戦い終わり、戦士の休息
戦いが終わり、俺とカグヤは合流した。
互いにほぼ無傷。けっこう強かったけど、この程度なら俺たちの敵じゃない。
俺とカグヤはハイタッチし、互いをねぎらった。
「お疲れ。いやー、いきなりデカい牛が出てきて驚いたな」
「そうねー、でもまぁ、面白かったからヨシ!」
「だな。カニと牛……他にもデカいのいるかな」
「いるいる! いたら戦いましょ!」
と、俺はここでゴーレムの残骸を見た。
俺が戦ったカニはドロドロに溶けて原形がない。カグヤの戦った牛は大穴が空き完全に機能停止していた。外装は辺りに散らばってるし……こりゃ掃除が必要だな。
「なぁ、このゴミどうする?」
「ギルドの連中に掃除させればいいでしょ。アタシは帰って温泉入るー」
「俺も入る。温泉もいいけど腹減ったな」
「あ、じゃあカニ鍋!」
「いいね。あと牛肉も食おうぜ!」
「もち!」
俺とカグヤはゴミを放置し、夕食の話をしながらキャンプに戻った。
◇◇◇◇◇◇
キャンプに戻ると、大勢の冒険者たちが集まっていた。
医療テントの近くには子蟹の残骸が山積みになっており、ママさんが冒険者たちに指示を出して怪我人を運び出している。
だが、怪我人はかなり少ない。大勢が普通に動き回っていた。中には自分のゴーレムを整備している連中も多くいる。
「ん───あんたら!? 無事だったのかい!?」
ゴーレムを脱いだママさんがそう叫ぶと、一気に注目された。
同時に、シラヌイがダッシュで俺の元へ。俺に飛び掛かってきたので抱っこしてやり撫でる。
『わぅぅん』
「よしよし。お前が無事ってことは、プリムとアイシェラたちも」
「あ、そこにいるわよ」
「フレアー!!」
プリムとアイシェラとクロネが、ママさんと一緒に来た。
するといきなり、ママさんが顔をズイッと近づけて言う。
「黄金級は!?」
「近い近い顔近い。ゴーレムならぶっ壊したよ」
「なにぃ!? ぱ、パーツはどうしたんだい!?」
「パーツ? ああ、あのゴミなら放置してある。あとでギルドの」
「この馬鹿!! 黄金級の素材がゴミの分けないだろう!? 貴重なオリハルコンの装甲をゴミだなんて……ああもう!! おい、動けるゴーレムと冒険者ども!! キャンサーとタウルスの素材を回収しに行くよ!! 村の警備をしてる『新人』連中も呼びな!!」
「こ、声デカっ……耳元で叫ばないでよ」
「やかましい。それと、祝勝会をやるから今夜は開けときな。あんたも、仲間も全員だ」
「え、マジ? 奢り?」
「当然さね。それに、お前たちには黄金級の素材を渡さなきゃならん。野良ゴーレムは討伐者が素材を受け取る権利があるからね」
「いらね」
「やかましい」
そう言って、ママさんは冒険者とゴーレムマスターを連れて、黄金級の素材を回収しに行った。
残されたのは俺たち……ようやく話ができる。
「フレア、カグヤ、お疲れ様です」
「おう。聞いてたと思うけど今夜は祝勝会だってさ。カニ鍋と牛ステーキ食べるぞ」
「どういう組み合わせだ……まぁいい。お嬢様はお疲れだ、村に戻って入浴、着替えをせねば。その前に汗で蒸れた服と下着をクンカクンカ!」
「アイシェラ、素手で素材回収手伝ってきて」
「はぃぃぃぃぃっ!!」
アイシェラは走り去った。
クロネはネコミミを動かし、俺に言う。
「そういえば、ここもけっこうヤバかったにゃん。子蟹がいっぱい襲ってきたにゃん」
「え、そうなの? アタシたちけっこう取りこぼしちゃったしね……」
カグヤが「あちゃー」と頭を押さえる。
本体を相手にしてたから仕方ないんだけどな。
すると、プリムが言った。
「でも、ある人が助けてくれたんです」
「「ある人?」」
俺とカグヤが言うと、クロネが言う。
「ちょっと太めの『僧』が、素手でやっつけたにゃん。すっごく強かったにゃん」
「ん?……僧?」
強い僧。なんか覚えがあるような。
俺が首を傾げると、カグヤが言う。
「でもま、無事でよかったわ。怪我人が異様に少ないのってアンタのおかげなんでしょ?」
「私は、私にできることをしただけで……」
「謙虚なお嬢様にゃん」
「ま、いいか。なぁなぁ、村に戻って風呂入ろうぜ。今夜は祝勝会だし、その前に少し寝たい」
俺たちは徒歩で村に戻り、自分たちの宿へ戻った。
◇◇◇◇◇◇
さっそく温泉へ入ろうとしたら、受付で宿屋のおばちゃんに言われた。
「悪いね。今は男女とも掃除中なんだよ。混浴なら空いてるけどどうする?」
「こんよく?」
「男女一緒の風呂さ。ちょうど空いてるし、貸し切りにしてもいいよ」
「そっか。じゃあそれでいいや。さーて、風呂風呂~♪」
「ふざけんな!!」「ふ、フレア……」「じょ、冗談じゃないにゃん!!」
喜ぶ俺の後ろで、カグヤたちが怒鳴った。
「アンタ、アタシたちと一緒って……は、裸見る気でしょ!!」
「いや、何度も繰り返してるけど、興味ないって。呪術師の村じゃ男女一緒に裸で水浴びとか当たり前だったしな。男と女の違いなんて、胸があるのと股間に付いてるか付いてないかくらいだろ?」
「に、認識から違うにゃん……前から思ってたけど、こいつに羞恥心を説くのは無駄っぽいにゃん」
「アンタは後から。最初はアタシたちで入るから」
「えー……」
すると、ここで宿屋のおばちゃんが。
「悪いけど、貸し切りは三十分までだよ」
「……わ、わかりました。それで結構です」
「「え……」」
プリムが、真っ赤になって同意した。
カグヤとクロネが唖然とした。
「い、行きましょう……お、お風呂へ」
「おう。温泉温泉~♪」
「ちょ、プリム、マジで!?」
「は、恥ずかしいにゃん!!」
「だ、大丈夫です……ふ、フレアは紳士ですから」
「いや、そいつ紳士でもなんでもない、羞恥心の薄い無礼者よ」
「同意にゃん」
「おい、誰が無礼者だっつーの」
というわけで、さっそく混浴温泉へ!
◇◇◇◇◇◇
一緒に入るにあたり、どうしてもお願いというので、タオルで股間を隠した。
一緒に服を脱ぐのも駄目だと言うので先に入り、身体を洗って湯船へ。
「っっっはぁぁぁ~~~……温泉最高!!」
混浴は赤褐色の湯でトロトロしている。
効能は、身体を芯から温めるというものだ。肩こりや腰痛、お肌にもいいとか。
戦いで疲れた身体が蕩けるようだ。
「はぁ~~~……シラヌイも一緒に入れたらなぁ」
当然だが、動物は入れては駄目だとさ。
すると、混浴の引き戸が静かにカラカラと開く。
「おお、遅かっ「こっち見るな!!」お、おう」
身体をタオルで隠したプリム、カグヤ、クロネだった。
カグヤが殺気を纏わせながら言う。
「いい、身体洗うから。こっち見たらマジで殺す」
「はいはい。ったく、裸くらいいいじゃん……」
「ぅぅ……恥ずかしい」
「お、男と風呂……うち、初めてにゃん」
のんびり湯船に浸かっていると、身体や髪を洗う音が聞こえてきた。
「クロネ、ネコミミにお湯入らないんですか?」
「ちゃんと畳んでいるにゃん」
「尻尾も綺麗ねぇ~、触っていい?」
「駄目にゃん!!」
「あっはっは。クロネの弱点はネコミミだもんな」
「うるさいにゃん!! あんた、うちのおっぱいと尻尾と耳を触ったこと、うちは忘れてないにゃん!!」
「別にいいじゃん……」
声しか聞こえないが、いつも通りだ。
すると、身体を洗い終えたプリムたちが浴槽へ。
「眼、閉じなさい」
「はいよー」
カグヤに言われて目を閉じ、プリムたちが湯船に入ったらまた開けた。
「湯船が赤褐色でよかったです……」
「これなら見えないしね。残念でしたー」
「いや、何が?」
「……もうこいつには何を言っても無駄にゃん」
確かに、身体は見えない。首や肩だけであとは赤褐色の湯船の中だ。
しばし、無言でお湯を堪能する……そして、クロネが俺に言った。
「次はどこに行くにゃん?」
「ん~?」
「次にゃん。うちが調べた情報によると、この先にはおっきな工場の町があるにゃん」
「工場?」
「そうにゃん。ゴーレムのパーツとかを作ってる町にゃん。ユポポよりも大きい町にゃん」
「へぇ~……」
「工場見学とか、ゴーレム製造体験とかもできるにゃん。お金を出せば、自分だけのゴーレムを買うこともできるにゃん……まぁ、素質がないから誰も動かせにゃいけど」
「工場見学とか面白そうだな」
と、カグヤが口をはさむ。
「アタシは『黄金級ゴーレム』を全部ぶっ壊したいわね。えーっと……あと何体?」
「あんたら二人が二体壊して、二体は封印されてるから……残り八体にゃん」
「それって、壊していいんだよな? ギルドの依頼とかなくてもさ」
「一応、野良ゴーレムに分類されるにゃん。問題はないはず……にゃん」
プリムが湯を掬いながら言う。
「でも、会えるものなのでしょうか?」
「暴走してりゃ会えるわよ。ね?」
「ね?って言われてもにゃん……」
「ま、とりあえず工場の町に行こうぜ! ゴーレム工場とか面白そうだ!」
次の目的地は、工場の町になった。
いいね。冒険っぽくていい感じだぜ。
すると……混浴の引き戸が開く。
「お嬢さまぁぁぁぁっ!! 素材の運搬を終えましたぁぁぁーーーっ!!」
アイシェラが素っ裸でやってきた。
ぶるんぶるんと胸を揺らし、何が嬉しいのか万歳してる。
そんなアイシェラと俺の目が合い、アイシェラは硬直した。
「え……なな、なんで?」
「よう。マジで素材を回収しに行ったのか」
「あ、あわわっ……き、きき、貴様、なな」
「あ、入るなら身体洗えよ。お前、汗臭いぞ」
「ひっ───」
そして、アイシェラの絶叫が響いた。
アイシェラは身体を隠して蹲り、涙目で俺を睨む。
「きき、きっさまぁぁぁぁっっ!! わ、わた、私の裸、裸を」
「いいから、入るなら身体洗えって」
「く、くぅぅぅぅっ!! この屈辱、忘れんぞぉぉぉぉぉっ!!」
そう言って、アイシェラは出て行った。
カグヤはゲラゲラ笑い、クロネは頭を抱え、プリムはため息を吐いた。
さーて、アイシェラは放っておいて、みんなで祝勝会にするか。
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フレアの過去がメインで、修行時代の話を書きました。ぜひ手に取って読んでください!