BOSS・黄金級鉄機『蟹座』キャンサー・ノウヴァ②
オレンジ色のデカいカニ。
黄金級ゴーレム・キャンサーは、カニのくせに前に向かってシャカシャカ歩いてきた。
前歩きするデカいカニって正直気持ち悪い。
「お先っ!!」
「あ、待てこらっ!!」
『待つのはお前たちだよ!! 不用意に飛び込むな!!』
カグヤ、俺、ゴーレムを纏ったママさんが飛び出す。
速度はカグヤが一番早い。
シャカシャカ歩きをするキャンサーに向かって跳躍し、強烈な前蹴りを放った。
俺も負けじと加速し、キャンサーの腹にむかって拳を叩き込む。
「神風流、『流星杭』!!」
「甲の型、『捻打厳』!!」
カグヤの飛び蹴りと俺の拳がキャンサーにヒット───した。
だが、キャンサーは吹っ飛ばない。六本の脚が地面に食い込み、衝撃を流したのだ。
ママさんが叫ぶ。
『黄金級ゴーレムは耐衝撃・耐魔法オリハルコン合金だ!! 生半可な攻撃は吸収される!!』
「はぁ!? そんなのどうしろってんのよ!!」
『衝撃の吸収限界まで叩くしかない!!───来るぞ!!』
「カグヤ!!」
俺は叫び、カグヤと一緒に背後へ飛んだ。
同時に、俺とカグヤのいた位置に巨大な『鋏』が突き刺さる……なんとキャンサーの鋏、関節部分が伸びるようで。
キャンサーの『鋏』が伸び、鞭のようにブンブンしなる。
ママさんが離れた場所からガトリング砲を撃った。なんとママさんの突撃槍、ガトリング砲が内蔵されているらしい。
『ちぃぃっ!! お前ら、鋏を躱しつつ攻撃を加えろ!! オリハルコンの耐久限界まで攻撃し続けるんだよ!!』
「「了解っ!!」」
俺はカグヤと目配せする。
「とにかくブッ叩くしかないな」
「そうね。ってか、オリハルコン硬っ」
「だなぁ……ま、こんなデカいゴーレムと戦えるのもいい経験だ。いくぞ」
「仕切んなっての……じゃ、行くわよ!!」
飛び出したカグヤ。
鋏を躱しつつ懐に潜り、蹴り技を浴びせている。
俺は呼吸を整え、両手の五指をゆっくりと固めた。
「甲の型、『四肢鉄塊』……よし、やるか」
この拳でゴーレムをぶっ壊す。へへ……やってやるよ。
◇◇◇◇◇◇
キャンサーのメイン武装は両手の鋏。
片方の鋏は切れ味重視、もう片方の鋏は圧迫重視で、最長三十メートルほどのオリハルコン製ワイヤーだ。カグヤが切断を試みたが上手くいかなかった。
「ったく、硬いわね!!」
「……このままじゃじり貧だな」
フレアも、炎を纏わせた拳や呪闘流の技でキャンサーを叩くが効果は薄い。
キャンサーもだが、ここに来てフレアの興味は別のところにあった。
「オリハルコン……地獄炎でも燃えにくい物質か」
『そりゃそうだ。これは天の神が作りだした鉱石だからな』
「や、焼き鳥!? 久しぶりじゃん!!」
フレアの右腕に『火乃加具土』の籠手が現れ、第一地獄炎の魔王『火乃加具土』が語りかけてきた。
こうして話すことは久しぶりのフレアは、キャンサーの鋏を躱しつつ聞く。
「天の神って?」
『天使たちの神だ。他にも堕天使の神、黒天使の神と三柱いる。ま、オレらと同類だね』
「その神が生み出した鉱石が、オリハルコン?」
『ああ。さすが神の鉱物……でも、オレらの炎で燃やせるぜ。できねぇのはおめぇがヘボいからだ』
「は、はっきり言うな……でも、負ける気はない」
『はいよ。じゃあオレは寝る……おやすみ』
火乃加具土が消え、魔王の声も消えた。
天の神・三柱。地獄炎の魔王と同類の存在。
そんなことよりも、フレアはオリハルコンと目の前のキャンサーが大事だった。
紙一重でキャンサーの鋏を躱し、拳を叩き込んでいく。
すると───。
『───来たね!! あんたら、ここは任せる!! すぐに援護してやる!!』
ママさんが後退した。
フレアは一瞬だけ振り返り納得───増援部隊が到着したのだ。
総勢二十体ほどのゴーレムと冒険者たち。
ママさんが迅速に指揮を執り、ガトリング砲をキャンサーに向ける。
『いいかい、あの子たちに当てるんじゃないよ!! 撃て───っ!!』
ゴーレムたちのガトリング砲が火を噴き、キャンサーに命中した。
恐るべき弾幕に、さすがのフレアとカグヤも一時離脱。
鉛の弾丸とオリハルコンの装甲がぶつかる音に、カグヤは耳をふさいだ。
「う、うるさぁっ!?」
「よーし俺も!!」
フレアは回転式を抜き、キャンサーに向かって引金を引く……が、どう見ても意味がない。
そして、キャンサーが一歩、また一歩と後退を始めた。
弾切れになったゴーレム。すると、弾幕が消えたのでフレアたちが攻撃を再開。
魔法使いが魔法で銃身を冷やし、冒険者がゴーレムマスターと一緒に銃弾を込める。
「神風流、『烈刺剣山』!!」
「滅の型、『轟乱打』!!」
カグヤの連蹴り、フレアの連打がキャンサーのボディに突き刺さる。
キャンサーがゆるりと後退……戦況は間違いなく有利だった。
いや───有利に見えていた。
◇◇◇◇◇◇
「ん……?」
「え……?」
間違いなく、俺たちが押していた。
ゴーレムマスターたちによるガトリング砲の一斉射撃、俺とカグヤの攻撃。
キャンサーはゆっくり後退し、二本の鋏を収納した。
前傾姿勢でピクリとも動かなくなり、俺とカグヤの攻撃は止まった。
「あれ、壊れたのかな?」
「動かねーな?」
もしかして勝った?───なーんて考えたのも束の間。
───ガシャン!!
「え」
「は?」
キャンサーの腹部分が開いた。
まるでドアのように開き、スロープがウィーンと下りてくる。
猛烈に嫌な予感がした。ま、まさか……?
『脅威度大。対処法変更。【キャンサー・マイナー】射出します』
次の瞬間───キャンサーの腹から、全長二十センチほどの『子蟹』がワラワラと現れた。
「なっ……なんだこれ!?」
「知らないわよ!!」
子蟹は十や二十、百や二百じゃ利かない。
千、二千……数えるのがアホらしくなる数だ。
大きさはそれほどでもない。形はまんまキャンサーの縮小版で、鋏もしっかり付いている。
だが、動きはキャンサー本体より速い。
「きゃぁっ!?」
「カグヤ!! のわぁっ!?」
カグヤの背中に子蟹が張り付いた。
俺の背中、足、腕にもくっついた。そして、鋏で切りつけようとしてくる。
「舐めんじゃねぇぞゴラァァァッ!!」
俺は自らの身体を第一地獄炎で一気に燃やす。すると子蟹が一瞬で燃えた。
どうやらオリハルコン製ではない。通常の金属だ。
「カグヤ!! このっ!!」
「いたたたた、痛いって!! いったい!!」
カグヤの身体に張り付いていた子蟹を叩き落した。
でも、まだまだ子蟹……待てよ。
「しまった!!」
俺が振り返ると、やはり───ゴーレムマスターたちとママさんが子蟹の猛攻を受けていた。
冒険者たちは己の武器で子蟹を叩き、ゴーレムも近接武器に持ち替え子蟹を叩き潰している。でも、子蟹の数があまりにも圧倒的だった。
俺とカグヤの周りにも子蟹が集まっている。
「このこのこのっ!! ああもう子蟹めっ!!」
「よし。第三地獄炎【泥々深淵】───『闇沼』!!」
俺とカグヤの周囲に黄色の炎を展開。大地を泥化、底なし沼にした。
子蟹は一気に沈む。キャンサーを見ると、未だに子蟹を吐きだしていた。
カグヤは後ろを見て叫ぶ。
「どうする!? あっち、けっこうヤバいかも!!」
「くそ。『闇沼』をあっちまで広げるか……ダメだ。あんまり広げ過ぎると味方も巻き込んじまう」
「やっぱり、キャンサーを……」
「待て、今は子蟹を何とかしないと、あっちが全滅だ!!」
「じゃあアタシが行く!! キャンサーをぶっ飛ばして子蟹を」
「あの装甲を壊せないと無理だっての!!」
「っく……」
キャンサーを泥沼に引きずり込もうと考えたがやめた。子蟹は俺たちを避けるようにママさんたちに向かっている。地面を泥化するまえに逃げられるだろう。
なら、これしかないな。
「とりあえず───子蟹をなんとかするか」
「で、できるの?」
「ああ。それなら問題ない」
俺の左手に『大地の爪』が装着される。
「黄昏の世界より来たりし我が炎。第三地獄炎の覇獣『ガイア』よ」
俺は大地に魔神器の爪を深々と差し込む。
泥沼が消え、周囲を黄色い炎が包み込み、一気に黄色い世界が広がった。
「第三地獄炎『大地の爪』土竜登場!! 『パンデミック・ガイア・スタンピード』!!」
黄色い炎が一気に大地を燃やし尽くし───消えた。
カグヤは周囲をキョロキョロ見渡す。
「……え? あれ、終わり?」
「アホ。これからだって……見てろ」
びし、びし、びし……と、周囲一帯の大地に亀裂が入る。
それは、ママさん率いるゴーレム部隊や冒険者たちの立っている地面でも同じだった。
「な、なんだ!?」「地面が……」
「な、なにかいるぞ!!」「きゃぁぁっ!?」
子蟹たちも、亀裂の入る大地に脚を取られてバランスを崩す。
そして───それは現れた。
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
「「「「「「「「「「「「…………え?」」」」」」」」」」
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
地面から現れたのは───黄色い体毛のモグラ。
それも、一匹二匹じゃない。百、千……それ以上。
黄色いモグラが、大地を突き破って現れた。
『もぐ!』
「よしよし。いいか、あの子蟹をみんなで食べてくれ。よろしく」
『もぐ!』
「なにこれ可愛い───っ!! 抱っこ抱っこ!!」
『もぐ!』
フレアは足下のモグラに命令し、カグヤはモグラを抱っこした。
フレアはモグラを撫で───言った。
「全員、食え」
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』『もぐ!』
数千匹のモグラたちが大地を覆いつくし、子蟹を貪り始めた。




