それは地鳴りと共に現れて
ちびガイアたちの群れは、子蟹を掴んでかじり出した。
『もぐもぐ』『もぐもぐ』『もぐもぐ』
『もぐもぐ』『もぐもぐ』『もぐもぐ』
突如として現れたモグラの群れに、冒険者やゴーレムマスターたちは唖然とする。
だが、今まで自分たちを襲っていた子蟹を掴んでかじるモグラは敵ではない。
なぜなら……。
『もぐ!』『もぐ?』『もぐぐ』
「「「「「か……かわいい」」」」
『な、なんだいこれは……も、モグラ?』
ママさんも、子蟹に襲われたせいで着ているゴーレムはかなり破損していた。
顔のハッチを開いてみると、子蟹とモグラの戦いはモグラが優勢だった。
冒険者やゴーレムマスターたちは。
『もぐ!』
「かわいい~♪」
『もぐー』
「お、おおぉ……もふもふじゃねぇか」
なんか抱っこしたり撫でていた。
自分たちのゴーレムが子蟹にやられてだいぶボロボロなのに、モグラに癒されている。
だが、相当な怪我人が出た。それに……子蟹はいくつかキャンプ地に行ってしまった。
ママさんは、モグラに癒されている冒険者やゴーレムマスターに言う。
『お前ら、腑抜けるのは後にして怪我人をキャンプに運ぶよ!! まだ動けるゴーレムは怪我人の運搬、脚が早い冒険者は至急キャンプに向かえ!! 子蟹が何匹か行っちまったはずだ!!』
「「「「「は、はい!!」」」」」
子蟹はキャンサーの体内で造られた物に違いない。おそらく、あの巨体な蟹が兵器であると同時に一つの工場みたいな機能をしているのだ。
ママさんは、キャンサーを見る。
『チッ……まだ殆ど無傷だってのに、こっちはもう動くので精一杯か』
そして、無傷なのは……キャンサーの前に立つ二人の少年少女。
フレアとカグヤ。この二人しかいない。
『……フレア!! カグヤ!!……アンタらに任せていいかい!?』
二人は振り返り、ニヤリと───。
ズズンズズンズズンズズン。
突如、地震が起きた。
妙な地震だった。普通の地震は縦に小刻みに揺れるのだが、この地震は規則的な揺れだ。
それに、徐々に徐々に揺れが強くなる。
「な、なにこの地震」
「さ、さぁ……わからん」
フレアとカグヤもわからなかった。
子蟹を出し尽くしたキャンサーは再び鋏で攻撃しようとしていたが、この揺れで動きを止める。
どうも、キャンサーのせいではない。
ズズンズズンズズンズズンズズンズズンズズンズズンズズンズズン!!
揺れが、どんどん大きくなる。
そして、その揺れが……森の奥から何かが走って来るせいで揺れているということが分かった。
木々がバキバキなぎ倒されるような音。
何かが森を、木々を蹴散らしている。
「……カグヤ」
「なに……」
「なんか、嫌な予感」
「あ、アタシも……」
何かが、木々をなぎ倒して突っ込んできた。
◇◇◇◇◇◇
『BUMOOOOOOOOOOOOO───ッ!!』
それは、巨大な『牡牛』だった。
深緑の装甲。木々をなぎ倒した武器である反り返った巨大角。
生物的な形状だが、全身が金属……オリハルコン製で出来ている。
いきなり登場した巨大な『牡牛』は、フレアとカグヤに向かって突っ込んできた。
「う、裏神風流、『巨神大槌』!!」
カグヤが牡牛の突進を止めようと、左足を軸に右足を巨大化させた前蹴りを牡牛の頭に向けて放つ。
牡牛の頭とカグヤの足の裏が激突した───が。
「っぐ!? な、なにこいつ……っ!?」
「カグヤ!!」
牡牛は止まらない。
それどころか、カグヤの足裏を頭を振って弾き飛ばした。
カグヤの足が元に戻り、バランスを崩して倒れそうになるが、フレアが支えて横っ飛び。
『BOMOOOOOOOOOO───っ!!』
カグヤとフレアがいた位置を通り過ぎ急停止。
さらに、キャンサーの鋏が上空から二人を狙った。
「だ、第五地獄炎───っ!!」
フレアは背中から緑色の炎を噴射し、カグヤを掴んだまま地面を滑空して鋏を躱す。
二体から距離を保ち、ようやく話せた。
「どう考えてもキャンサーの同類だよな」
「うん……ってか、キャンサー以外にもいたんだ。ここに」
蟹と牡牛。
二体の黄金級となれば、答えは一つ。
「どっちがいい?」
「牛。アタシの蹴りを真正面から弾くなんてね……アタシがやる」
「じゃあ俺は引き続きカニな。なぁ、カニ鍋もいいけど牛肉も食べたい」
「あ、アタシも。じゃあ今夜はカニ鍋とステーキね」
「決まり」
フレアとカグヤは互いに背を合わせて構えた。
聞こえてはいないが、唖然とするママさんは言う。
「馬鹿な……お、『牡牛座』、タウルス・ノウヴァだと……」
◇◇◇◇◇◇
フレアは、ママさんに向かって叫んだ。
「ママさん!! こいつらは俺とカグヤに任せて、怪我人とか連れてって!!」
『だ、だが……いいか、そいつは『牡牛座』の黄金級、タウルスだ!! まさか黄金級二体……今のままでは絶対に勝てん!! 国家レベル、天使様クラスの力が必要だ』
「ああ、なら問題ないよ。俺ら強いし」
「そのとーり!!」
『ック……いいか、なんとか持ちこたえろ!!』
ママさんは怪我人たちの運搬を急がせた。
フレアはそれを見送り、キャンサーに向き直る。
「手っ取り早く終わらせることもできるけど、俺の攻撃が通じない相手と戦うのはいい経験になる……さぁ、付き合ってもらおうか」
「こっちもね。この緑のウシ……ん?」
キャンサーとタウルスが動かない。
そして、互いの目が明滅していることに気が付いた。
「なんだ……?」
「……なんか、様子が変ね」
チカチカ、チカチカと目が光る。
まるで、何かやり取りをしているように思った。
「何か、話をしてんのか……?」
「どうする?」
「決まってんだろ。様子見だ」
「そうね。もっと強くなる前振りかもしれないし」
「お、おお」
相変わらず馬鹿だな……そう思ったが、フレアは面倒なので流した。
二体の目の明滅が止まると、巨体に変化が現れた。
『脅威度高。敵勢力残存数二』
『個体名タウルス。個体名キャンサーより情報受信』
『脅威度高の敵生態との戦闘開始。最終形態使用』
『同じく。個体名キャンサー。最終形態に移行』
「な、なんか言ってる……最終形態だって!!」
「おお、まだ次があるっぽいな……ゴーレムってマジですげぇ」
そして、キャンサーとタウルスのボディに亀裂が入った。
装甲が落ちる。まさか勝手に壊れていくのかとフレアたちは思ったが違う。
装甲の割れ方が揃いすぎていることから、巨体を脱ぎ棄てているのだ。
殆どの装甲が割れ、中身が露出した。
「わぉ……これが」
「最終形態、ってやつか」
それは、ヒト型のゴーレムだった。
キャンサーは細身でどこか女性を思わせる身体のラインだ。
デザインは精錬され、フレアが今まで見たどのゴーレムよりも美しい。両手が鋏のようになっていることと、どこか蟹を思わせるパーツが身体についていた。
タウルスも同様だ。
深緑のヒト型ゴーレムで、キャンサーとは対照的に全体的に太くごつい。頭や顔は小さいのに角は大きく。右手は巨大な拳で左手は鉄球になっていた。
黄金級ゴーレムの最終形態を前に、フレアとカグヤは背中合わせで構える。
「なぁ、カグヤ」
「なに?」
「ゴーレムってさ、マジで最高だよな」
「……そうね!!」
フレアとカグヤは、キャンサーとタウルスに向かって飛び出した。




