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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第九章・からくりの王国パープルアメジスト

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BOSS・??????????

 爆弾馬車の襲撃から二日。

 俺たちの馬車は特に何事もなく、パープルアメジスト王国に向かっていた。

 ずっと警戒しながら進んでいたせいか、アイシェラが気疲れしている。

 そして、馬車は少し深い林の中へ。この林を抜ければ、パープルアメジスト王国まで一本道だ。

 なので、今日はこの林の中で一泊することに。

 

「アイシェラ、休んでろよ」

「大丈夫だ……ふぅ」


 アイシェラ、かなり疲れてるな。

 プリムとカグヤが薪を拾いに行き、俺とモルガンがテントの支度。クロネが野菜の皮剥きをしていた。

 すると、薪を抱えてきたプリムとカグヤが、大きな兎を引きずってきた。


「アタシに襲い掛かってきたから返り討ちよ。ねぇクロネ、こいつ食べない?」

「いいにゃん。皮を剥いで内臓抜いて、川で洗ってくるにゃん」

「はーい。プリム、手伝いなさいよ」

「はい! アイシェラは……」


 アイシェラは疲れきっていた。顔色が悪い。

 メイカが、かまどに薪を放り込む。


「……こういう経験、あまりないですからね。私もですけど、かなり疲れました」


 本選出場組が腹いせに狙われる……過去に、ヤンガースたちも狙われたことがあるんだろうか。

 やられたことがあるくせにやり返すとは。卑怯な連中だ。

 すると、テントを組み終えたモルガンが言う。


「これも人気者の宿命というやつよ。はっはっは!」

「お前、前向きだな……」

「にゃん。フレア、鍋を」

「おう」


 クロネの指示のもと、夕飯の支度を終えた。

 夕食を終え、女性陣はモルガンたちのゴーレム荷車へ。

 二階部分に、簡易シャワーが付いてるらしい。川の水をホースで吸い、温めてシャワーにするらしい。詳しいことを説明しようとしたモルガンをみんなで止めたっけ。

 女性陣はシャワーに行ったのだが、クロネは行かなかった。


「お前、行かないのか?」

「にゃん。あとで行くにゃん。ちょっとお散歩してくるにゃん」

「……俺も行こうか?」

「いらない。すぐ戻るにゃん」


 そう言って、クロネはスタスタ森の中へ。

 一人で散歩なんて珍しい……気まぐれな猫みたいなやつだな。


 ◇◇◇◇◇◇


 クロネは一人、森の中を歩いていた。


「───出てこい」


 ポツリと呟くと同時に、短刀を抜く。

 すると、小さな針が飛んできた。

 クロネは短刀を振り、針を叩き落す。


「同業?───よく気付いたね」


 闇から出てきたように、クロネの近くの木陰から一人の女が出てきた。

 しかも、ただの女じゃない。黒いネコミミに尻尾が生えていた。


「同族……にゃん」

「そうね。にゃふふ……あんた、見覚えある。『暗殺者(アサシン)』だね?」

「そうにゃん。今は休業中だけどね」

「にゃう……ふふ、あんたはあたしのターゲットじゃない。邪魔しなければ何もしない」

「ターゲット……そうか、あんた、メイカとモルガンの暗殺を」

「にゃう。そう……残念だけど、仕事の邪魔はしないでね」

「…………」


 クロネはため息を吐き、短刀をクルクル回す。

 そして、懐に手を入れ、小さな投擲具の『クナイ』を女暗殺者に向けて投げた。

 女暗殺者は、クナイを躱す。


「……どういうつもり?」

「悪いけど、今は駄目にゃん。それに、うちはこのパーティーの斥候。危ない奴を見つけたら排除しなくちゃいけないにゃん」

「…………へぇ?」


 女暗殺者は、どこからか『鎖鎌』を取り出し、鎖をブンブン振り回した。


「暗殺の邪魔をするなら排除する。にゃう……謝るなら許すけど?」

「いらないにゃん。それに……うち、けっこう強いってこと忘れられてそうだから、いい機会にゃん」


 クロネは両手に短刀を持ち構えを取る。

 相手は同族。しかも同じ暗殺者だ。

 だが、違うのは……クロネは、暗殺者を休業しているということだ。


「暗殺集団『神隠し』所属暗殺者ヨルナ。邪魔するなら消す……にゃう」

「元『御庭番衆』所属暗殺者クロネ。今は……ただのクロネにゃん」

「クロネニャン?」

「クロネ!! クロネが名前にゃん!! この、知ってて言うにゃ!!」


 二匹の暗殺猫が衝突した。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人は、猫獣人ならではの身体能力を持っていた。

 一瞬で高い木に登る。そして、距離を取るヨルナに対し、クロネは接近しようとした。

 だが、ヨルナの方が早い。


「にゃっ……っく」


 分銅が飛んできた。

 クロネは分銅を躱すが、分銅は蛇のようにうねりを見せ、クロネに襲い掛かってくる。


「甘い。あたしはここで暗殺をすべく厳重に下調べしていたのよ? ここに来たばかりのあんたとは地形の把握具合が違う」

「にゃっ……」


 ヨルナが急接近。手に持った鎌でクロネを斬りつけようとした。

 クロネは短刀を交差させ鎌を受け止めるが、押し込まれる。


「腕力も、あたしに分がある!! にゃうっ!!」

「ぐっ……」


 鋭い蹴りが脇腹に突き刺さる。

 クロネは脇腹を押さえ離れ、首をブンブン振った。


「痛いにゃん……こういうの、すっごく久しぶり」

「ぬるい環境に身を置いてたのねぇ?」

「…………」


 ぬるい環境?

 フレアを暗殺しようとして返り討ち、堕天使ガブリエルに捕まりこき使われ、入りたくもない三大ダンジョンの一つで死にかけ、吸血鬼の国に入り、最強の天使と共闘し今に至る……これがぬるい?

 クロネは、地面に降り、だらんと力を抜く。


「にゃう? 諦めた?

「…………違う」

「にゃう?」

「うち、ぬるい環境なんかじゃないにゃん……何度も死にかけたし」

「ふーん?」

「だんだん、身体があったまってきたにゃん……」


 クロネは両手を地面につき、お尻を高く上げる。

 尻尾がピーンと立ち、まるで四足歩行の獣のような姿だ。

 さらに、目……クロネの眼が、猫のようになっていた。


「シャァーッ!! うちの本気、見せてやるにゃん!!」

「にゃっ……その眼、『獣混じり』!?」


 クロネが消えた。

 一瞬で跳躍し、木々を蹴って高速移動している。

 ヨルナは焦った。

 獣人の特異体質である『獣混じり』とは、その種族の力を引き出す技。クロネの場合、猫の力を極限にまで引き出すことができる。

 さらに、クロネは特異体質であり異常体質。聴覚や嗅覚、視覚にも優れていた。


「は、早っ……あっぐ!?」


 クロネの短刀が、ヨルナの背中を切りつけた。

 気付いた時にはもういない。わかるのは、闇夜を高速移動する気配だけ。

 あまりの速さに、同じ猫獣人のヨルナですら見えない。


「───っ」


 すると、ヨルナは鎖鎌を捨て、両手を上げた。


「降参。あたしの負け」


 そして、クロネがヨルナの背後に回り、短刀を首に当てる。


「───」

「降参。死にたくないからここで終わり。あーあ……依頼失敗。もうパープルアメジストにいれないわ」

「…………」

「もう手は出さないと誓う。見逃して……にゃう」

「…………わかった」


 クロネはヨルナに当身を食らわせて気絶させ、鎖鎌の鎖でヨルナを安全な場所で拘束した。

 半日ほどで目が覚める。クロネたちはすでに出発し、もういないだろう。

 

「ふぅ……久しぶりに戦ったけど、疲れたにゃん」


 クロネはため息を吐き、何事もなかったようにフレアたちの元へ。


 ◇◇◇◇◇◇


お疲れ(・・・)

「…………あんた、知ってたにゃん?」

「何が?」

『わぅ?』


 シラヌイを撫でるフレアは、クロネは笑顔で出迎えた。

 クロネはフレアをじーっと見たが、追及することはしない。

 プリム達はまだシャワーを浴びているのか、火元にはフレアしかいなかった。モルガンはゴーレム荷車でゴーレム整備でもしているのだろうか。


「クロネ、こっちこい」

「にゃん?」

「いいから、ほら」

「うにゃっ!?」


 フレアはクロネを抱き寄せ、なんと頭とネコミミを撫で始めた。


「にゃ!? にゃにを」

「いいから。疲れたネコミミをマッサージだ。ほおーれほーれ」

「にゃうぅ~……っ」


 ネコミミを揉まれ、頭を撫でられるのが気持ちよい。

 フレアとしては猫を撫でているような感覚だが、クロネとしては恥ずかしい。

 

「いっぱい動いて疲れたろ? 風呂入ってゆっくり休めよ」

「…………にゃん」


 撫でられたクロネは、いつの間にか眠ってしまった。

 安心できる場所で、猫のように丸くなって。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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