BOSS・黄金級鉄機『水瓶座』アクエリアス・ノウヴァ
最強のゴーレムマスターとの戦い。
俺とカグヤとメイカは控室へ。最初に戦うのは俺で、会場の準備が必要らしい。
なので少し休憩。シラヌイ弐型の整備もメイカにお願いした。
「……終わりました。あの、今さらですけど……本当に大丈夫ですか?」
「え、なにが?」
「いえ。黄金級……最強のゴーレムが相手なのに、パワーアシストもろくにない、軽量砲とブレードしか内臓していないスクラップから作ったゴーレムで挑むのは、さすがに危険すぎます……」
「おいおい、シラヌイ弐型をスクラップとか言うなよ。こんなに可愛いのにな」
『ワン!』
赤い犬であるシラヌイ弐型。
ゴーレムと戦うためだけの装備だが、けっこう愛着があった。
こいつのおかげで、ゴーレムと戦えた。感謝してもしきれない。
「それに、俺の武器は炎だ。地獄の炎で焼き尽くしてやるよ」
「……フレアさん」
メイカは、不安そうに言う。
「フレアさん、これだけは約束してください……無理はしないで」
「おう、わかった」
「大会優勝したことで、オリジナルゴーレムの販売権は獲得しました。賞金も入りましたし、お父さんが残した工場も修繕できそうです。あたしや兄さんからすればこれ以上ない結果……お願いですから、無茶だけは」
「わかったって。それよか、応援頼むぞ。俺が勝つところ、しっかり見てろよ」
「……はい!」
メイカはようやく笑ってくれた。
すると、ヤンガースを探し回っていたカグヤが戻ってきた。
「あーもう!! ヤンガースとかいうのいないし!!」
「そんなすぐ見つかるわけねーだろ。馬鹿かお前」
「はぁぁ!? アンタマジでムカつく!!」
「ま、まぁまぁお二人とも」
ヤンガースに落とし前は当然つける。
だが、今は決勝戦だ。プリムにはアイシェラやクロネが付いてるし、今度は安心して戦える。
すると、控室のドアがノックされた。
「フレア選手。会場の準備ができました。試合会場へお越しください」
「ほーい。んじゃ、行きますか」
俺は軽く伸びをし、シラヌイ弐型と一緒に会場へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
会場内に入ると、決勝戦並みの熱気が伝わってきた。
リングの中央に立つフワフワした女。その隣には大きな水色の水瓶を抱える女性型ゴーレムがいる。あれが黄金級ゴーレムの一つ『アクエリアス』ってやつか。
俺はシラヌイ弐型に目配せする。
「シラヌイ弐型、けっこう強そうだぞ……いけるな?」
『ワン!』
シラヌイ弐型は勇ましく吠えた。
舞台に上がると、フワフワした女はスカートを摘まんでお辞儀した。
「ふふ、わたしとドミニクさんにあれほどの啖呵を切れる人なんて初めてかも。どうやらパープルアメジストの人ではさなそうね?」
「うん。俺、ここじゃないところから来たんだ。いろんな奴と戦ってきたけど、ゴーレムみたいに硬いやつは初めてだ」
「ほほほ。面白い子ねぇ……」
女はケラケラ笑い、スッと目を細めた。
すると、アクエリアスからコポコポと水が湧きだす……なんだありゃ。
「完全制御された『黄金級』の恐ろしさを知らないというのは、外から来た人にはわからないのね……いいわ、わたしが教えてあげます」
「そりゃどーも。ぜひ教えてくれ……『実装』」
『ウェアライズ』
シラヌイ弐型を身に纏い、構えを取る。
アクエリアスから水があふれ、舞台の場外に流れ出した。
「黄金級鉄機『水瓶座』アクエリアス・ノウヴァ、そして『玄人』ゴーレムマスターのレイニーゼがお相手します」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。さぁて、二体目の黄金級……楽しませてもらうぜ!!」
互いに名乗り、俺はアクエリアスに向かって走り出した。
◇◇◇◇◇◇
俺は半身を燃やしながら走り出す。
すると、アクエリアスが傾き、注ぎ口から大量の水が流れ出した。まさに水瓶をひっくり返したような惨状に、俺は思わず急停止。
「み、水!?」
「ええ。水です。ただし……タダの水ではありませんがね」
流れた水は、意志を持つかのように形を変えた。
グニャグニャしたような塊がいくつも生まれ、舞台上を完全に包囲する。
「『柔らかい雫』」
「───っ!!」
水の塊は、複雑な軌道を描きつつ俺に向かってきた。
俺は塊を躱し、そのうちの一つをハイキックで叩き壊そうとする───が。
「くそ、やっぱり……っ!!」
水の塊は簡単に砕けたが、小さな水の塊がいくつも増えただけだった。
砕けた塊もまた、俺に向かって飛んでくる。
「しゃらくさいな!! 第一地獄炎、『縄炎上』!!」
俺は縄状の炎を左腕に巻き付け、めちゃくちゃに振り回す。
やはり、ゴーレムの生み出した水より俺の炎が上だ。水の塊は炎に触れた瞬間に蒸発する。
だが、アクエリアスから水が無限に湧きだし、水の塊もすぐに補充される。
あの水、どうやって出てくるんだ?
「あらあら。すごい炎ね……ならこれは? 『流れ落ちる滝』」
「え……うのわぁぁぁぁぁっ!?」
俺の真上に、大量の水が落ちてきた。
まさに滝。ドドドドドドドドドーっと、大量の水が俺を押しつぶす。
あまりの圧力に膝を付いてしまい、呼吸もできない。
「ぐ、っく……」
水の重圧やべぇ……息できねぇ。
「ふふ、無限に水分を放出し操る。それが『アクエリアス』の能力。きみの炎でも蒸発できない水量……勝負はもう決まったわね」
「へへへ……どう、かな……ッ!!」
当然だが、俺は負けるつもりはない。
立ち上がり、全身を燃やす……シラヌイ弐型も溶け始めた。
俺の周りだけ、水が常に蒸発を続けている。
「……水量増幅」
「ぐっ……!!」
だが、水の勢いが増す。
それでも、俺は負けない。
それに……俺の炎は、これだけじゃない。
「大した能力。でも、冒険者や特異種程度が、ゴーレムマスターに勝てるはずないわ」
「そりゃ、どうかな……?」
「最大水量」
口答えが気に入らなかったのか、レイニーゼの命令で水量がさらに増した。
舞台から流れた水が、会場内にたまり始める。
なんて水量、水圧……これが黄金級の力なのか。
「く、ははは……やっぱゴーレムってすっげぇ!!」
「わかってくれたようで。じゃあ、おしまいにしてあげる」
「ああ。そうだな……」
次の瞬間、俺の右足が青く燃えた。
「第二地獄炎、『グランド・フリーズ』!!」
「!?」
濡れた舞台が一瞬で凍り付き、俺を押しつぶそうとしていた滝も凍り付く。
それだけじゃない。舞台の下に流れていた水も凍り始めた。
「な……っ!?」
「俺の炎、燃やすだけじゃないんだよね!! 第二地獄炎、『アイスクラッシュ』!!」
水を凍らせて丸め、思い切り蹴り飛ばした。
レイニーゼはアクエリアス本体の影に隠れ、氷の塊が爆ぜると同時にアクエリアスに命中する。だが、さすがオリハルコン製……氷の塊程度じゃ傷一つ付かなかった。
だが、もう俺は動いていた。
「滅の型、『轟乱打』!!」
凍った地面を滑るように移動し、アクエリアス本体を殴りまくる。
注ぎ口が凍り付いたアクエリアスは、ただの置物になっていた。
「甲の型、『捻打厳』!!」
呪力をらせん状に纏った拳が突き刺さる。
だが、硬い……それに、俺も手が痛い。
「な、なんて子……!! くっ、アクエリアス、『強制起動』!!」
『強制起動実行』
「舐めんな!! 第二地獄炎!!」
アクエリアスが水を吐きだそうとしたので、第二地獄炎を纏った足で蹴る。すると、アクエリアスが青い炎に包みこまれ、注ぎ口が再び凍り付いた。
レイニーゼの顔がギリリと歪む。
「わたしの黄金級を……アクエリアスを、舐めんじゃないわよ!! アクエリアス、『最終形態』!!」
「───!! あぶねっ!?」
レイニーゼが叫ぶと同時に、アクエリアス本体に亀裂が入り装甲が弾け飛ぶ。
そして、中から現れたのは……やっぱり、ヒト型ゴーレムだ。
キャンサーやタウルスと同じだ。
だが、まだ終わらない。レイニーゼは着ていたドレスを引き千切る。
ドレスの下にきていたのは、ぴちぴちした青いスーツだった。そして、両手を広げてアクエリアス本体の前に立つ。
「見せてあげる。わたしの全力……『実装』!!」
『ゾディアックライズ』
なんと、レイニーゼがアクエリアス本体を纏った。
黄金級最終形態が、実装型だったとは。まさかキャンサーとタウルスもそうだったのか?
青い全身鎧だ。下半身がスカートみたいに広がり、背中にツボを背負っている。
俺はあまりにも楽しく笑ってしまった。
「あっはっは!! すっげぇぇぇぇっ!!」
『笑ってられるのも今のうちよ!! 『水弾』!!』
アクエリアスが背負っていたツボが肩に装着され、とんでもない速度で水の弾丸が発射された。
あまりにも面白く───俺は真正面から受けてしまう。
「甲の型『極』───『金剛夜叉』!!」
呪闘流最高度。甲の型の『極』
俺は全身に水の弾丸を浴びながら走る。
『馬鹿な!? っく……なら、これで!!』
レイニーゼは右腕に水を纏わせ、俺を直接殴ろうとした。
ここまで追い込まれたことがないのだろう。やぶれかぶれな一撃は隙だらけ。
だから、合わせやすかった。
「流の型『極』───『螺旋巡』」
『───っ!?』
レイニーゼの拳に、そっと手をあてがう。
それだけで、レイニーゼの全パワーが跳ね返り、螺旋を描きながら全身を駆け巡る。
アクエリアスの鎧が砕け、レイニーゼの右腕が滅茶苦茶に破壊された。そして、レイニーゼはノーバウンドで吹っ飛び、何度も地面を転がって止まる……そして、ピクリとも動かなかった。
「よっし、俺の勝ち!!」
◇◇◇◇◇◇
この試合を、特級冒険者序列五位クレイ爺さんが見ていた。
初老を過ぎたのに、子供っぽい目をしながら、顎をすりすりと撫でつける。
「うんうん。いいね……うんうん」
新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、フレアを見ていた。
「小生の最高傑作であるゾディアックを……うんうん、いい。うんうん、うんうん」
誰もいないのに、ブツブツうんうんと唸る。
クレイ爺さんは、大きく頷いた。
「うんうん。彼なら試せそうだ……小生の究極傑作を」
クレイ爺さんは、ひたすらうんうん頷いた。




