決勝へ!
「第一地獄炎、『烈火掌』」
俺は両掌に炎を纏わせ、静かに構えを取る。
敵ゴーレム。名前はブレードバスター、両手が巨大な剣になっている『ブレード・スミス社』の看板ゴーレム。最大の特徴は『ヒートスパーダ』という超高温のブレードだ。
ブレードバスターの下半身は小さな車輪になり、それを回転させながら迫ってくる。
「コマンド、【ブレードバスター】だ!! これで終わりにしてやる!!」
相手の熟練ゴーレムマスター、エッジが命令を出す。
ブレードバスターは両手の刃を交差させ、ガラス玉みたいな目を光らせる。
俺はブレードバスターの動きに合わせることに集中───。
「流の型───『刃砕』」
振り下ろされたブレードを紙一重で回避。
『砕けろ』の呪いを込めた俺の手が、ブレードを破壊する。
「なっ……」
「けっこう強かった。それに、観客もだいぶ盛り上がったし、俺も楽しかったよ」
そう言って、俺はとどめを刺す。
鎧に包まれていない左半身を燃やし、連撃を叩きこんだ。
「滅の型、『百花繚乱』!!」
連撃を喰らったブレードバスターは破壊された。
同時に、実況のマックスが叫ぶ。
『勝負あり!! 決まった。決まったぁぁぁ~~~っ!! モルガン整備工場のフレア選手、鮮やかな炎と格闘技で優勝候補の一角『ブレード・スミス社』を下しましたぁぁぁぁっ!!』
「いぇい!!」
決めポーズをとると、会場は大いに盛り上がった。
そして、観客席のプリム達を見る。
「お、いるいる。はは、手ぇ振って嬉しそうだな」
そこには当然、プリムとアイシェラ、モルガンとクロネがいた。
◇◇◇◇◇◇
「アンタ、時間かけすぎ」
「いきなりだな……」
控え室に戻ると、カグヤが苛つきながら言う。
これには俺も反論した。
「言っておくけど、倒そうと思えば瞬殺できたからな。観客を盛り上げるためにわざと時間かけてたんだよ」
「おかげで、アタシはめっちゃうずうずしてんのよ。まったく……」
「それ、俺のせいじゃないだろうが」
「ふーんだ」
「あはは……でも、お疲れ様でした、フレアさん。次の試合に勝てば準決勝戦ですよ!」
「そうなのか? なんか早いな」
「はい。本選は二十組。ABブロック十企業で戦うんですけど、組み合わせ上シード権が発生しまして。あたしたちは運よくシード権を手に入れたんです!」
「ふーん。いつの間に」
「アンタが一人で町の外で準備運動してるときよ。この馬鹿」
メイカ、くじ運がいいらしい。
じゃあ、次勝てば準決勝か。次はカグヤで、その次は俺か。
「……アンタ、決勝譲ってよ」
「え、やだ。次はお前、その次は俺だからな」
「ぐ、むぅぅ!!」
「ま、まぁまぁ……あの、カグヤさん。優勝すればスペシャルマッチで『黄金級』と戦えますから」
「あ、そうだった! やったぁ!」
カグヤは大喜びだ。まったく、こいつも単純だよな。
すると、控室のドアがノックされた。
「入るぞ」
「お、アイシェラじゃん」
「少し、話をしておきたい」
アイシェラが部屋に入る。
その後ろには、プリムもいた。
プリムもだが、妙な青いゴーレムも入ってきた……なんだこれ。
「ちょ、なにこれ! 青い……豹?」
「おい、触るな。まずは私の話を聞け」
「アイシェラさん、ブルーパンサーを起動させたということは……」
「ああ、メイカ。実は先ほど、姫様がヤンガース整備場の刺客に攫われた」
これには、俺たちも驚いた。
プリムはにっこり笑って言う。
「アイシェラが助けてくれたんです。まさか、アイシェラがゴーレムを持っていたなんて」
「これはメイカが作ってくれたのです。私の新しい装備として」
「はい! アイシェラさんが資金提供してくれたので、オリハルコン製の実装型ゴーレムを作ることができました! はぁ……楽しい仕事でした」
「アンタ、ゴーレムバトル大会中だってのに、こんなの作ってたのね」
「はい。兄さんが書いた図面があったので、あたしなりに改良しました。時間はあったので、あとはパーツを削り出して組み立てるだけでしたので。ここの設備ならすぐに作れましたよ」
アイシェラは、自分の隣に立つ豹型ゴーレムを撫でる。
「話を戻す。ヤンガース整備場の刺客は退けたが……まだ油断できん。お前たちも気を付けろ」
「おう。とりあえず、試合終わったらそいつら締め上げるか」
「そーね。誰に喧嘩売ったか思い知らせないと」
俺とカグヤがやる気になっているのを確認し、アイシェラたちは出ていった。
「ヤンガース……まさか、あたしや兄さん以外の人を狙うなんて」
「ははは。恨まれてんなー」
「笑いごとじゃないでしょ」
とりあえず、ヤンガースはとっちめよう。
◇◇◇◇◇◇
準決勝は、カグヤが油断したせいで負けそうになった。
この馬鹿、俺みたいに観客を盛り上げようと手を抜いて戦っていたのだが、爆弾の直撃を受けて吹っ飛んだのだ。
俺は手を抜いたわけじゃない。『全力で手加減』したのだ。この違いが判らないとは……カグヤって強いんだけど抜けてやがる。
「裏神風流、『岩砕踵落とし』!!」
結局、巨大かさせた足による踵落としでゴーレムを粉々にした。
こうして決勝戦に進出。控室でカグヤはムスっとしていた。
「くっそう……あの爆弾ゴーレムめ」
「お前が悪い。ったく、馬鹿だなー」
「うっさい!! とにかく、次は決勝よ。メイカ、ハヤテ丸の手入れよろしく」
「は、はい」
「アタシ、シャワー浴びてくる。フレア、勝ちなさいよ」
「へいへい」
当然だが、俺は決勝でも勝利……ゴーレムバトル大会優勝は、モルガン整備工場になった。
観客席でモルガンが狂喜乱舞していたが、俺とカグヤはどうでもいい。
俺たちの本当の狙いは、ここからだ。
◇◇◇◇◇◇
『快挙、これは歴史的快挙!! ゴーレムバトル大会優勝はぁぁ~~~っ!! モルガン整備工場だぁぁぁぁっ!!』
マックスの声が響き渡る。
俺、カグヤ、メイカの三人はステージに上がり、観客たちから歓声を浴びていた。
ずっと実況席で喋っていたマックス、獅子みたいなおっさん、ふわふわしたお姫様っぽい女がステージに下りてきて拍手している。
そして、珍妙な奴もいた。
『では、ここで大会主催者にして全てのゴーレムの父、『ゴーレム・エンタープライズ』の創設者にして特級冒険者序列五位『魔動探求狂学者』ラングラングラー・マッドサイエンティスト・デ・ラノ・スパンキーデンジャラス様から、お言葉があります』
特級冒険者序列五位。
クレイジーなんちゃらは、珍妙な奴だった。
ボロボロで薄汚れた白衣、髪はぼさぼさ……というか、長かったり短かったり、まるで自分で切って途中で切るのを止めてを繰り返したような髪型だ。
頭にはデカいゴーグルをかけ、白衣の下はランニングシャツと短パン、履いているのはサンダルだ。
さらに、腰には工具を詰め込んだベルトを吊り下げている。
年代は六十歳から七十歳くらいの、腰が曲がり始めた爺さんだ。
クレイジーなんちゃら……まぁ、クレイ爺さんでいいか……は、マイクを受け取る。
『あ~~~……うん、よくやったね。特にそっちの女の子、スクラップから『実装型』を組あげるなんて大したもんだ。うんうん、すごいよ』
「~~~っ」
メイカは、顔を真っ赤にしてうつむく。
シラヌイ弐型とハヤテ丸が元スクラップというのを見抜き、メイカの腕を褒めたのだ。この爺さん、やっぱりすごいのかも。
メイカは、世界最高のゴーレム技術者から褒められたのが嬉しかったようだ。
『ゴーレムもだけど、小生としてはそっちの子に興味あるなぁ……おっと、関係ない話はここまで。うんうん。おめでとう』
クレイ爺さんは、俺を見てにんまり笑う。
マイクをマックスに返し、爺さんはくしゃみをした。
『え、え~、では!! 表彰式を行います!!』
表彰式の内容はこんな感じ。
モルガン整備工場は、オリジナルゴーレムの販売許可を得た。さらに優勝賞金ももらった。
表彰式が終わり、いよいよ来た。
『では、ここでモルガン整備工場と、世界最強のゴーレムマスターのスペシャルマッチを始めたいと思います!! ではここで質問だ!!』
マックスは、カグヤにマイクを向ける。
『モルガン整備工場は、どっちの『最強』と戦いたい?』
カグヤは迷うことなく答える。
『アタシは、あっちのヒゲと戦いたい。いい顔してるわ』
「ほぅ……小娘が」
マックスは慌ててマイクをカグヤから離した。
まさか、こんな無礼なことを言うとは思わなかったのか。そして、今度は俺に向ける。
『え、えーと……ふ、フレア選手はどっちと戦いたい?』
『んー、カグヤが髭のおっさんと戦うって言うし、俺はそっちの女の人でいいや。強いんでしょ?』
「まぁ……ふふ、面白いことを言う子ね?」
『え、えーと……え? あ、はい……こ、ここで本部より指示が。なんと、一対一で、フレア選手とカグヤ選手、そして最強のゴーレムマスター二名との闘いが許可されました!! どちらかではなく、一対一での戦いです!!』
会場内は、今日一番の歓声に包まれた。
俺とカグヤ、最強のゴーレムマスター二名との闘いが始まろうとしていた。




