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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第九章・からくりの王国パープルアメジスト
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モルガンの整備工場

 モルガンの案内で、町の狭い路地を何度か通って到着したのは……なんとも汚い廃墟だった。

 ボロボロに錆びた鉄扉、カビの生えた壁、割れた窓ガラス……ひっでぇな。こんなとこに泊るくらいなら野宿の方がマシって感じのところだ。


「ここがボクの工場! ささ、どうぞ」

「きったない廃墟ね」

「同感。外でテント張った方がいいな」

「ちょ、いきなりひどくない!?」

「あ、あはは……」


 俺とカグヤはめちゃ嫌そうな顔だったが、プリムは苦笑した。

 モルガンは俺たちの背を押し、ボロボロの鉄扉を開けた。だが扉は開けた瞬間にバキッと取れてしまった……マジ廃墟だな。

 

「この扉、よく取れるんだよねぇ……おーい、帰ったよー!」


 モルガンがそう言うと、廃墟の奥から誰か来た……女の子だ。

 というか、外観もだが中も相当ボロボロだな。

 ゴーレムのパーツが大量に積み重ねられ、壁には大量の工具が吊るされてる。地面は設計図っぽい紙が散乱し、テーブルの上はとにかくいろいろ載っていた。


「おかえり兄さん。どうせまたダメだったんでしょ?」

「メイカ。お客さんにお茶を!」

「お客さん?……あ、どうも」


 メイカと呼ばれたのは、俺たちよりちょい年下の女の子だ。

 茶色いポニーテール、黒い油で汚れた作業着にゴーグルをひっかけている。

 俺たちを見て軽く頭を下げ、すぐに奥へ行ってしまった。


「ボクの妹メイカさ。不愛想だけど整備の腕は一級品! 試作44号も彼女が作ったのさ」

「へー、あんたは?」

「ボクは設計士。いちおう、パープルアメジスト本国の学校を出たんだけど、どうにも不器用でねぇ……図面を引く方が得意なんだ」

「アンタが設計して、妹が作るってわけね」

「妹さん、お若いですね。おいくつですか?」

「まだ十四歳だ。学校に通うように言ってるんだけど……」


 と、ここで湯呑をトレイに載せたメイカが来た。

 テーブルの道具をどかしてトレイを置く。

 椅子は一脚しかないので、湯呑を受け取り立ってお茶を飲んだ……お茶うっすい。


「お兄ちゃん、あたしがいなくなったら餓死しちゃうからね。それに、学校なんて行かなくても整備の知識や技術はある。現にあたし、自前のゴーレムを作ってるし……商品登録できないから商売にはならないけどね」

「むむむぅ……」

「っと、はじめまして。あたしはメイカ。一応、このオンボロ整備工場の所長よ」

「ちょ、所長はボク……」

「お兄ちゃんは設計士でしょ」

「むむむ……」


 すると、プリムがクスっと笑う。


「仲、いいですね」

「はっはっは。可愛い妹だからね!!」

「はいはい……そう思うんだったら、へんな夢見てないでお金稼いできなよ」

「へ、変じゃないぞ!! 今度の大会では」

「無理無理。うちみたいな弱小じゃ勝てないって」

「あ、それってさっきの『オリジナルゴーレム大会』ってやつだろ? なぁなぁ、面白そうだしもっと教えてくれよ」


 俺がそう言うと、モルガンは嬉しそうに笑う。


「はっはっは!! オリジナルゴーレム大会っていうのは、この整備工場の町エルモアの一大イベントなのさ!! つまり───」


 モルガンの話はこうだ。

 えーっと……ゴーレムを作るのは『整備士』と『ゴーレムマスター』にだけ許可されている。

 だが、ゴーレムの規格は『ゴーレム・エンタープライズ』が定めた種類だけしか製造できない。オリジナルゴーレムを作るのは犯罪で、見つかると極刑にされる。

 だが、年に一度だけ開催される『オリジナルゴーレム大会』で成績上位になれば、パープルアメジスト本国で開催される『本選』に出場できる。さらにその本選で成績上位になれば、オリジナルゴーレムの特許を習得でき、ゴーレム・エンタープライズが認めたデザインってことで製造・販売の許可をもらえる。

 つまり、働かなくても特許料でお金が入って来るのだ……はぁ、説明疲れた。


「今年こそ本選出場権を獲得してみせる!!」

「無理だって。大手の工場は腕のいい整備士いっぱいいるし、お兄ちゃんよりも凄腕の設計士いっぱい抱えてるし。今までの本選出場企業、もう何年も変わってないじゃん」

「……それでも、やるのだ!!」

「はぁ……」


 モルガンは燃え、メイカは呆れている。

 すると、薄いお茶を飲み終えたカグヤが言う。


「ところで、アタシたちは何すればいいの?」

「おおそうだ!! 実は、きみの足を見て何か閃きそうなんだ。その足をじっくり見せてくれないか?」

「……お兄ちゃん、そのセリフマジで変態っぽい」

「俺もそう思う。ってかカグヤに蹴り殺されるぞ」


 だが、カグヤは悪い気がしていないのか上機嫌だった。


「アタシの足のすごさを理解するとはね。いいわ、しっかり見てなさい」


 カグヤは少し離れ、構えを取った。

 俺には何をするかすぐにわかった。


「神風流、演武……」


 カグヤは足を垂直に上げ、ゆっくりと舞う。

 素人には舞っているようにしか見えないが、俺からすれば技の繰り返しだ。技と技をつなげ、舞いのように見せている……まぁ、準備運動みたいなもんだ。

 これには、プリムとメイカも魅入っている。


「カグヤ、綺麗です……」

「すごい……舞踊、舞踏……」

「お、おぉ……」


 モルガンは眼鏡をくいッと上げ、これでもかと凝視していた。

 カグヤは軽く飛び、廻し蹴りをするように一回転し着地。綺麗な構えをして終わった。

 プリムとメイカは拍手した。


「終わり……どうだった?」

「すごい! カグヤすごいです!」

「こんなの、劇場でしか見れないわ……すごかったです」

「…………」


 あれ、モルガンが黙ってる。

 拍手もせずにこめかみを押さえ、うんうん唸っている。


「違う……なんか違う。いや、美しいんだけど……なんか違うんだよなぁ」

「は? なによ、アタシの」

「いやいやいや、きみは間違いなく美しい。でもなんか違うんだよなぁ!!」


 モルガンはうんうん唸り出す。

 俺は飽きてきたので、工場内を見学していた。

 モルガンが書いたと思われる設計図を拾って見たり、大量のスクラップを眺めている。


「これ、全部ゴーレムの部品かぁ」

「そうよ。ま、拾い物ばかりだけどね」


 お、メイカが隣に。

 唸り出したモルガンに再度足技を見せるカグヤと、それを応援するプリム。モルガンはカグヤを凝視しながらメモを取っていた。


「あっちはしばらくほっとくわ。お兄ちゃん、一度悩むと長いし」

「ふーん。なぁなぁ、俺もゴーレム作ってみたいな」

「無理よ。ゴーレム技師はいっぱいいるけど、動かせる人は『雷』の適正がある人だけなんだから。ちっちゃいのなら作れるけど、人形にしかならないわ」

「それでもいいよ。手乗りサイズでもいいからさ、なんか作らせてくれよ!」

「……ま、いいや。じゃあ依頼料金いただきまーす」

「金? ああそっか、ここも会社だっけ。じゃあ……」


 俺は白金貨を財布から出してメイカに渡す。


「ぶっふぅ!? ししし、白金貨ってあんた馬鹿!?」

「足りないのか?」

「ちっがう! 多すぎぃ! ぎ、銀貨一枚でいいわよ!」

「わかった。ほれ」


 うーん、けっこうわかったつもりだけど、お金の価値って未だに曖昧だ。

 ゴーレムって高そうだし、けっこうお金必要な気がするけど。

 メイカに銀貨を渡すと、さっそくスクラップを指さす。


「ふぅ……それじゃ、素材を適当に選んで。そこからミニチュアサイズの設計図を選んで、その通りに素材を加工して組み上げていくから」

「ほーい。じゃあ……」


 俺はスクラップを漁る。

 触れた感じ、青銅級っぽいな。

 こうしてスクラップを漁るのもけっこう楽しい。変なパーツいっぱいあるしな。

 

「お、なんだこれ」

「それ、ベアリングよ」


 丸い玉がいっぱい入っている素材だ。振るとジャラジャラする。

 面白いのでジャラジャラ振っていると、球が一気に弾けて転がった。


「うおっ……わ、悪い」

「もう。危ないなぁ「…………」……お兄ちゃん?」


 すると、モルガンがこっちをじーっと見ていた。

 転がったベアリングを見ている。すでにカグヤを見ていない。

 そして、足元に転がったベアリングを摘まみ、言う。


「……これだ。そうか、これだ!!」

「お、お兄ちゃん?」

「メイカ!! 図面を引く。閃いたぞ!!」


 モルガンは椅子に座って何かを書き始めた。

 すごい集中しているのか、話しかけてももう何も答えなかった。

 

「あー……もう駄目ですね。すみません、こうなったお兄ちゃん、もう図面が完成するまで話しかけても無駄なんです」


 メイカが諦めたように言う。

 よくわからんが……これでいいのかな?

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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