新ゴーレム。そしてゴーレムバトル大会!
モルガンの工場から宿に戻った俺たちは、帰ってきたクロネとシラヌイ、馬車の手入れと馬の世話を終えたアイシェラと一緒に、宿の近くにあった大衆食堂へ夕飯を食べに来た。
食堂のメニューは大雑把な物ばかりで、食堂内にいる人たちも作業着のおじさんたちばかりだ。どうも工場帰りでそのまま晩酌してるって感じ。
俺たちは、アイシェラとカグヤに今日の出来事を話した。ちなみにシラヌイは外で待ってる。
「オリジナルゴーレム大会か……そういえば、宿屋の女将もそんなことを言ってたな」
そういって、エールを飲むアイシェラ。
クロネも焼き魚をもぐもぐ食べながら言う。
「オリジナルゴーレム大会で優勝すれば、パープルアメジスト本国で開催される本選に出場できるにゃん。そこでいい成績を残せば、ゴーレム・エンタープライズから正式に販売許可がもらえるにゃん」
ゴーレム・エンタープライズって会社が認めた物じゃないとゴーレムは販売できない。
なので、整備士たちはゴーレム整備の仕事と、このオリジナルゴーレム大会に出すゴーレムの設計に力を注いでいる。
現在、ゴーレムの販売ができるのはたった四社。オリジナルゴーレム大会も、その四社のどこかが毎年優勝しているらしい。
「ちっちゃい個人経営の工場が優勝なんて、夢のまた夢にゃん。あむ……それに、設計士から職人まで、大手四社は桁違いの数を揃えてるにゃん」
「そうなんですか……」
プリムはスープを啜り、口を丁寧に拭く。
「でも、モルガンさん、すっごく自信満々でした」
「あーむっ……そういや、また明日来いってメイカが言ってたわね。行く?」
カグヤが骨付き肉をムシャリと齧りながら言う。
俺はパンをかじり答えた。
「ま、お呼ばれしたし行ってみるか。それに、オリジナルゴーレム大会が近いなら見なきゃ損だしな。大会が開催されるまで滞在しようぜ」
「さんせー! あ、フレア、冒険者ギルドの依頼も受けましょうよ!」
「いいね。面白い依頼あるかもな」
と、焼き魚を完食したクロネが言う。
「そういえば、ゴーレムバトル大会のことは知ってるにゃん?」
「「ゴーレムバトル大会?」」
「わわ、フレアとカグヤの声が重なりました!」
「相変わらず似た者同士だな」
「うっせえな。で、クロネ、ゴーレムバトル大会ってのは?」
「なんか面白い気がするわ!」
「にゃん」
クロネは果実水を飲み、喉を潤す。
「ゴーレムバトル大会ってのは、オリジナルゴーレム同士を戦わせる大会にゃん。オリジナルゴーレム大会と同じく、この町の目玉の一つ。予選を突破したゴーレムは、パープルアメジスト本国で開催される本選に出場できるにゃん」
「なーんだ、ゴーレムの大会かぁ……つまんなーい」
カグヤはつまらなそうに椅子に寄りかかる。
だが、クロネは続けた。
「話は最後まで聞くにゃん。ゴーレムバトル大会の参加条件は簡単にゃん。オリジナルゴーレムであること、タイプはなんでもあり、死んでも文句を言わない……つまり、攻撃型、防御型、支援型の枠にとらわれない参加が可能にゃん」
「…………なるほどな、そういうことか」
「そうにゃん。あんた、察しがいいにゃん」
「え、え、どゆこと?」
俺はわかったが、カグヤは首を傾げていた。
せっかくだ。答え合わせをしよう。
「ママさんのゴーレムを思い出せよ」
「…………あ!!」
「そう、【実装型】だっけ? つまり、あれを使えば俺たちもゴーレムと戦える」
ゴーレムを『着る』ってことだ。
合法的に、俺も戦える。
すると、アイシェラが言う。
「待て待て。まさか貴様、ゴーレムバトル大会に参加するのか?」
「なんか面白そうだ。モルガンに相談してみようかなーって今思った」
「アタシも!! アタシも出たい!!」
「うちも賛成にゃん。フレアとカグヤなら間違いなく優勝できる。モルガンとかいう奴の企業が本選に出ればそこでも優勝する。そうすれば、四大企業は必ず接近してくるにゃん。くふふ、パープルアメジストのゴーレム技術の情報をゲットするチャンス、さらにコネも手に入るかも……」
打算的なクロネだった。
でも、野良ゴーレムじゃないオリジナルゴーレムと戦ってみたかった。
プリムは、首を傾げる。
「でも、モルガンさんはオリジナルゴーレム大会に参加するんじゃ?」
「にゃん。オリジナルゴーレム大会もゴーレムバトル大会も参加すればいいにゃん。現に、他の企業はみんなそうしてるにゃん」
「なるほど……」
「よーし!! モルガンに頼んでみようぜ。明日はみんなであいつの工場行くか!!」
ゴーレムバトル大会、ぜひ参加したい!!
◇◇◇◇◇◇
翌日。
今度は全員でモルガンの工場へ。
複雑な裏道を通り、オンボロ整備工場に到着した。
「こ、ここか?」
「ぼ、ボロボロにゃん……」
『わぅん』
アイシェラ、クロネ、シラヌイは、工場のボロさに驚いていた。
俺たちは二度目だから気にしていない。
さっそく中へ行こうとしたら、工場のボロいドアが開き、目に隈を付けたメイカが出てきた。
「や、やっと……やっと完成……ね、ねむぃぃ」
「め、メイカ!? だ、大丈夫ですか!?」
ボロボロのメイカがよろよろしながらこっちへ来たので、プリムが慌てて受け止める。
相当疲労しているようだった。
「疲労に効くかな……」
「おぉぉ~~~……」
プリムの手が輝き、メイカを包み込む。
どうやらプリムの癒しは疲労にも効果があるようだ。
どこかスッキリしたメイカがプリムに言う。
「驚いた。あなた、特異種だったんだ……ありがとう」
「いえ、元気になってよかったです。ところで、何をしてたんですか?」
「……お兄ちゃんに付き合わされてたの。新しいゴーレムが完成して、これでオリジナルゴーレム大会に出場するって息巻いてるんだけど……」
すると、工場の入口から何やら『球体』が転がってきた。
大きさは直径150㎝くらいで灰色の、ヒビだらけの球体だ。どういうわけかコロコロ転がって、メイカの前でピタッと止まる。
いきなり現れた球体に、カグヤが不審げな目を向けた。
「なにこれ?」
「……兄の最高傑作です」
「ふっふっふっふ……」
すると、工場からモルガンが出てきた。
たぶん徹夜だったんだろうけど、メイカと違って全く疲れている感じはしない。
妙な球体の隣に立つと、いきなり叫んだ。
「見てくれ!! これがボクの最高傑作、『キュータマ1号』だ!!」
「「「「「…………」」」」」
「あ、あの皆さん。お兄ちゃんは真面目ですので、そんな目で見ないであげて……」
「フレアさん!! あなたのヒントから得た着想で作り上げた最新型ゴーレムです!! 見てください!!……コマンド、【変形】!!」
すると、亀裂の入った球体が変形する。
亀裂が分かれ、丸っこい腕や足に変形し、二足歩行のゴーレムになった。
これには、俺たちも驚いた。
「そう、球体!! 球体こそゴーレムの理想形!! これこそ、このキュータマ1号こそ至高のゴーレムなのです!! ふぁーっふぁっふぁっふぁ!!」
「「「「「…………」」」」」
「す、すみません……こんな兄で。え、えと、皆さんはどんな用事で?」
「あ、ああ。えっと……ゴーレムバトル大会のことで話があるんだ。いいか?」
「は、はい。わかりました。どうぞこちらへ……」
「ふぁーっふぁっふぁっふぁ!!」
「兄さんうるさい!」
メイカに案内され、俺たちは家の中に入った。
さて、ここからが本番。メイカとモルガンを説得して、ゴーレムバトル大会の参加権を得なくては。




