護衛のお仕事
宿泊所の真後ろに、メイカとモルガン用の工房はあった。
モルガンは大会本部に到着と大会の手続きに、メイカはゴーレムのチェックだ。
さて、護衛が必要ということでパーティーを分けよう。
「じゃ、俺はメイカに。力仕事も必要だろ?」
「アタシはモルガン! 町見て回りたいしー」
「わたしも行きたいです!」
「お嬢様の傍に私は存在する。お嬢様大好き!」
「うちは情報収集にゃん」
『わん!』
というわけで、俺とシラヌイがメイカ。残りはモルガンに付く。
モルガンたちはさっそく出かけた。俺もメイカと一緒に宿の裏手に回り、ゴーレム荷車から『キュータマ1号』や、シラヌイ弐型とハヤテ丸を下ろす。
そして、工房に運ぶと俺の仕事は終わった……いやまぁ、護衛って暇なのよね。
『わん!』
『ワン!』
『クルル……』
「お前ら仲いいな……」
シラヌイは、シラヌイ弐型とハヤテ丸を相手に何やら意思疎通していた。
犬の言葉はわからん。俺は工房にあった椅子に座り、メイカの作業を眺める。
メイカはキュータマ1号をバラし、何やらチェックしていた。
「なー、手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。フレアさんは周囲の警戒を……もう、試合は始まっていますから」
「はい?」
「けっこう有名な話です。敗北した企業が勝った企業の邪魔をする……過去に、工房内で変死体が見つかったなんて話もありますから。でも、運営側は一切関与せず、大会は通常通りに行われたと。あたしたちは初出場ですし、本選常連のヤンガースたちが邪魔してくることは必須……」
メイカは、どこか緊張していた。
確かに、爆弾馬車はヤンガースの妨害だったようだし。
すると、シラヌイが立ち上がり、ドアをじーっと見ていた。
遅れて俺も気付く。
「メイカ、パープルアメジストに知り合いっている?」
「え?……いえ、エルモアから出たことは殆どないので」
「そっか。シラヌイ、いくぞ」
『グルル……』
そして、いきなりドアが破られ、屈強そうな男たちがゾロゾロ入ってきた。
人数は十人……全員、武装してる。
「ひっ……な、なんですかあなたたち!! ここは関係者以外立ち入り禁止です!!」
メイカがそう言うが、男たちはニヤニヤしたまま室内を眺める。
そして、シラヌイ弐型とハヤテ丸とキュータマ1号を見て、汚い顔をさらに歪めた。
「わりーけどよ、ゴーレムぶっ壊させてもらうぜぇ?」
男たちは鈍器を取り出し、メイカと俺を見てニヤニヤしていた。いや、ニヤニヤしすぎで気持ち悪い。
シラヌイは唸ってるし、こりゃもう決まりだな。
俺は拳をコキコキ鳴らしながら前へ。
「ヤンガースの手先?」
「へへ、さぁな」
男たちのニヤニヤが止まらない。
いやもう、気持ち悪い。メイカも顔を歪めて距離取ろうとしてるし。
俺は構え、気軽に言った。
「ま、とりあえずぶっとばすか」
◇◇◇◇◇◇
カグヤたちもまた、妙な連中に絡まれていた。
観光でもしながら行こうと町を歩いていたのだが、大会本部が意外と近く、本選受付を済ませてから観光しようと考えていたのだが。
「なに? こいつら?」
大会前本部。パープルアメジストで最も大きな『アメジストドーム』の前にある特設会場で受付をしようとしたら、屈強な男たちが十名以上でモルガンたちを囲んだのだ。
モルガンは震えた。
「なな、なんだねキミたちははははは……」
「悪いな。あんたらには棄権してもらわねーと」
「へへ、そうだぜ。お……可愛い子が三人もいるじゃねーか。冴えねーツラしてやがるのにハーレムかぁ?」
「ちち、ちがわい!! ボクの好みはふっくらしたお姉さんタイプででで……」
モルガンの好みはどうでもいいが、アイシェラは気が付いた。
「妙だな……これだけの人数に囲まれているのに、大した騒ぎにならない……?」
会場受付前はとても広く、冒険者やゴーレムマスターがたくさんいる。
露店や公園も併設され、人通りはかなりある。それでも、この状況で騒ぐ者はほとんどいなかった。
すると、プリムが気付く。
「アイシェラ、あの人たちの会話……」
「お嬢様?」
プリムが聞いたのは、こちらを見て苦笑しつつ話すおばさんたちだ。
「今年も始まったわねぇ、妨害工作」
「そうねぇ……ふふ、大会前の風物詩ねぇ」
「ええ。棄権する企業があるのは寂しいから、なんとか頑張って欲しいわ」
「そうね。去年は受付前でもめ事を起こして医院送りだったわね? あの子たち、どうなるかしら?」
「さぁ? でも、女の子ばかりの企業ってことは、本選初参加かしら? 若いわねぇ。受付するのに護衛を雇うのは当然なのに」
つまり、受付前から他企業の妨害は当たり前。
それどころか、大会公認の風物詩になっているようだ。
「なんということだ……もう大会は始まっているとでもいうのか?」
「すっごく危ない大会です……でも、なんだかあまり怖くないです。今までいろいろあったし、慣れちゃいました」
「お嬢様、お強くなって……くぅぅ、私は嬉しいです!」
「アイシェラ、くっつかないで」
抱き着くアイシェラを引き剥がし、プリムはカグヤに言う。
「カグヤ、その……やりすぎないでくださいね?」
「はっ、こういうの久しぶりだしね。それは了承しかねるわ」
カグヤはモルガンを押しのけ前に出た。
「あ? なんだお嬢ちゃん?」
「アンタら、アタシたちの妨害?」
「妨害ねぇ……まぁ、そんなところよ。金もらってるしな」
「ふーん。モルガンをブチのめして大会に出させないつもりね。うんうん、アタシってばモルガンの護衛だからさー、守らないといけないわけよ」
「おいおいお嬢ちゃん。この人数相手に何言ってやがる? はは、大人しくしてりゃ可愛がってやるぜ?」
すると、カグヤは笑った。
そして……凍り付くような殺意を振りまき、足を上げる。
「じゃあさ、アンタらは思いっきり暴れてね? 可愛がってあげるから」
荒くれ者たちは、地獄を見ることになった。




