ゴーレムバトル大会・予選
ゴーレムバトル大会と、オリジナルゴーレム大会は一日ずれて行うようだ。
理由はまぁ言わなくてもわかる。どっちも観戦したいし、企業の都合もあるからな。
そして、驚いたのは……ゴーレムバトル大会に参加する企業が四十社ほどあったことだ。つまり、四十組の企業がこの日のために開発した戦闘用ゴーレムと、そのゴーレムを操るゴーレムマスターがいるってことだ。
ゴーレムバトル大会の会場は、『ゴーレム・エンタープライズ』が所有する巨大ドーム。
ここに、俺とカグヤとメイカの三人と、三体のゴーレムが集まった。
俺は、周りを見る。
「かっこいいゴーレムだらけだな!」
「確かにね。アタシわっくわく!」
「…………すごい。オリハルコン合金のゴーレム、それにあの脚部……あ、あっちは腕部の重量を増やして下半身をタンクにしてる。そっか、あんな工夫があったなんて……」
俺とカグヤ、メイカでは見るべきモノが違うようだ。
というか、俺たちのゴーレムが一番貧相な気がする。
周りのゴーレムは大きいのばかりだ。ヒト型や四足歩行型、車輪が付いたやつもいるし、どうみてもデカい箱にしか見えないのもある。
それに対し、俺たちは……犬と狼とデカいボールだ。
「なぁメイカ。それってモルガンの最高傑作だろ? 持ってきてよかったのか?」
メイカのゴーレムは、モルガンが自慢してた球体だ。
モルガンが作ったのは灰色だったが、これはピンク色になってる。
「これ、兄さんが設計したゴーレムの二号機です。兄さんの一号機はコンテスト用、あたしの二号機は戦闘用に調整しました」
「ふーん。あのさ、アンタってゴーレム動かせんの?」
「はい。『新人』クラスですけど、一応ゴーレムマスターの資格はもってます」
メイカは自信満々だ。
ちなみに、プリムとアイシェラとクロネとシラヌイは、観客席にいる。企業の招待客はけっこういい椅子に座れるみたいだ。
カグヤは、自分のゴーレムである『ハヤテ丸』を撫でる。
「ハヤテ丸。目指すは優勝よ!」
『イエス』
「……ねぇメイカ。この鳴き声なんとかしてよぉ」
「えっと、ゆ、優勝したら賞金が入りますので……少しは調整できます」
「お願いね!」
俺も、自分のゴーレムである『シラヌイ弐型』を撫でた。
「シラヌイ弐型、お前も頑張ってくれよ」
『オーケー』
「……まぁ、うん。メイカ、俺も頼むわ……なんか嫌だ」
「は、はい」
シラヌイ弐型は置物みたいに動かない。
メイカ曰く、もう少し改造すれば普通の犬みたいにすることができるそうだ。
すると、妙な連中が近づいてきた。
「こ~れはこれは。モルガン『ボロ』整備工場のメイカさんじゃありませんか?」
「……どうも、ヤンガース整備場の皆さん」
メイカが嫌そうにそっぽ向く。
カグヤは首を傾げて言う。
「だれ?」
「……ヤンガース整備場のゴーレムマスター、ヤンガースです」
「どうもお嬢さん。ヤンガースと申します」
毛皮のコートを着た二十代くらいの男だ。
ヤンガースの傍にいるのは、ヤンガース整備場の専属ゴーレムマスターらしい。
ゴテゴテに改造されたゴーレムを連れ、挨拶に来たようだ。
「ふふふ。メイカさん、例の話ですが」
「……何度もお断りしているはずです」
「おやおや……あんなボロ工場にこだわらず、うちの整った設備でゴーレムを作りたいと思わないのですかねぇ……私、あなたの腕前は買っているのですよ。それと……」
「……っ」
ヤンガースは、メイカの身体を舐めるように見る……こいつ、プリムを見るアイシェラそっくりの眼だ。気持ち悪いな。
「ふふ。私の恋人になれば、こんな生活はしなくて済みますよ」
「結構です!! あたしはお父さんの工場を兄さんと守ります!!」
「……そうですか」
ヤンガースはニンマリと笑い、俺たちのゴーレムを見た。
「……ははっ、ハハハハハッ!! なんですかなこれは!? まさか『愛玩鉄機』? それとただの鉄球とは!! 金も資材もない、スクラップでゴーレムを作っているという噂は事実のようだ!! はーっはっはっは!!」
「……っ」
「あなたたちも笑いなさい。はーっはっはっは!!」
「がーっはっはっはっは!!」
「ぎゃはははははっ!!」
ヤンガースの連れのゴーレムマスターもゲラゲラ笑う。
メイカは歯を食いしばって震えた……何も言い返せなかったからだ。
「みなさーん!! モルガン整備工場のゴーレムは、ペットゴーレムですよぉぉ~んっ!! 一回戦で当たる企業は実にラッキーですなぁ!!」
さらに、ヤンガースは周りにいる企業たちに言いふらす。
すると、ヒソヒソ馬鹿にするような声や、指を刺して笑う声が聞こえてきた。
ああ、こりゃめっちゃ馬鹿にされてるわ。
「いやぁ~、一回戦で当たりたいものですな。ふふふ、では」
ヤンガースはゲラゲラ笑いながら去った。
「いやー、馬鹿にしてたなあいつ」
俺は特に気にしてなかった。
呪術師の村でもけっこう馬鹿にされてたし、こういう嘲笑は慣れっこだ。
だが、案の定……。
「…………よし、殺そう」
アホのカグヤは青筋を浮かべていた。
メイカは俯いて震えている。
さて、どうしたもんか……と思っていると、ドーム中に声が響いた。
『これより、開会式を始めます。各企業のゴーレム、ゴーレムマスターは整列してください』
「お、開会式だってよ。行こうぜ」
「アンタ!! 頭にこないの!?」
「いや、むかつくけど開会式だし……おいメイカ、行くぞ」
「……はい」
開会式が始まり、お偉いさんの挨拶、そして組み合わせが発表された。
各企業は控室に入り、ゴーレムの最終調整をする。
ちなみに、俺たち『モルガン整備工場』は第一試合。
メイカは、自分のゴーレムの『ボール二号』の整備をしている。カグヤも青筋を浮かべてだんまり……あー、なんかめんどくさいことになりそう。
「メイカ」
「はい」
「派手にやっていい?」
「……ええ、ブチかましてください」
「え、おいお前ら」
「「……なに(なんでしょう)?」」
「ひっ……い、いや、なんか怒ってる?」
カグヤはともかく、メイカも青筋を浮かべていた。
あれ? メイカってこんな顔だったっけ?……こ、怖いな。
「カグヤさん」
「ええ、メイカ。売られた喧嘩は買う」
「そうですね。フレアさんも、よろしくお願いします」
「は、はい……」
「じゃ、行くわよ」
「はい」
「お、おー……」
メイカといカグヤは、怖いオーラを放ちながら会場へ向かった。
「なぁシラヌイ弐型……女って怖いな」
『オーケー』
シラヌイ弐型に話しかけるが、よくわからん答えが返ってきた。
◇◇◇◇◇◇
会場内に入ると、爆音……いや、歓声が響いた。
半円形のドーム中央が俺たちが戦うステージで、壁側には観客席がある。
クロネ情報によると、この観客席は三万人ほど座れるらしい。
「……観客多いな」
「工業都市エルモアの住人だけじゃなく、観光客やパープルアメジスト王国からの技術者も見にきてますからね」
「へー……って、ヤバいな」
「え?」
「いや、カグヤだよ。こいつ、こういう場でこそ力出るタイプなんだ」
すると、またもやデカい声が響く。
『えー、それではさっそく第一試合!! モルガン整備工場とヤマモト工業のゴーレムバトルを始めたいと思いますっ!!』
会場内に響く声。拡声器という技術で声をデカくしてるらしい。
この声は実況だとか。声がノリノリだな。
『それでは各企業、代表選手はステージへお上がりください!!』
すると、何も決めてないのにカグヤが言う。
「アタシが行く」
「あー……好きにしろよ」
カグヤがステージに上がる。
相棒のハヤテ丸も一緒に上がると、嘲笑が聞こえた。
「おいあれ……」「ペットゴーレムじゃん」「マジか?」
「だっさぁ~」「つまんなーい」「おいおい、モルガン整備工場」
さらに、ヤマモト工業はデカいゴーレムだ。
腕力が自慢なのか、腕がデカい。下半身は巨大な箱のようになっており、底に球体が埋め込まれていた。どうやらその球が転がって移動できるようだ。
ヤマモト工業のゴーレムマスターが前に出る。
「へへへ、お嬢ちゃん……負けを認めるなら今しかないぜ?」
「うっさい豚クソハゲデブ。いいからやるわよ」
「……後悔すんじゃねぇぞ」
ゴーレムマスターがステージから降りる。
そして、カグヤがハヤテ丸に命じた。
「実装」
『ウェアライズ』
ハヤテ丸が変形し、カグヤの身体にくっついた。
必要最低限の部分しか守ってない鎧。だが……これで十分なのだ。
相手のゴーレムも起動した。
そして、審判が出てきて確認する。
「準備はいいな?……では……ファイッ!!」
審判の合図が会場内に響き、試合が始まった。
「───あーあ、終わったな」
俺はそう呟いた。
◇◇◇◇◇◇
試合が始まると同時にカグヤは走り出した。
だが、ただ走るだけじゃない。途中で横回転を加えながら走った。
「───なんだ?」
ゴーレムマスターにはわからない。
あんな脆弱な鎧、パンチ一発で砕けてしまう。
この大会が、命を奪っても何ら責任がないとは知っているが、やはり躊躇した。
その一瞬の躊躇が、大きな隙になる。
カグヤは回転したままゴーレムに接近し、片足だけで回転。
そのまま身体を的確な位置に変え、回転を利用した恐るべき廻し蹴りを敵ゴーレムに喰らわせた。
「神風流、『風轟脚』!!」
ズッドォォン!! と、爆音がした。
推定数トンはあるゴーレムが水平に飛び、このドームの入口である巨大鉄扉に激突。鉄扉を突き破って地面を何度も転がり、ようやく停止した。
一瞬で静まりかえる会場。
カグヤは銀髪をなびかせ、審判に言った。
「アタシの勝ち。それとも……まだやる?」
静寂のまま、カグヤの勝利がポツリと告げられた。




