BOSS・黄金級鉄機最終形態『タウルス・エボル』
巨大な拳を持つ『タウルス』の最終形態がカグヤの相手。
タウルスは巨大な拳をカグヤめがけて振り下ろす。カグヤはそれを真っ向から受けるべく、身体を回転させた斜め蹴りを繰り出した。
「だりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
カグヤの蹴りとタウルスの拳が正面から激突した。
轟音が響き衝撃が相殺───とはいかなかった。
カグヤが顔を歪め、自分の足からビシビシと亀裂が入るような音が聞こえた。
「いっ───っが、あぁぁっ!?」
カグヤが押し負け、吹っ飛ばされた。
地面を転がり、右足を確認───どうやら骨が折れているようだ。
だが、カグヤは一瞬で足を復元する。
「あ、アタシが押し負けるなんて……なんつー拳してんのよ……っ」
カグヤの能力は『神脚』。
自分の足に限り、なんでもできる。伸ばしたり巨大化させたり重量を増やしたり……当然、折れたり千切れたりしても治る。その場合、痛みはあるが。
カグヤは構え、タウルスを見る。
「この、人みたいなウシ……さっすが黄金級。アタシが蹴りで撃ち負けるなんて初めてかも」
ずんぐりむっくりした体躯。丸太のような腕。右拳は巨大で、左手は鉄球になっている。
巨大な緑色の牡牛形態とは違う、純粋な対人用ゴーレムだった。
すると、タウルスは───左手の鉄球をカグヤに向けて射出した。
「うわわっ!?」
鉄球はオリハルコン製のチェーンで繋がっている。
カグヤが避けると同時に腕を引き軌道を変える。
さらに、引きもどした鉄球を頭上でブンブン廻し、カグヤめがけて振り下ろしてきた。
「くっ……神風流───」
技を出そうとしたがキャンセル。
カグヤは後ろに跳躍───鉄球が大地を割り、揺らした。
「あっ、がっ!?」
大地を割った鉄球。
飛び散った小石がカグヤの身体を傷つける。
痛みはあったが、この程度で怯むカグヤではない。鉄球が地面にめり込んでいることを確認した。
「裏神風流───」
『神脚』を発動。
ダッシュ力強化───速度を上げタウルスへ接近。
ジャンプ力強化───タウルスに向かって飛ぶ。
脚部硬化、オリハルコン製具足形状変化───ドロップキックの構えを取る。
重量増加───飛んだ勢いに合わせ、両足の重量を一気に増やした。
「『破城鉄槌』!!」
カグヤのドロップキックが、タウルスの胸元に突き刺さる。
タウルスの巨体が揺れたが、倒れない。
だが、衝撃は伝わった。タウルスの動きが止まったのだ。
「勝機!!」
カグヤは連続蹴りをタウルスに叩き込む。
足の重量を増やし、一撃一撃を重くする。並みのゴーレムなら一撃で破壊できる威力の蹴りを、タウルスのボディに叩きこむ。
「だりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
さすがのタウルスも、カグヤの猛攻に腕が動かなかった。
だが、チェーンが一気に巻き戻り、鉄球が左手に戻る。
そして、巨大な拳と鉄球を使い、カグヤを叩き殺そうとする。
だが、カグヤはその動きを読んでいた。
「これだけ接近すればその腕、振り回すくらいしかできないでしょ!? 躱すのなんて楽勝なんだからっ!!」
カグヤは連蹴りをボディに叩きこむ。
タウルスはカグヤを掴もうと両手で抱え込もうとするが、カグヤはタウルスの両手から逃れるように後ろ向きに跳躍。サマーソルトキックを顎に叩きこむ。
「神風流、『円影蹴り』!!」
ガギン!!と顎が跳ね上がり、タウルスの頭がガクガク揺れる。
カグヤは、この瞬間に勝機を見た。
「行くわよ!! 裏神風流『双狼』奥義!! 『狼王牙狼牙』!!」
カグヤは跳躍する。
すると、両足が膝上から千切れた。
千切れたオリハルコン製具足を纏った足が形状を変え、脚が生え、狼のような顔が作られ……二匹のオリハルコン製狼がカグヤと着地した。
カグヤの両足は銀色の素足になっている。
「行きなさい、牙狼に狼牙、あのウシに喰らいつけ!!」
二匹のオリハルコン狼はタウルスに向かって走り、喰らい付く。
バキバキとオリハルコンの牙がタウルスの身体を傷つける。
そして、カグヤはとどめの一撃を繰り出した。
「これで───終わり!!」
カグヤは走り出し───跳躍。
捻りを加えた跳躍。カグヤは空中で高速回転し、タウルスに向かって飛び蹴りをした。
「神風流第二奥義!! 『竜巻・爛々梟』!!」
回転によって威力を増した蹴りが、タウルスの胸に突き刺さり貫通───タウルスが完全に機能停止し、そのままズズンと後ろに倒れた。
カグヤは息を荒くしながらオリハルコン狼を足に戻し、勝利宣言した。
「アタシの勝ち!!」
◇◇◇◇◇◇
一方そのころ、キャンプ地───。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
「なんだこのカニ、やべぇぞ!?」
「か、硬いっ!!」
冒険者たちは、必死に子蟹と戦っていた。
その中に、アイシェラもいる。子蟹を相手に剣を振っているが、ボディが鉄製なので効果が薄い。
一人、また一人と子蟹にやられては倒れていく。
「やばいにゃん……もう、逃げるしか……」
「馬鹿を言うな!!……っく」
子蟹は三十体ほどに増えている。
味方は子蟹にやられ、大怪我で苦しんでいる者ばかり。
プリムは大汗をかきながら『神癒』を行使していた。
「お嬢様……私は、絶対に守ります!!」
味方が倒れ───残りは、アイシェラとクロネだけ。
子蟹は怪我人に見向きもせず、アイシェラとクロネを狙って来た。
おそらく、生物の無力化という命令を受けているのだろう。動かなくなれば無視だ。
「…………っく」
「もう、駄目にゃん……」
「お嬢様……」
アイシェラとクロネは、迫りくる子蟹を眺めながら、己の無力さをかみしめる。
このまま、自分たちも、プリムもやられ……子蟹はユポポを襲う。
村は間違いなく、壊滅す───。
「あー、ちょっと失礼」
「「え」」
「ふむ。カニとは……ははは、いやぁカニといえばカニ鍋かねぇ」
諦めかけた瞬間、どこからともなく一人の男が現れた。
編み笠を被った僧侶だった。
歳は七十を超えていた。
腹がでっぷりと出ており、長い髭を生やしていた。
「だ、誰だ!? ここは危険だ、逃げ」
「まぁまぁ、ここはわしに任せんしゃい。ほれほれお嬢さん方、下がって下がって」
「ちょ、後ろ!!」
初老男性の後ろにいた子蟹が、男性の腕を挟もうと飛び掛かってきた。
だが、男性はその子蟹をひょいっと掴むと、頭上でクルクル回す。
「ほれほれー」
くるくる、くるくる───回転は勢いを増し、とんでもない速度になる。
そして、初老男性はそのまま子蟹を地面に叩きつけた。
「錦流拳法、『円旋落とし』……ほほほ、回転は無限の力じゃ」
ドッパァン!!と、回転の力を加えて叩きつけらた子蟹は木端微塵に。
初老男性は編み笠を外し、首をコキコキ鳴らした。
「さてさて、わしは僧。命を奪うことを良しとはせんが……命なき鉄の塊なら話は別じゃ。たまたま通りかかったのがわしでよかったなぁ?」
突如として現れた特級冒険者序列1位『覇王拳』メテオ・ブルトガング爺さんは、たった一人で向かってくる子蟹を殲滅した。




