二回戦、本選トーナメント
俺たちは二回戦も難なく突破し、三回戦に出場決定。
全二十の企業が、パープルアメジスト最強のゴーレム会社の名を手に入れるため、自慢のゴーレムを戦わせることになる。
俺たちは、控室にいた。
メイカが、シラヌイ弐型とハヤテ丸の調整をしながら言う。
「最終本選は、各企業代表のゴーレム一体だけ使用しての戦いになります」
「え!? なんでー? それじゃアタシかフレアのどっちかしか出れないじゃん!!」
「今まではあくまで予選。この最終本選トーナメントは、各企業代表最高のゴーレムを一体だけ使用しての戦いです。企業の人員が総出で仕上げた至高のゴーレムは、天使様を圧倒するくらい強いそうです」
「へぇ~……あむ……面白そうじゃん」
俺はベンチに寝転がり、プリムが差し入れに持ってきた小麦焼きを食べていた。
シラヌイにも食べさせていると、カグヤが言う。
「アンタ、リラックスしすぎ……で、どうすんの」
「順番的には俺だろ」
「ぐ、ぬぬ……」
昨日の戦いでは、俺が最初に出て次がカグヤだったからな。
さすがのカグヤも、順番と言われてグググと唸る。
メイカは、少し疲れたような表情をしていた。
「メイカ、なんか疲れてるか?」
「え、ええ……その、アイシェラさんの専用装備を作ってたんですけど、思いのほか盛り上がっちゃって。あたし、試合に出てないし、お二人の戦いを見て興奮してたのか、ゴーレム造りに気合が入っちゃって」
「ふーん。で、アイシェラの装備って完成したのか?」
「はい!! 設備の素材だけじゃ足りなかったのですが、アイシェラさんが資金提供してくれたので、最高級素材をふんだんに盛り込んだ装備が完成しました! 今まで図面だけで放置していた装備が形になるなんて……うふふ、楽しかったぁ」
メイカはとろーんとしていた……この辺、モルガンと似てるな。
そして、シラヌイ弐型の整備を終えたメイカは言う。
「できました。調整完了です」
「おう、ありがとな」
「はい。そろそろ試合の時間ですね……対戦相手の情報は大丈夫ですか?」
「ああ。クロネから聞いてる」
俺の対戦相手は『ブレード・スミス』だ。
接近戦ゴーレムにかけて右に出る者はいない企業。中でも、ヒートスパーダという熱を持った剣を開発した企業で、超高温のブレードは鉄をも焼き切るとか。
俺は立ち上がり、シラヌイを撫でてシラヌイ弐型を撫でた。
「よし。シラヌイ弐型、今日も頼むぞ」
『ワン!』
『わぅぅ、わんわん!』
『ワン!』
シラヌイは、シラヌイ弐型を激励するように吠えた。
◇◇◇◇◇◇
『さぁ!! 最終本選五回戦!! ここまで快進撃のモルガン整備工事からは、灼熱バーニングな特異種フレア選手だぁぁ~~っ!』
「うぇーい!! プリム、モルガン、アイシェラ、クロネー!!」
万歳して応えると観客が湧いた。
プリムたちの席に向かって手を振ると、プリムとモルガンが両手をブンブン振り、アイシェラとクロネは少しだけ頷いてくれた。
『対するは!! 接近戦ゴーレムならここにお任せ!! 『ブレード・スミス』から熟練ゴーレムマスターのエッジ!! そして専用機ブレードバスターだぁぁぁぁ!!』
「愛してるぜ、ウォンチュー!!」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁっ!! エッジぃぃぃぃっ!!」」」」」
エッジとか言うゴーレムマスターが投げキッスをすると、観客の女性たちが湧いた。
どうやら女に人気があるようだ。
『かーっ!! 相変わらずのイケメンめ!! だがイケメンだけじゃない、実力も本物だ!! 果たしてフレア選手はどう出るのか? 準備はいいかぁ?……レディィィ~、ファイトォォォ!!』
試合が始まった。
俺はシラヌイ弐型を纏い、敵ゴーレムのブレードバスターは両手の長い剣を真っ赤にした。
そういや、接近戦が得意なんだっけ。
「さぁ兄ちゃん!! オレの操作テクに溺れな!!」
「面白い!! やってやるよ!!」
俺は左半身を炎で燃やし、ブレードバスターに向かって走り出した。
◇◇◇◇◇◇
フレアの試合が始まり、応援席にいたプリムたちは必死に応援……していたのだが。
「ぅ……」
「お嬢様?……くんくん……この匂い、尿意を催して「アイシェラ、それ以上言ったら死ぬまで許さない」
プリムの席のサイドテーブルには、お菓子や飲み物の残骸があった。
お祭りなので露店も多い。美味しい物ばかりでつい食べすぎた。
プリムは試合に集中できず、応援の声も小さくなる。
「お嬢様、無理をせずお手洗いに」
「で、でも……フレアが」
「大丈夫。あの馬鹿が負けるわけありません。それに、モルガンやクロネも応援していますので」
「…………ぅん」
プリムは、お手洗いへ立った。
当然ながら、アイシェラも付いてくる。
「……アイシェラ」
「大丈夫。ドアの前で待っています」
「そうじゃなくて!! 付いてこなくていいの!!」
「はぅん♪」
見悶えるアイシェラを無視し、プリムはお手洗いへ。
広い会場なだけあり、お手洗いの数も多い。自分たちの席からほど近い場所で済ませ、急ぎ席に戻ろうとするプリム。
だが───ここで予想外のことが。
「モルガン整備工場の者だな」
「え……」
お手洗いから出ると、三人の男たちがプリムを包囲した。
いきなりのことで反応が遅れるプリム。
そして───背後から口を押えられ、意識が消えた。
「行くぞ」
男たちは無駄な会話をせず、プリムを大きなカバンに詰め込んで運び出す。
そして、誰もいなくなった。
◇◇◇◇◇◇
「───お嬢様?」
「にゃ? どうしたにゃん?」
「いや、お嬢様の匂いが……」
「…………あんた、犬獣人かにゃん?」
魚の干物を齧っていたクロネは、どうでもよさそうに前を向く。
フレアとブレードバスターの試合は最高に盛り上がっていた。
「…………すまんが、席を開ける」
「あ、アイシェラくん? フレアくんの試合が」
「どうせ勝つ。それより……お嬢様の匂いが消えたことの方が心配だ」
アイシェラは、メタリックブルーの腕輪を装備する。
そして、席から一番近いお手洗いに向かって走り出した。
「お嬢様……!!」
アイシェラの予感は、的中していた。




