ゴーレムバトル大会・本選
早朝。
俺は一人、パープルアメジスト王国から離れた平原にいた。
見渡す限り、周りにはあまり物がない。近くに大きな泉と大きな岩があるくらいで、魔獣の気配もない。
「ふぅ~……」
呼吸を整え、精神を集中。
ゆっくりと構えを取り、全身の力を抜く。
ゆらり、ゆらりと拳を突き、足を高く上げ、身体をほぐしていく。
一通りの動きを終えた俺は精神集中───そして、カッと目を開いた。
「第一地獄炎、『火炎砲』!!」
両手に真っ赤な炎を集中させ放つ。
炎はまっすぐ飛び、大地を焦がした。
そして、そのまま右手に炎を纏わせ、上空に向けて拳を突き出す。
「第一地獄炎、『紅蓮焦天』!!」
右拳から、螺旋を描くように炎が発射される。これは上空にいる敵を焼き尽くす技だ。
そしてそのままダッシュし、全身に炎を纏わせる。
「第一地獄炎、『烈火衝突』!!」
炎を纏った体当たりは、三メートル以上ある大岩を粉々にする。そして、岩の破片がメラメラ燃えた。
第一地獄炎を解除した俺は、近くの泉に向かって飛ぶ。
そして、右足を青い炎で燃やし、泉の中心に向かって着地───泉の中心、俺の足下だけ凍り付いた。
「第二地獄炎、『ヴォーパル・ニードル』!!」
泉から細い氷の槍が何本も突き出す。
俺はその槍を二本掴み、近くに岩に投擲した。
「第二地獄炎、『ダーツ・オブ・ブレイク』!!」
岩に突き刺さった一本目の氷の槍が岩を凍らせ、二本目が岩を砕いた。
氷を解除し、俺は跳躍。背中から緑色の炎が噴射する。
「第五地獄炎、『緑炎モルフォ蝶』」
背中の炎から緑色の蝶が何匹も舞う。
蝶が近くの岩に止まると、そのまま緑色の炎となって燃えだした。
そして、何匹もの蝶が止まった岩は、緑色の炎に包まれ、あっという間に灰すら残らず消えた。
これは炎を宿した蝶。気体を操る蝶だが、本来の特性である炎を内包させた。この蝶が身体に止まった時、その対象は燃え尽きるって技だ。
俺は第五地獄炎を解除。そのまま左手に『大地の爪』を装備する。
「第三地獄炎『大地讃頌』───【砂蜥蜴】!!」
着地と同時に左手を地面に突っ込み、一瞬で周囲の大地を砂に変える。
そして、砂を固めて全長一メートルほどのオオトカゲを作りだした。
数は三体。砂地に踏み込んだ獲物を狩るオオトカゲだ。
「───よーし、こんなところか」
炎を解除するとオオトカゲは消え、地面も戻る。
俺は両手をプラプラさせ、首をコキコキ鳴らし、大きく伸びをした。
「いやぁ~……街中じゃ炎は使えないし、たまには思いっきり暴れたいよなぁ」
早朝。わざわざパープルアメジスト王国の郊外に来たのは、久しく使っていない地獄炎を思いっきり使うためだ。
久しぶりに使うと気持ちいい。
ゴーレム相手だと呪術も使えないし、こうやって身体を使うのはいい運動になる。
修行は継続してるけど……たまに、格上と戦ってみたい気持ちが強くなる。
「格上、か……」
ふと、あの呪術師たちが思い浮かぶ。
「ジョカ、だっけ……あいつ、かなり強かったなー」
流の型を使い、俺の拳を流した。
技を受け流す技、他の流派にもあるかもしれないけど……あいつは確かに『流の型』って言った。
それに、もう一人。ハクレンとかいう女もいた。
「呪術師……村出身じゃないとは言ってたけど。他にも呪術師っているのか? でも、あの炎……ジョカってやつ、紫の炎使ってた……焼き鳥は何も教えてくれないし、わけわかんねーや」
俺は地面に座り、そのまま寝転がる。
空は青く、今日もいい天気だ。
「───ま、俺は俺だ」
起き上がり、そのまま立ちあがる。
他に呪術師がいるならそれでいい。俺が千年前に死んで、地獄炎を取り込んで復活したことに変わりない。だったら、それでいい。
そう思った瞬間───俺は手を背後に伸ばす。
「ふにゃぁっ!?」
「って、なんだクロネか……いきなり背後に立つなよ」
「にゃにゃ……て、手を離すにゃん!!」
「ん、ああ」
俺が伸ばした右手は、ふにふにとした柔らかい物を掴んでいた。
どうやらクロネの胸を鷲掴みしていたようだ。うーんやわっこい。ヴァジュリ姉ちゃんのも触ったことあるけど、女の胸ってなんでこんなに柔らかいんだろう。
「ま、また揉まれたにゃん……うぅぅ」
「で、なんか用か?」
「……開会式が始まるにゃん。さっさと行くにゃん」
「あ、もうそんな時間か」
睨むクロネの頭を撫でると手を払いのけられた。うーん、怒らせちゃった。
「じゃ、行くか。開会式はどうでもいいけど、試合に遅れるわけにはいかないからな」
「……ってか、準備運動とかいってこんな郊外まで行くにゃ。うち、けっこう探したにゃん」
「悪い悪い。あとで魚買ってやるから」
「いらな……まぁ、許してやるにゃん」
魚と聞いて、クロネのネコミミと尻尾が揺れた。
さて、機嫌もよくなったし、戻るとするか。
◇◇◇◇◇◇
クロネと一緒に本戦会場へ向かうと、案の定だった。
「ひ、人多すぎ……なんだこれ」
「観光客、ゴーレム関連企業、町の住人や他国からの貴族、まだまだいっぱいにゃん」
人込みが酷かった。
クロネはスイスイと人を避けて進み、俺もクロネについて行く。
会場前は、さらに盛り上がっていた。
大きなボードの前には対戦名簿やトーナメント表が張られ、さらに賭けまで行われている。
出店やトイレには大勢並んでいるし、正直息が詰まりそうだ。
「こっち、関係者用の入口にゃん。参加企業と選手だけの入口があるにゃん」
「おお、ありがとな」
「にゃん。うちは企業用の観客席に行くにゃん。プリムたちがいるはずにゃん」
「わかった。人いっぱいいるし、気を付けろよ」
「にゃん。企業用の観客席には護衛が付くし、大勢の前で暴れる馬鹿はいないにゃん」
「それもそうか……」
「控室はまっすぐ行けばいいにゃん。じゃ」
そう言って、クロネはすいすいーっと消えた。
俺も関係者入口から控室へ。控室に『モルガン整備工場』と書かれたプレートがあったのでそこへ入る。
「よぉ、遅くなった」
「遅い! 開会式もう終わったし!」
「悪い悪い。準備運動してたら遅くなっちまった」
「アタシも行きたかったのに!! あんたばっかり「はいはい、落ち着いてください」
荒ぶるカグヤをメイカが止める。
メイカは、深呼吸して俺に言う。
「フレアさん。いよいよ本選です……組み合わせは確認しましたか?」
「いや、ぜんぜん」
「…………まぁいいです。最初はパープルアメジスト王国の大手企業、『タンカーズファクトリー』です。タンク系ゴーレムを作りだした有名企業……き、緊張します」
「タンク系?」
「…………」
メイカに呆れられました……ちなみにタンク系ってのは、下半身が足じゃなくて車輪になっているゴーレムらしい。二脚より移動性に優れてるだってさ。
「ま、そんなの関係ないわ。ねーハヤテ丸」
『ウォウ!』
「俺たちも頑張ろうな、シラヌイ弐型」
『ワン!』
「……ま、まったく緊張してない」
さて、試合までシラヌイ弐型を撫でてやりますかね。




