で対象を十の部位に切断する奥義を繰り出したドミニクは、軋む四肢を無視しカグヤに向かって行く。
対するカグヤは、真正面からドミニクを迎え撃つ。
『───』
勝った。
ドミニクはそう確信した。
真正面のカグヤを倒す───いや、殺すことになる。
それでもよいと、ドミニクは思った。
カグヤは、きっと恨まない───と。
『───……!?』
そして、ドミニクは見た。
真正面にいるカグヤ。今まさに爪を喰らおうとしているカグヤが───笑っていたのを。
そして、カグヤの足が輝いた。
「神風流最終奥義───『天狼銀牙』!!」
恐るべき衝撃と共に───ドミニクの意識はそこで消えた。
◇◇◇◇◇◇
『……………………え、えーと……か、カグヤ選手の、勝利……です』
マックスの『気が付いたら出てた』みたいな声が響いた。
レオが粉々に砕かれ、ドミニクは壁に叩き付け……いや、めり込んで気絶。
全身汗だくのカグヤは膝をつき、呼吸も荒々しくいっぱいいっぱいだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っく、はぁ、はぁ……あ、アタシの、勝ち……」
観客に応える気力もないのか、フラフラとしたまま手を上げた。
足に力が入らず、そのまま倒れてしまう───が。
「お疲れさん」
「あ───」
いつの間にかいたフレアが、カグヤをそっと抱きとめた。
フレアの胸の中で、カグヤが赤くなる。
「驚いた。いや……マジで驚いた。最後の蹴り、全然見えなかった……たぶん、俺の先生よりも早い。はは、すげぇよ……カグヤ、お前ってマジですげぇ」
「……当然でしょ。アタシは最強なんだから」
すると、会場内が爆発したような歓声に包まれた。
傍から見ると、黄金級ゴーレムを倒した二人が抱き合い、愛を囁き合っているようにも見えたのだが……フレアはもちろん、カグヤも気付いていない。
フレアはカグヤを支え、観客に応えていた。
カグヤも、フレアに抱かれたまま観客に応える。カグヤの『女』としての感情が、フレアにくっつくのを躊躇っているのだが、今はされるがままだった。
そして、担架で運ばれそうになっていたドミニクと、レイニーゼが舞台へ。
「完敗ですわ」
「ああ……ふん、だが気分がいい。こんなに『負けた』と思える敗北は初めてだ」
「いや、あんたらも強かったよ。なぁカグヤ」
「ええ。つーかアンタ触んな。もう立てるっての」
「お、おう」
カグヤはフレアから離れ、ドミニクに言う。
「楽しかったわ。ありがとね」
「オレも、感謝する。お前のおかげでわかった。オレはまだまだ強くなれる」
「あなたも、ありがとう」
「おう。俺、海は好きけどアクエリアスの水は嫌いだなー」
「うふふ。可愛い子ね」
互いに健闘をたたえ合っていると……パチパチと拍手しながら、一人の男が現れた。
「うんうん。いやーいい試合だった。うんうん」
薄汚れた白衣に、珍妙な髪型、大きなゴーグル。
半袖短パンにサンダルを履いた、特級冒険者序列五位のクレイ爺だった。
「うんうん。素晴らしい素晴らしい……そっちのキミ、あとそっちの女の子。小生の傑作である黄金級ゴーレムを破壊しちゃうなんてすごいねぇ。うんうん。あのさ、お話を聞かせておくれ。小生のラボに遊びに来て欲しいんだが、どうかな?」
クレイ爺さんは、穏やかな笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
全ての試合が終わり、閉会式も恙なく終了した。
試合は終わったが、明日はオリジナルゴーレム大会がある。関係者は準備に入っているため、舞台内は忙しそうに人が走り回っていた。
そんな中、ヤンガース整備場のヤンガースは、会場外で爪を噛んでいた。
「おのれ……黄金級ゴーレムを破壊しただと? あのモルガン整備場の雑魚が……くそ、せっかく私の最高傑作を持ってきたのに……くそ」
黄金級ゴーレムの敗北は、瞬く間にパープルアメジストに広がった。
ヤンガースは、自身の最高傑作でフレアたちを倒そうとしたが……黄金級ゴーレム破壊のニュースを聞いて断念せざるを得なかった。
「くそ、くそくそ!! モルガン整備場め……!!」
一人、会場前で悪態をつくヤンガース。
このまま、おめおめと引き下がるしかないのか……と、その時だった。
「あー、ちょっとそこのキミ。いいかね?」
「む……ん、なぁっ!?」
呼ばれ、振り返り……仰天した。
そこにいたのは、信じられない人物だった。
「うんうん。ちょーっと話を聞かせてくれないかな? うんうん、きみにとっていい話になると思うんだ。うんうん……うんうん」
うんうんと、しつこく頷く男がそこにいた。




