予選突破までもう少し
クロネの言った通り、予選の相手は雑魚ばかりだった。
俺とカグヤで無双……周囲からは恐れられ、戦いっぷりから「ゴーレムクラッシャー」なんて呼ばれるようになり、ゴーレムバトル大会準決勝まで来た。
準決勝の相手は、まさかのヤンガース整備場。
準決勝まで時間があったので、俺はメイカと一緒に町のゴーレムパーツ店に買い物に来た。
「えーっと……あ、これこれ。発声装置」
「声、治るのか?」
「はい。愛玩動物ゴーレムの発声装置です。音声認識装置も最新のものに交換しますね。あと、装甲板とフレームも新しくして……あ、武器とかも取り付けます?」
「武器はいらね。自前のあるしな」
俺はほとんど使っていない回転式とブレードを見せる。
すると、メイカがブレードに興味を持った。
「それ、オリハルコン製ですよね……手首を反って筋肉の動きを読み取って展開する刃かぁ」
「かっこいいだろ?」
「はい! 武器ってロマンですよねぇ~」
「わかる!! 俺もさ、格闘技だけじゃなく武器術も習いたかったんだよ……」
メイカは会計を済ませ、俺と話す。
意外にも趣味が合うのか、ゴーレムの話を聞いているのは楽しい。
「ミスリル装甲は頑丈ですが柔軟性もあります。最大の特徴は軽いことですね。【実装型】ゴーレムの素材ではポピュラーなものなんです」
「へぇ~……あ、色は変わるのか? シラヌイ弐型は赤のままがいいんだけど……」
「大丈夫です。特殊な薬剤で塗装してますので」
「おお、よかった」
と、二人で大会会場に戻っている途中だった。
「待て!! おい、そこの二人!! 待て!!」
「ん……誰?」
「あ……や、ヤンガース」
「貴様らぁ~……!! 一体、どんな不正をやらかしたんだ!!」
出会うなり妙なことを言うのは、ヤンガース整備場のヤンガースだ。
顔を怒りに歪ませ、メイカに指を突きつける。
メイカは、真正面からヤンガースを見た。
「不正とは? 一体なんのことでしょうか」
「とぼけるな!! あ、あんなペットゴーレムで……ご、ゴーレムを蹴り飛ばしたり、粉々に砕くなんてできるわけないだろう!!」
「つまり、私の作ったゴーレムに不正があると?」
「そうに決まっている!!」
「……馬鹿ですか? 大会参加ゴーレムは全て、運営委員会によるチェックが入っています。不正がバレたら企業の名は公表され、その企業の信用は失墜……そんな馬鹿なことをするわけがないでしょう」
「じゃあなんで!! あんなクズゴーレムで準決勝まで進めたんだ!!」
「……決まっているじゃないですか。私のゴーレムが強いだけ」
「き、貴様ぁぁぁ~……」
いや、ゴーレムってか俺……まぁいいや。
今は口を出すべきじゃなさそうだしな。
「だ、だったら……そうだ、装着者!! 装着者が」
「なるほど。装着者が強いということですね? それはあり得ますが……あなた、いつも言ってましたよね?『ゴーレムは冒険者に勝る』と。つまり、ゴーレムより強い冒険者がいる、ということですね?」
「ち、ちが……あぁもういい!! いいか、貴様の会社は準決勝で終わりだ!! 不正をした報いを受けさせてやるからな!!」
そういって、ヤンガースはズンズンと去った。
そして、メイカは俺に謝る。
「ごめんなさい……」
「え、なんで?」
「……フレアさんたちは他の国から来たから実感が湧かないと思いますけど、このパープルアメジストでは冒険者を見下す傾向があります。冒険者と言っても生身ですし、鋼の身体を持つゴーレムや、それを操るゴーレムマスターのが優れていますから。ヤンガースがあんなに怒っているのも、ゴーレムではなく冒険者の実力がゴーレムよりも上だと認めたくないからでしょう」
「ふーん」
そういや、ユポポでも冒険者は荷物持ちとか補給要員だったな。
確かに、剣を振ったり魔法を唱えるより、ゴーレムの機銃を撃った方が早い。
「フレアさん。言動はともかく、ヤンガース整備場のゴーレムは強敵です。どうかお気を付けて」
「ああ、わかった」
とりあえず、俺は殴ってカグヤは蹴るだけだ。
◇◇◇◇◇◇
「甲の型、『轟乱打』!!」
「神風流、『破城鉄槌』!!」
準決勝。
俺とカグヤの一撃が、ヤンガース整備場のゴーレムを木端微塵に砕いた。
そして、崩れ落ちるヤンガース。
「そ、そんなぁ……」
「あー……なんかゴメンな?」
メイカはああ言ったが、ヤンガース整備場のゴーレムは大したことなかった。
というか、ゴーレム自体あまり強くない。
考え、柔軟な動きで迫って来る人間のがよっぽど怖い。
というわけで、準決勝突破。
控室に集まり、クロネが言った。
「ヤンガース整備場、今回のゴーレム作成に資産のほとんどをつぎ込んだみたいにゃん。それをあんな風に木端微塵に……しばらく、貧乏経営になりそうにゃん」
プリムがシラヌイを撫でる姿を見つめながら、アイシェラは壁に寄りかかったまま言う。
「そんなことはどうでもいい。次は決勝戦だな」
「にゃん。次は『フジヤマ設備』……本選出場経験もある企業にゃん」
「でも、フレアたちなら楽勝です!」
『わん!』
プリムがシラヌイのお腹をワシワシ撫でる。
アイシェラも撫でてもらいたいのか床に寝転がるが、完全にスルーされた。
カグヤは、ハヤテ丸を撫でながら言う。
「優勝したらさ、パーッとやりましょうよ! 明日のオリジナルゴーレム大会の景気づけってことも含めてさ!」
「おぉ、素晴らしいね!! 妹よ、それくらいはいいだろう?」
「……まぁ、あたしもお腹減ったし」
「よし決まり!! フレアくん、カグヤくん、任せたぞ!!」
「おお、任せとけ。なぁシラヌイ弐型」
『ワン!!』
シラヌイ弐型の声も治った。
シラヌイが嫉妬したのか、シラヌイ弐型を前足でぺしぺし叩いている。
バトル大会ももうすぐ終わり……なんか、腹減ったなぁ。




