暁の呪術師
俺の知らない呪術師。
ジョカと名乗った女は、呪術師が着る呪力を込めた『呪道着』を纏い、俺の眼を見て笑っていた。
俺は距離を取り、構えを取る。
「安心なさい。もう目的は達成したから」
「…………っ」
冷たい汗が流れ落ちた。
呪術師。たった一度の攻防でわかった。
流の型『漣』……あれは、一朝一夕でできる技じゃない。攻撃の軌道を反らす、流の型の初歩中の初歩だ……それを、間違いなく使った。
俺は、構えたままジョカに聞く。
「あんた……もしかして、村の出身なのか?」
「ふふ、違う違う。呪術師の村は千年前に滅びたでしょ?」
「じゃあ……」
「あんたとは違うわ。とりあえず、今はそれでいいでしょ?」
「…………」
なんて答えればいいかわからない。
俺の知らない呪術師に会えた喜びなのか。それとも、なぜいきなり襲って来たのかとか……何を質問すればいいのか、整理できない。
言葉は、なんとなく出てきた。
「その、他にも……ほかにも、呪術師はいるのか?」
「いるわよ。ねぇ?」
「え……?」
ジョカが俺を───いや、俺の後ろを見て言う。
振り返るとそこには、白い髪の女がいた。
「なっ……いつの間に」
真っ白な髪の女……たぶん、同い年くらいか。
着ているのはやはり呪道着で、胸元がゆるゆるで胸が見えていた。
ジョカは俺から離れ白髪の女の元へ。そして、白髪の女に言う。
「来てたの、ハクレン」
「うん。ジョカ、遅い」
「ごめんごめん。この子の実力を見たくてね……まぁ、想定内かな?」
「あ?」
「ハクレン、帰るわよ」
「うん」
「おい、ちょっと待てよ!! その白いの誰だ? 帰るって……一体、俺になんの用事だったんだよ!?」
俺がそう言うと、ジョカはハクレンと呼ばれた女の頭を撫でた。
「この子はハクレン。『裏切りの八天使』の一人イアカディエル……っていうのは仮の姿。呪闘流八極式曲種第一級呪術師のハクレンちゃんよ?」
「ちゃんはいらない。よろしく、ヴァルフレア」
「俺の名前……おい、あんたらマジで何者……」
俺が言いきる前に、ジョカが手で制した。
「今は言えないわ。来るべき日に、みんなでご挨拶するから。それまで、このパープルアメジスト王国の冒険を楽しみなさい」
「お、おい!!」
「ばいばい、ヴァルフレア」
そして、ジョカは紫色の炎を目の前に燃え上がらせると……その姿が忽然と消えた。
俺は、二人が消えた場所を見つめたまま……しばらく動くことができなかった。
◇◇◇◇◇◇
「遅い!!……なに、どしたのアンタ?」
「フレア……?」
「おい貴様、飲み物はどうした」
「にゃん……なんか、上の空にゃん」
カグヤたちの元に手ぶらで戻った俺。
正直、何を買うかとかもう思い出せない。無言で席に座った。
すると、カグヤが言う。
「アンタ遅いわよ。もうモルガンたちのアピールタイム終わっちゃったわ」
「ああ……悪い」
「……マジで何?」
「…………」
俺は椅子の背もたれに寄りかかり、ドームの天井を見た。
あのジョカって奴……紫色の炎を使ってた。
俺は目を閉じ、意識を内側に向ける───。
◇◇◇◇◇◇
そこは、真っ暗な空間───おお、いつもの空間だ。
『よぉ、相棒』
「焼き鳥……なぁ、どういうことだ?」
『あぁん?』
焼き鳥こと、第一地獄炎の魔王『火乃加具土』は、大きな赤い身体を丸めたまま目を開けた。
周囲を見ると……誰もいない。他の魔王たちがいると思ったのに。
『他の連中は自分の《魔王宝珠》の中にいるぜ』
「え?」
『お前が取り込んだ宝石だ。お前が最初に取り込んだのがオレの宝珠だったせいか、お前が意識を内側に向けて最初に来れる場所みてーだな……他の連中は来たがらねぇんだよ』
「そんなことより、他の呪術師のことだけど……」
『知らね』
「…………使えねー鳥だな」
『あぁ!? おいこら相棒、言っていいことと悪いことあるぞ!!』
焼き鳥は身体を起こし翼を広げる。
『そーだな……『黒』の奴が詳しいぞ。呪術師に呪力を与えた奴なら知ってんじゃね?』
「…………おいお前、今なんて言った?」
『あ? 他の呪術師のこと知りたいなら『黒』の奴に聞けってんだよ』
「いやいや!! 呪術師に呪力を与えたってなんだよ!?」
『知らねーのか? 第六地獄炎は『呪い』の炎。呪術師が使う全ての呪術は、第六地獄炎が起こしてんだよ。お前ら、生まれたときに魂に呪を刻むだろ? それは第六地獄炎の呪いなんだよ……待てよ?……ああそういうことか。わかったぜ』
「おい、わけわかんねーよ。なんだよ一体」
『あー……他の呪術師のことだ。いやはや、オレも気付かなかったぜ。まぁ気にするレベルじゃねぇよ。ま、お前の炎には勝てないってことだ』
「…………?」
『とにかく、あんま気にすんな。『黒』も出てこねーし、今は旅を楽しめ。どうせそのうち、思いっきり暴れることになるかもしれねーしな』
「お、おう……」
『じゃ、帰れ。オレは寝る』
「いやいや、まだ聞きたいことあるし」
『うるせーな。オレは寝るんだよ……じゃぁな』
「あ、おい焼き鳥───」
と、ここで目が覚めた。
オリジナルゴーレム大会の会場内……すると、アナウンスが響く。
『ここで特別賞!! モルガン整備工場のゴーレム『キュータマ1号』が特別賞に輝きました!!』
「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」
モルガンが、壇上で雄叫びをあげていた。
ああ、オリジナルゴーレム大会……終わったようだ。
けっきょく、呪術師の手がかりはなかった……焼き鳥の野郎め。




