BOSS・タンクファクトリー
タンク系ゴーレム対フレア。
外では賭けも行われているが、当然ながらフレアの人気はいまいちだった。
それもそのはず。過去、優勝経験もある『タンクファクトリー』と、初出場の『モルガン整備工場』では、人気が違いすぎた。
戦闘が始まり、フレアは懐から三枚の呪符を取り出す。
「『硬くなれ』、『目ざとい』、『俊敏』」
四肢の硬化、視力の向上、速度強化の呪いを身体に掛ける。
実は、肉体強化と言っても『呪い』だ。身体に負担がかかるので、古の呪術師たちも多用することはないのだが、不思議とフレアは肉体的疲労を感じたことがなかった。
そして、敵のゴーレムマスターが『命令』を送る。
「コマンド、『ガトリング』!!」
『了解』
タンク系ゴーレム……名前は『キャタピラー1』の腕部分がフレアに向く。
腕は大きなガトリング砲になっており、全くの遠慮なしに銃弾が吐き出される。
銃弾の速度は速い。人が躱せるような速度ではない……が。
「流の型───『流転掌』」
フレアの手が高速で動き、銃弾を叩き落す。
ヂュインヂュインヂュイン!!と、フレアの手によって叩き落され、弾かれる銃弾が、防護膜にぶつかる。
これに、マックスの声が響いた。
『なぁんと!! モルガン整備工場のフレア選手!! 目にも止まらぬ速さで銃弾を叩き落しているぅぅぅっ!! とんっでもない腕捌きだぁぁぁ~~~っ!!』
キャタピラー1の弾切れ……フレアは全ての銃弾を叩き落し、ニカッと笑う。
これに、操車のタンクトップハゲは驚いていた。
「う、うそだろ……だ、だったら!! コマンド、『キャノン』!!」
左手は、長く巨大な砲身だ。
照準はフレアに向き、大砲が発射される。
巨大な砲弾がフレアの胸を狙って飛ぶ。これに対しフレアは両腕を広げた。
「うぅぅらっしゃぁぁぁっ!!」
そして、広げた両腕を思い切り閉じ、両拳をぶつけた。
ただぶつけただけじゃない。拳と拳の間には砲弾が挟まり、ギュルギュルと回転している。
フレアはそのまま拳で砲弾を押さえ、回転の勢いを殺し……砲弾の回転を止めた。
「お返し、だぁらっしゃ!!」
フレアは止めた砲弾をキャタピラー1に向けてぶん投げた。
そして、同時に走り出す。右手を下に反ると、ガシャンと『砲身』が伸びた。
メイカが改造し、シラヌイ弐型に取り付けたミニキャノン砲だ。
「ばくはぁつ!!」
フレアはぶん投げた砲弾に向かってミニキャノンを発射。
キャタピラー1の傍で砲弾は爆発し、再びガトリング砲をフレアに向けていたキャタピラー1の動きが止まる。
「滅の型───『轟乱打』!!」
そして、爆発と同時にフレアはキャタピラー1の真横に移動。
拳を硬め、両手を使ったラッシュをキャタピラー1の下半身に叩きこんだ。
「っくぅ……かってぇな」
が、想像以上の硬さに驚く。
復帰したキャタピラー1が車輪を回転させ、上半身も回転させてフレアを攻撃した。
フレアは距離を取り、仕切り直しとなる。
相手のタンクトップハゲが、ニヤリと笑った。
「やるじゃねぇか」
「そっちこそ。ってか硬すぎだろ」
「そりゃ、純度二十のオリハルコンボディだからな」
この間、三分。
息を飲む攻防に、観客たちは熱狂していた。
『すごい、すごいぞ!! たった数分の攻防なのに眼が離せねぇ!! 今年の大会はレベルやっばやばだぜぇ!!』
マックスの解説も熱がこもる。
そして、タンクトップハゲは新たな命令を出す。
「コマンド、『ヒートエッジ』……こうなりゃ接近戦だ」
キャタピラー1のガトリング砲と大砲が、巨大なナイフみたいに変形した。
さらに、ナイフが真っ赤になる……熱により高温になっている。
『さぁさぁ、盛り上がってきたぜぇ!!』
「「「「「タンク!! タンク!! タンク!!」」」」」
「「「「「モルガン!! モルガン!! モルガン!!」」」」」
フレアとキャタピラー1を応援する声が響く。
普段、大勢の前で戦うことがないフレアにとって、純粋な応援は心地よかった。
ゆえに、少し調子に乗ってしまう。
「へへ、いいねぇ!! じゃあ俺も少しだけ本気でいくぞ!!」
フレアは、鎧に包まれていない左半身だけを燃やす。
着ている服は燃えないが、装備している鎧はなぜか燃えてしまう。フレアが『服』と認識した物以外、第一地獄炎は燃やしてしまうのだ。
「うっはぁー!! 面白くなってきた!!」
◇◇◇◇◇◇
『おおっとぉ!! フレア選手の身体から炎が出たーっ!! えーと、登録情報によりますと……なんとフレア選手、このパープルアメジストでは珍しい『特異種』だぁ!! えー、念のため補足。特異種で『能力』を使用することはなんの問題もないぞーっ!!』
解説のマックスが説明してくれた。
というか、会場内は盛り上がっている。パープルアメジストでは特異種が珍しいとか言ってるし、炎を出せる人間なんて見たことないんだろうな。
ま、厳密に言うと特異種じゃないけどね。
「コマンド、『ヒートスラッシュ』!!」
タンクトップハゲの命令で、キャタピラー1は真っ赤に燃えるナイフを振り回し迫って来る。
俺は左腕に炎を纏い跳躍した。
「第一地獄炎───『炎撃』!!」
ヒートエッジと俺の拳が真正面からぶつかり、キャタピラー1のブレードが破壊された。
さらに追撃。着地した俺は左手を手刀にし、キャタピラー1の側面を思い切り突く。
左腕がキャタピラー1の装甲を突き破り、そのまま炎を噴射する。
「第一地獄炎、『烈火掌』!!」
ゴバッ!!───と、炎がキャタピラー1の内部で増幅。
装甲が耐え切れず、キャタピラー1は内側から爆発した。
破片が飛び散り、周囲は煙でおおわれる……そして、俺は廻し蹴りで煙を払った。
「俺の勝ち……で、いいんだよな?」
右腕を掲げると、会場内が爆発したような歓声が響く。
『勝利!! モルガン整備工場のフレア選手の勝利です!! 真っ赤な炎が燃え上がり会場内のテンションも燃え上がるぅぅぅぅーーーっ!!』
「いえーいっ! おーいプリム、見てるかー?」
俺は歓声にこたえた。
すごく気持ちいい……俺が手を振ると、会場内はさらに興奮する。
カグヤたちの元へ戻ると、メイカが感激していた。
「すごい、すごい……勝っちゃった」
「くぅぅ~!! アンタ、一人で目立ってぇぇ~~!! アタシだって!!」
「ははは。楽勝楽勝」
ゴーレムバトル……すっげぇ面白い!!




