工業都市エルモア
ユポポから出発して数日。
俺たちの旅は、のんびりゆったり続いていた。
俺の定位置となった馬車の屋根で寝転がり、大きな欠伸をする。
「ふぁぁ~~~……天気いいわぁ」
「神風流、『流星杭』!!」
ズドン!!と、野良ゴーレムが吹っ飛ぶ音がした。
視線を向けると、カグヤが野良ゴーレム相手に戦っている。
工業都市エルモアへ向かう途中、けっこうな数の野良ゴーレム(青銅級)に遭遇した。いちいち二人で戦うのも面倒なので、交互に戦っている。
最初こそ驚いていた御者のアイシェラも、野良ゴーレムの出現に慣れていた。
「野良ゴーレム、けっこうな数が潜んでいるな……工業都市エルモアが近いことが関係しているのか?」
「知らね~……なぁアイシェラ、いつ到着するんだ?」
「あと数日だ。我慢しろ」
「ああ。何もない街道って暇だなぁ……行商人でもいないかね」
「確かに、それは私も思う」
「神風流、『凪打ち』!!───おしまいっ!!」
あ、全部のゴーレムが破壊された。
カグヤはバラバラになったゴーレムを踏んづけ、勝利のポーズをとっている。
「お~い、終わったならさっさと来いよ」
「うるさいわね。ちょっとくらいいいじゃん」
ゴーレムのパーツは放置。
ゴーレムマスターなら回収し、売却。それか修理して無人ゴーレムとして販売とかになるんだけど、俺たちは興味がなかった。
カグヤを馬車に載せ、エルモアに向けて馬車は進む。
◇◇◇◇◇◇
数日後……高台からついに見えた。
壁に囲まれた大きな都市だ。煙突がいっぱいあり、大きな建物がたくさん並んでいる。
工業都市エルモア。ゴーレムの部品製造のために作られた町。
俺たちもテンションが上がってきた。
「見ろよ、ようやく到着だ!!」
「おっきいですぅ~……あれが工業都市エルモア」
「お嬢様、屋根の上は危ないので私の隣に!!」
「いやでーす」
「アイシェラ、早く行きなさいよ早く!!」
「やかましい連中にゃん……」
屋根の上から俺とプリムとカグヤ、馬車の窓からクロネとシラヌイ、手綱を握るアイシェラがギャーギャー騒ぐ。
ようやく見えた都市に、テンションが上がっていた。
「まずは宿の確保。それから買い出しだ。馬も休ませなければ……」
「なんでもいいから早く行こうぜ!!」
「馬鹿者。補給が優先だ。観光は明日にでもできるだろう? 馬車の点検もしなければならないし、やることは山積みだ」
「えぇ~……」
「はぁ……馬車は私が点検する。お前はお嬢様を連れて買い出しに行け」
なんと、アイシェラが優しいことを言う。
てっきり、また変態的なことを言ってプリムを怒らせるかと思ったのに。
「アイシェラ、いいの?」
「はい。どうかお気を付けて」
「アタシも行く!! フレア、プリム、おいしい物いっぱい食べましょ!!」
「いいね。腹減ったし……あ、アイシェラのぶんも買ってくるよ。クロネも行くだろ?」
「うちはいい。うちは情報集めしてくるにゃん」
『わん!!』
「ん……にゃに? あんたも行きたいの?」
『わぅぅ』
「わかった。じゃあ一緒に行くにゃん」
意外にも、シラヌイはクロネと一緒に情報集めするみたいだ。
俺、カグヤ、プリムが買い出し。
アイシェラは馬車の点検。
クロネとシラヌイが情報集めと、見事にばらけた。
それから間もなく、工業都市エルモアの入口正門に到着した。
身分証明書のチェックをして、積荷の確認……他領土から来た旅人には必ず行っているらしい。
技術の漏洩ってやつが嫌みたいだ。めんどくせーのな。
それが終わり、ようやくエルモアに入れた。
「「「おぉぉ~~~っ!!」」」
俺、プリム、カグヤは揃って驚く。
工業都市エルモア……建物がデカい。
塔みたいな建物、横長の箱みたいな建物、半円形の建物がいっぱいあった。
それ以外にも、普通の住宅や商店も並んでいる。道行く人は冒険者や商人で、作業着を着た男の人たちが並んで歩いてたり、白衣を着た研究員、ゴーレムの部品を積んだリヤカーや、ゴーレムそのものやゴーレムマスターが歩いていた。
すると、馬車の窓を開けたクロネ。
「うち、情報集めしてくるにゃん。くふふ……全く知らない場所の情報集め、すっごく楽しみにゃん」
『わん!』
そういって、クロネとシラヌイは馬車から飛び出し、ぴょんぴょんと住居の屋根に飛び乗り、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
その様子を見ていたカグヤは言う。
「あいつ、情報集めーとか言っておきながら、情報集めすること自体楽しんでない?」
「俺もそう思った。ま、別にいいだろ」
「あ、あはは……」
「お嬢様、宿はどちらにしましょう?」
「そうですね……こういう都市の場合、町の中心にいい宿屋が多く立ち並ぶものですが」
「では、中心街へ向かいます」
アイシェラが手綱で白黒号を軽く叩くと、速度が上がった。
それから間もなく中心街へ。
プリムの言う通り、大きな宿屋が数件と冒険者ギルド、各種商店……そして、この中心街で最も大きな建物があった。
「でっかいなぁ……えーと、『ゴーレム・エンタープライズ』だって」
「確か、ゴーレムを作ってる会社だっけ?」
「ああ。そんなこと言ってたな」
でっかい塔みたいな建物に看板がかかっており、そう書いてあった。
大きいだけで特に興味はなかったので、厩舎付きの宿を探してチェックイン。
大部屋一つと小部屋一つを借り、荷物を置いた。
「では、私は馬の世話と馬車の手入れを依頼してきます」
「うん、いってらっしゃい、アイシェラ」
「ああ、行ってくるよ……くふふ、将来こんな感じでお嬢様に送り出してもらいたい!!」
「さっさと行きなさーい♪」
アイシェラはどこまでもアイシェラだった。
さて、俺とカグヤとプリム……この三人だけって何気に初めてだな。
「えーと、買い出しだっけ?」
「はい!! じゃあさっそく行きましょう!!」
「テンション高いわねー、まぁアタシもワクワクしてきたけどっ」
「俺も。なぁなぁ、買い食いしようぜ」
俺たち三人は、エルモアの町に繰り出した。