いきなりすぎて頭痛い
聖天使教会本部。
聖天使教会十二使徒の一人、『風』のラーファルエルは、鼻歌を歌いながらとある部屋のドアをノックした。
「はーい、どちらさまでっしょう!!」
返事が聞こえたので中に入ると、そこには二十歳ほどの容姿を持つ天使が、書類仕事をしていた。
その天使はラーファルエルを見て目を見開き、座っていた椅子からアクロバティックな動きで飛び降りると、ラーファルエルの目の前で跪いた。
「しつれ~い。マルシエルくん、ちょ~っと手を貸してほしいんだけど、いいかな?」
「はっ!! 我ら下級天使、十二使徒のためならばなんでもします!! ラーファルエル様、なんでもお申し付けください!!」
「う~ん。相変わらずいい忠誠心だねぇマルシエルくん。じゃあさっそくお願いしちゃおう」
「はっ!!」
マルシエルは跪いたままアクロバティックな動きで立ち上がり頭を下げる。
大げさすぎる動きにラーファルエルはクックと笑いながら、『頼み事』をした。
「あのさ、地獄門の呪術師がいるみたいなんだけど……ちょっとツツいてきてくれない? 第八階梯天使のマルシエルくんなら、いい仕事すると思うんだよねぇ~?」
「地獄門の呪術師……」
マルシエルはその場で跳躍、空中で身体を何度も捻り、両手を広げ片足立ちのポーズで一礼した。
「お任せください!! 聖天使教会第八階梯天使マルシエルが、地獄門の呪術師をツツいてきます!!」
「うんうん。いい返事だけど……その動き疲れない?」
「いえ、全く!!」
「そ、そうかい……あ、呪術師はホワイトパール王国の国境を越えて、ブルーサファイア王国に向かってるみたい。早めによろしくねー」
「はっ!! では……いって、き、まーっす!!」
マルシエルはその場で高速回転し、両手を鳥のように広げて出ていった。
意味不明な行動は多いが、実力は第八階梯の中でもトップクラス。かつて地獄門の呪術師との大戦に参加したこともあるマルシエルは、呪術師たちを数人倒したこともある実力者だ。
「さーって、ボクも準備しなきゃねぇ~♪」
ラーファルエルは、右手の人差し指に小さな竜巻を発生させて遊んでいた。
◇◇◇◇◇◇
「おぉぉー……すっげぇ!!」
『グオォルルルル……ッ!!』
俺ことフレアは、一人で『野良ドラゴン』と戦っていた。
正確には『ドラゴンナーガ』という、上半身はドラゴンで下半身は大蛇という魔獣だ。
すっかりヘビがお気に入りなプリムのために、蛇の群生地っぽい森を通っていたらこいつが出てきた。
「まずいまずいまずい……貴様!! そいつを倒そうと考えるな!! そいつはドラゴン系魔獣の中でもひと際厄介だ!! ドラゴンの強靭な外殻に大蛇の下半身を持つ!! 物理攻撃は無効化されると思え!! 時間を稼いだら逃げるぞ!!」
と、プリムを守るために岩場に隠れているアイシェラが言う。
ドラゴンナーガは俺に向かって巨大な下半身を鞭のようにしならせて薙ぎ払ってくる。
「んー、遅い……先生の水面蹴りのがよっぽど速いぞ」
俺はジャンプでドラゴンナーガの尾を躱し、その上に着地。
するとドラゴンナーガは大きく息を吸い……。
「ブレスッ!? 逃げろ!!」
「いやへーき」
ドラゴンナーガのブレスが俺を直撃。
フツーなら消し炭になるけど、俺には全く問題ない。なぜなら地獄の炎を全身に纏えば、ドラゴンのブレスなんて問題ない。
全身を炎で包み、俺は右手の炎を思いきり燃やす。
『ゴオァァッ!?』
「じゃ、お返し……喰らえやぁぁぁぁぁっ!!」
俺はドラゴンナーガの尾を伝って接近、顔面に向かってジャンプし、そのままドラゴンナーガの顔面を炎の拳でぶん殴った。
ドラゴンナーガの顔が思いきり揺れ炎が燃え移り、炎に絶対的な耐性があるはずのドラゴンナーガが勢いよく燃えた。
『ギャァァァァァァァァァッ!?』
「おー、燃える燃える……うんうん、この炎もだいぶ慣れた気がする」
『ア、ア、アァ……』
ドラゴンナーガは燃え、巨大な焚火となり……炎が消えると、そこには何も残らなかった。
あーあ。ドラゴンナーガの肉を食べてみたかったなぁ。
「ま、いいや。おーい終わったぞー」
「し、信じられん……ドラゴンナーガをたった一人で……本来なら国家が討伐団を結成して対処する魔獣だぞ」
「フレア、すごいです!! でも、蛇肉……」
「お前、マジで蛇肉好きだな……」
「姫様には私の肉を齧ってほしい……私も姫様の柔らかな部分をカミカミしたい」
「アイシェラ、次にドラゴンナーガが現れたら一人で挑みなさい」
「はぁぁうんっ!! はいぃっ!!」
「いや、遠回しに死ねって言ってるぞ」
炎は強力だけど、周囲に気を使わないといけないという弱点がある。
ここは森だ。その気になればもっと大きな炎で炎上させることもできたけど、森が火事になっちゃうからやめておく。
それにしても、腹減ったなぁ……ドラゴンナーガじゃなくてもいいから、肉を食べたい。
「とぉーーーーーーーーーーうっ!!」
すると、空から白い服を着た青年が落ちてきた。
「は?」
「え?」
「はい?」
驚く俺たち。
いや、いきなりすぎだろ。
そして、目の前の青年はなぜかジャンプ……空中で何度も捻りを加えた回転をしながら着地。両手を真上に上げ、片足立ちをしながら言った。
「地獄門の呪術師!! 私と勝負したまえ!!」
「アイシェラ、知り合い?」
「馬鹿者。なぜ私に言う」
「いや、同じ変態仲間かなーと」
「貴様!!」
「地獄門の呪術師!! 私と勝負したまえ!!」
「あ、あの……あなたは?」
あーあ。関わっちゃヤバそうなのに、プリムが聞いちゃったよ。
「はぁっ!! ほぉぉぉ~~~っとお!!」
青年はまたジャンプ。回転を加えたポーズを取り着地。
さっきとは違う妙なポーズを決めながら言う。
「私は聖天使教会第八階梯マルシエル!! 地獄門の呪術師、私と勝負したまえ!!」
「せ、聖天使教会!? ま、まさか……私を」
「いえ違います」
「あ、そうですか……よかったぁ」
「いや、和んでる場合かよ」
「地獄門の呪術!! 私と勝負したまえ!!」
「あーうっせぇ!! お前も同じこと何度も言うな!!」
なんだこいつ……頭がおかしいのか?
マルシエルとか言う天使は妙なポーズのまま動かない。
アイシェラはプリムをガードしながら後退。シラヌイは欠伸をして寝転がる。
「聖天使教会……貴様に任せる」
「まぁいいけど……えーっと、あんた、俺と戦うんだよな?」
「地獄門の呪術師!! 私と勝負したまえ!!」
「やかましい!! あーもうわかった、わかったよ……」
俺は両拳に炎を纏わせ、甲の型の構えを取る。
「聖天使教会第八階梯マルシエル。よろしくお願いしまっす!!」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。よろしく!!」
いきなりすぎて頭痛いが……二回目の天使と戦うことになった。




