表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第九章・からくりの王国パープルアメジスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/395

アイシェラの戦い

 試合会場内にあるお手洗い前。

 アイシェラは嗅覚をフルに使い、プリムの匂いを探す。


「くんくん……間違いない。お嬢様の匂いがここで途切れている……ふむ、攫われた可能性が高いな。理由は……間違いなく、ゴーレムバトル関係」


 意外にも、アイシェラは冷静だった。

 プリムのことになると興奮し、変態度が増すアイシェラだが、基本は冷静沈着だ。

 状況を把握するために周囲を見る。


「ふん。匂いが途切れたということは、ここでお嬢様を気絶させ、何か入れ物に収めて運んだということか……だが、甘いな」


 アイシェラの目がぎろりと光る。

 そして、鼻がピクピク動いた。


「入れ物程度で、私がお嬢様の匂いを辿れぬとでも……? 私のお嬢様愛を舐めるなよ」


 プリムに関してだけ、アイシェラの身体能力はフレア並になる。

 ある意味、特異種と表現すべき能力だった。

 アイシェラは、腕に付けたバンドを手でなぞる。


「新兵器の実験にちょうどいい……賊め、覚悟しておけ」


 そう呟き、アイシェラは犬以上の嗅覚でプリムを追跡する。


 ◇◇◇◇◇◇


「ぅ……」


 目を覚ましたプリムは、身動きできない苦しさと周囲の暗さに驚きつつ、冷静に息を整えた。

 暗い場所だが、天窓があるのか光が差し込んでいる。周囲には木箱があり、何に使うのか鉄の部品のようなものも転がっていた。

 なんとなく、モルガン整備工場に似ている。


「気が付きましたか」

「……っ、ど、どなたですか!!」

「そう声を張り上げずとも聞こえています。ふふ……メイカさんの御友人さん?」

「……あなたは」


 天窓から差し込む光に照らされ現れたのは……ヤンガース整備場のヤンガースだ。

 近くには、プリムを攫ったと思われる男たちがいる。他にも数人いた。

 ヤンガースは、プリムに近づいて言う。


「ご安心ください。あなたに危害を加えるつもりは『まだ』ございません。モルガン整備工場が私の要求を飲まなければどうなるかは……ご想像にお任せしますが」

「……目的は、試合の棄権ですね」

「ご名答」


 メイカが言っていた。ヤンガース整備場の妨害があるかもと。

 プリムは、敵の罠にあっさり捕まってしまったことを悔やむ。だが、嘆いても仕方ない。

 今できることは、情報を集めること。


「なぜ、モルガン整備工場にこだわるのですか? ヤンガース整備場は何度も本選出場を果たしている優良企業と聞きました……大会は一年に一度、一度くらいの敗北でなぜここまで」

「簡単なこと。メイカさんが私の元に来ないばかりか、私を打ち負かしたことに腹を立てているのです」

「……え」

「あなた、メイカさんをどう思います?」

「へ?」


 いきなりの質問にプリムは面食らう。

 どう思う。プリムは少し考えた。


「えっと。すごい子だと思います。わたしより年下なのに、すごく情熱にあふれてて、知識や整備の技術もすごくて……それに、かわいいです」

「そう。メイカさんはすごいのです。彼女は自分がどれほど素晴らしいのか、気付いていない」

「……どういうことですか?」


 ヤンガースは、木箱に座る。


「ゴーレムには特性があるのはご存じで?」

「え、ええ。確か……攻撃型、防御型、支援型?」

「そうです。他にも隠密型、愛玩動物型、守衛型、生活家事型と、分類すればきりがありません。制作するのはもちろん大変ですが、中でも特に制作が難しいと言われているのが……【実装型】です」

「実装型……って」

「ええ。あたなのお仲間が使っているゴーレムです。実感がなさそうなので言っておきます。彼女は、メイカは天才です。スクラップから実装型を造り上げ、そこまでの完成度を見せるとは……」

「…………」

「このまま優勝などすれば、メイカの存在が明るみになる。そうなれば、私のものにできなくなる恐れがある。ふふふ……あれほどの才能、誰にも渡してなるものか」

「……それを決めるのはあなたじゃない」

「あ?」


 プリムは、プリプリしながら言う。


「メイカの才能はメイカの物です! あなたの物じゃないですぅ!!」

「……ふん!! だからあなたを人質にして、大会を棄権させる。そして、私の物にするのだ!!」

「そんなこと……!!」

「喋りすぎました。あなたは人質らしく、大人しくしていなさい」


 ヤンガースは立ち上がり、プリムを一瞥───。




「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」




 同時に、倉庫のドアが爆発したように吹っ飛んだ。

 太陽の光を浴びつつ現れたのは……怒りの形相をしたアイシェラだ。


「………………………………なるほど、そういうことか」

「アイシェラ!!」

「ちぃぃ!! どうやってここを見つけ出した!! ここはヤンガース整備場の隠し倉庫なのに……」

「そんなもの、お嬢様の匂いに決まっているだろう」

「「…………」」


 当たり前のように言うアイシェラに、プリムは嫌悪を浮かべ、ヤンガースは戸惑う。

 アイシェラは周囲を見渡し、クックックと笑う。


「なるほど……大の男たちでお嬢様を『ピー』するつもりだったのか。大柄な男たち、縛られたお嬢様、人気のない倉庫……なんて素晴らしいシチュエーション。『ピー』して『ピー』したあとに『ピー』もできるな……ふん、卑怯者のくせに、シチュエーションにはこだわったというわけか」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 プリムも、ヤンガースも、周囲の男たちも無表情だった。

 そして、アイシェラは右腕を掲げる。


「貴様らには裁きを降す!! 来い!! 我が相棒『ブルーパンサー』!!」


 アイシェラの装備した腕輪が一瞬だけ輝き、どこからともなく『青い豹』が現れた。

 ディープブルーのボディに凛々しい表情をした豹型ゴーレムは、アイシェラの傍で静かに唸る。

 ヤンガースは、思わず呻いた。


「な、それは……」

「私の貯金をはたいて作ってもらった最新型ゴーレムだ。ふん、メイカの才能は素晴らしい……たった二日でこれほどのゴーレムを作り上げるのだからな!!」

「くっ……」


 メイカの作り上げたゴーレム。

 それだけで、ヤンガースは脅威を感じた。

 そして、アイシェラは叫ぶ。


「メイカの最高傑作、その身で味わえ!! 『実装』!!」

『ウェアライズ』


 ブルーパンサーが分離し、アイシェラの身体に装着される。

 フレアやカグヤと違い、戦闘を想定したアシスト機能がふんだんに盛り込まれた実装型ゴーレムだ。

 アイシェラの身体をすっぽり覆い、肌の露出が一切ない。

 そして、腰には蒼を基調とした剣が、背中には大きな槍を背負っていた

 アイシェラのトレードマークでもあるポニーテールだけが、兜の頭頂部から流れていた。


『さぁ、お嬢様を攫った悪人どもめ!! このアイシェラが断罪してやろう!!』


 アイシェラの新装備・実装型ゴーレムのブルーパンサー。

 アイシェラは背負っていた槍を構え、ヤンガースたちに向かって行く。


「い、いけ!! あいつを倒せ!!」


 ヤンガースは護衛達に命じる。

 中にはゴーレムマスターもいた。自前のゴーレムをアイシェラにけしかける。


『無駄だ。純度は低いがオリハルコン装甲だ』


 ゴーレムの拳がアイシェラの身体に突き刺さるが、アイシェラは微動だにしない。

 そして、槍をクルクル回転させ、ゴーレムの向かって突き出す。

 槍はゴーレムを貫通し、爆散した。


『あいつらも知らないことを教えてやろう。実は私、槍のが得意なんだ』


 そう、アイシェラは騎士だが剣より槍の方が得意だった。

 ゴーレムを破壊し、護衛たちを気絶させる。そして、最後に残ったヤンガースの首元に槍をあてがう。


『さて、どうする』

「わ、わわ、わかった!! もう負け、私の負けだ!!」

『なら、失せろ』

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」


 ヤンガースは逃げ去った。

 そして、アイシェラは鎧を解除し、プリムの傍へ。


「遅くなり申し訳ございません。お嬢様」

「アイシェラ……うん、助けてくれてありがとう」

「いえ、お嬢様を守るのが私の務めですから……ですが、その、何かお礼が欲しいな~なんて」

「ふふ。いいよ、何が欲しい?」

「では一緒にお風呂、そしてマッサージをする権利を」

「それはやだ」


 こうして、アイシェラはプリムを救った。

 新装備豹型ゴーレムのブルーパンサーのデータも取れたし、言うことなしの成果だ。

 

「さ、帰りましょう」

「うん。みんな心配してるかな……」


 二人は、仲良く歩きだした。

 プリムはそっと、アイシェラの手を握って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ