優勝の権利
「そうそう! 喜びなさいフレア。すっごくいい話があるの」
「……なんだよ急に」
試合まで時間があるので柔軟していると、カグヤが嬉しそうに言う。
ちなみに、俺たちの試合は第一試合。順番は抽選クジで決めたのだが、メイカが引いたくじが『1番』……つまり、第一試合に当たったのだ。
メイカのくじ運すげー……本人も泣きそうになってたし。
「で、なんだよ」
「ふふん。優勝者の権利よ」
「権利? ゴーレム販売できるとかじゃねーの?」
「それもあるわね」
ここで復習。
オリジナルゴーレム大会とゴーレムバトル大会で優勝した企業は、自社が作ったオリジナルのゴーレムを製造、販売する権利を得ることができる。
それがないと、『ゴーレム・エンタープライズ』が作ったゴーレムしか販売してはいけないという決まりなのだ。だから各企業は、一年に一度開かれるこの大会で優勝を目指している。大会期間中だけ、自社が作ったオリジナルゴーレムを使用していい決まりだからな。
はい、復習終わり。
「で、権利って?」
「聞いて驚きなさい! なんと、優勝企業には『黄金級』と戦う権利をもらえるのよ!」
「え、なんだそれ」
さすがに驚いた。黄金級って……マジで?
すると、キュータマ二号を磨いていたメイカが補足する。
「実は、会場に『玄人』ゴーレムマスターと、二体の黄金級ゴーレムが来ています。黄金級の技術を見せるため、大会優勝企業とのスペシャルマッチを行うんです……実は、サプライズだったようで、開会式でわかりました」
「おおー……じゃあ、なんの問題もなく黄金級と戦えるのか!」
「そーゆうこと!」
カグヤが手を出したので俺も出しハイタッチ。
二体ってことは、俺とカグヤで一体ずつか。
「初めて見ました……『黄金級』ゴーレム、『獅子座』と『水瓶座』……そして、玄人ゴーレムマスターのドミニク様とレイニーゼ様」
「すげぇの?」
「んー、デカい銀色の獅子と水色の壺ね」
「……獅子はわかるけど、壺ってなんだ?」
「知らないわよ。デカい壺持った女みたいなゴーレムよ」
「ふーん。ま、別にいいや」
「あ、獅子はアタシがやる。めっちゃ面白そうだし」
「はいはい。俺が壺か……」
「……なんでこんなに楽天的なの?」
メイカが額を押え、ため息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
というわけで第一試合。
係員が呼びに来たので、ゴーレムを連れて会場入り……で、驚いた。
会場は、とんでもない人数であふれかえっていた。
「「「「「ワァァァァーーーーーーッ!!」」」」」
「うおっ」
「うるさっ」
「…………すごい」
中央の巨大なオリハルコン製ステージを囲むように観客席がある。
プリムたちは最前線の、仕切りがされた個室みたいな場所にいた。椅子に座り、軽食まで用意されている……いいなー。
モルガンが立ちあがって何やら叫び、アイシェラがやかましいとモルガンを叩き、それをプリムが止め、クロネはクッキーを齧りながら欠伸していた。
俺は軽くプリムたちに手を振ると、プリムがブンブン手を振る。
「すごいわね。ここ、何千……いや、何万人いるのかしら?」
「五十万人です。この会場は五十万人入れるように設計されています」
「アホみたいな数字だな……お、見ろよ」
会場がさらに熱狂した。
理由は、俺たちの真正面にある巨大なゲートから、デカい三体のゴーレムと、タンクトップにハゲ頭の三人組がやってきたからだ。
「あれが『タンクファクトリー』……スキンヘッドにタンクトップがトレードマークの、タンク系ゴーレム専門の企業……!!」
「メイカ、張り切ってるわね」
「でも、けっこう強そうだぜ」
タンク系ゴーレム。
下半身が箱みたいになってて、小さな車輪がいくつも付いている。
両腕はガトリング砲や大砲になってるし、とにかく全身がゴツかった。
「「「うーっ!! マッスル!!」」」
「「「「「「「「「「ウォォォォォーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」
三人が妙なポーズをとると、会場がさらにヒートアップ……いや、なにこれ。
「あれがマッスルポーズ……初めて見ました。タンクファクトリーの戦いの儀式!!」
「「…………」」
俺とカグヤはドン引きだ。
すると、会場内に声が響く。
『えー、お待たせしましたぁ!! これより第一試合。タンクファクトリーVS初登場!! モルガン整備工場の試合を始めまぁぁーーっす!!』
「「「「「ウォォォォォーーーーーーッ!!」」」」」
『わたくし、本日の試合解説をさせていただきます、不器用で整備はできないけど知識だけは誰にも負けないゴーレム解説者、マックスでーっす!! よろしくぅ!!』
「「「「「マックス!! マックス!! マックス!!」」」」」
『セインキュゥ!! ではでは、面倒くさいルール説明だ!! ルールは簡単。一対一の総当たり戦!! 先に二勝した企業の勝利!! 棄権はできるが生死は問わない!! 死んでも文句ないよなぁ!?』
「「「「「あるかボケーーーーーーッ!!」」」」」
『そう!! ま、【実装型】や【装備型】でもない限り、死にはしないっしょ!! はい説明終わり!! さぁさぁ、第一試合、最初の最初出てこーいッ!!』
うるっせぇなぁ……マックスとかいう解説、やかましすぎだろ。
あ、そういや順番決めてねーや。
「じゃ、俺行くわ」
そう言って、シラヌイ弐型とステージに上がる。
「あーっ!! アンタ、おいしいとこ持ってくのズルい!!」
「あっはっは。早いモン勝ちだぜ?」
ステージに上がると同時に、透明な膜のような物が張られた。
『当然だが、観客のみんなを守るために、オリハルコン製の防護膜を張らせてもらうぜ? みんな、安心して観戦してくれよな!!』
なるほどね。マックスの声はやかましいが解説はありがたい。
目の前には、タンク系ゴーレムとハゲ頭のゴーレムマスターが。ゴーレムマスターはリングの外で腕組みをしている。
『さぁ、準備はいいかぁ!? そっちの兄ちゃん!! ゴーレムを装備するならさっさとしな!!』
「はいよ。よし、いくぞシラヌイ弐型」
『ワン!!』
メイカの改造により、シラヌイ弐型の装甲は強化され、ちょっとだけ武装も付いた。
たぶん使うことないけど、相棒だし素直に喜ぼう。
「実装」
『ウェアライズ』
シラヌイ弐型が分離し、俺の右腕と右半身にシラヌイ弐型がくっつく。
鎧と考えるのが普通だが、これは俺の動きを邪魔しないようにくっつくようにしている。だってゴーレムいないと試合に出れないからな。
「うし、完了……いくぞ」
甲の型で構えを取ると、タンク系ゴーレムの砲身が俺に向く。
『それでは、レディィィ~~~~~~ッ!! ゴーレムファイトォォォッ!!』
マックスの合図の元、試合が始まった。
さぁて、思いっきり暴れてやりますか!!




