温泉郷ユポポとゴーレム⑧/黄金級討伐隊
翌日。
俺とカグヤは冒険者ギルドにやってきた。
ギルド内に入ると、なんとなく空気が重い……そう感じていると、ケインたちが俺とカグヤの傍に来た。
ケインは俺に頭を下げて挨拶する。
「おはようございます、フレアさん、カグヤさん」
「おっす。お、ゴーレム」
「はい。昨日、大急ぎで買いました。白銀級のパーツも使っているので、以前のゴーレムよりパワーがあります」
ケインはゴーレムを連れていた。
全長二メートルほどの全身鎧みたいなゴーレムだ。腕が太く背中には剣を二刀背負っている。そして、ボディは完全な鉛色ではなく、所々が銀色になっていた。
カグヤはどうでもいいのか、エミリーとアルコに話しかける。
「あのさ、なんか空気重くない?」
「えっと……黄金級討伐の強制依頼のせいだと思います。昨日、私たちの工場にも夜遅くに依頼書が届きました」
「わたしたち新人のゴーレムマスターは、町の防衛だそうです」
「ふーん。アタシとフレアのとこには何も来なかったけどね」
確かに。
昨日は温泉入ってメシ食ってすぐに寝たからな。
ケインたちと談笑していると、ギルドの扉が閉められた。
そして、二階の通路から俺たちを見下ろすように、ママさんが現れる。
「全員、集まったね」
おお、ママさんの登場で一気にギルド内が静かになった。
全員が二階の通路にいるママさんを見ている。もちろん俺とカグヤも。
「昨夜、村中の冒険者とゴーレムマスターに送った依頼書は読んだと思うが改めて説明する。先日、ユポポからすぐ近くにある森で、黄金級ゴーレム『キャンサー』が目撃、発見された。現在は休止中だが復旧まで時間がない。あたしたちでキャンサーを行動停止にするよ」
ギルド内の空気がチリチリした。
冒険者たちの気合が入っているのか。
「知っての通り、黄金級は自立型。止めるには破壊するしかない。現状の戦力では厳しいが……あたしたちが力を合わせればきっと倒せる。それと、パープルアメジスト本国に救援要請も送った。最悪、足の数本だけもぎ取って本国の対ゴーレム精鋭部隊に任せる。いいかい、あたしらがやらないとユポポは滅びる……気合入れな!!」
次の瞬間、怒号が響いた。
おお、みんな気合入ってるな。というかうるせえ。
「それじゃ部隊編成と作戦の説明をするよ」
ママさんは、この場にいる熟練クラスのゴーレムマスターたちの名前を呼んでリーダーにし、そのリーダーの下に数人の中堅クラスのゴーレムマスターを部下として組み込み、合計十五の部隊を作った。
新人ゴーレムマスターはユポポの周辺警護。普通の冒険者たちにはゴーレムマスターたちの補佐として部隊に組み込んだ。
部隊編成が終わったのだが、問題が一つ。
「ねぇ、アタシらは? 呼ばれてなーい!!」
カグヤが挙手。
俺も真似して挙手。おいおい、まさか呼び忘れか?
すると、ママさんはニヤリと笑う。
「あんたらは独立部隊だ。好きに戦いな」
「え、マジで?」
「やったぁ!!」
ラッキー。部隊とか誰かの下で働けとか、ぶっちゃけ嫌だったんだよね。
ママさんは煙管を取り出し煙草をふかす。
「青銅級と白銀級を素手で叩き壊せるお前らだ。部隊に組み込むより好きに暴れさせた方がいい」
「わかってんじゃん」
「うんうん。アタシ、そういうの好き」
「ふん。話は以上。準備が終わり次第、前線基地へ移動しな!!」
冒険者たちは移動を始めた。
キャンサーが潜んでる森の近くにキャンプを作ったようだ。そこに移動し、部隊を展開してキャンサーが動きだすのを待ち、迎え撃つ。
キャンサーは電磁壁とかいう壁を出して休んでいるそうだ。その壁に近づくと、ゴーレムは例外なく行動不能になってしまうらしい。
なので、キャンサーを倒すには行動中じゃなきゃ駄目とか。
ギルドの外へ出ると、プリムたちが待っていた。
「フレア、カグヤ、お疲れ様です!」
「怒声が聞こえたぞ。気合が入ってるようだな」
「キャンサー、倒せるかにゃん?」
「アタシが倒すから問題なし!」
「俺もいるぞ……あ、そうだ。プリムたちのこと言うの忘れてた」
プリムたちは冒険者じゃないけどきっと役に立つ。
俺はギルド内に戻り、ママさんを探す……あ、いた。受付カウンターにいる。
「おーいママさん、ママさん」
「ん……なんだい?」
「あのさ、冒険者じゃないけど手伝ってくれる奴がいるんだけど、いい?」
「……どんな奴だい?」
「俺の仲間」
「いいよ。連れて行きな」
「え、あっさり……いいの?」
「お前さんの仲間なら問題ない。どうせバケモンだろう?」
「…………」
バケモンねぇ。
回復が得意な女の子、女好きの変態女、ネコミミ……うん。バケモンじゃなくて異色なパーティーってやつだ。
とりあえず許可は出た。さっそくプリムたちの元へ。
「許可出たぞ。準備はいいか?」
「はい! お弁当の準備はバッチリです!」
「お嬢様の弁当……つまり、お嬢様が作った。つまりお嬢様の手で作られた。そう、お嬢様の手を舐めて味わうということだ」
「アイシェラ、お弁当抜き」
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
「うるっさい!! 弁当はともかく、怪我人出たら頼むわよ。それとクロネ、アンタも何か手伝いなさいよね」
「お任せください! 私の『神癒』で治せない怪我や病気はありません!」
「うちも、できることはやるけど命は賭けないにゃん」
「シラヌイ、お前はプリムを守れよ」
『わん!』
「わ、私もお嬢様を守りますよー? お嬢様ー?」
パープルアメジスト領土に入って最初の村。
温泉とゴーレムの村でのんびりしようと思ったが……やはりそうはいかなかった。
◇◇◇◇◇◇
村を出てキャンプまで移動した。
意外と村から近く、冒険者やゴーレムマスターが集まっている。
部隊ごとに何やら話合ったり、ゴーレムの整備をしているようだった。
さて、俺たちもそれっぽく。
「じゃ、俺とカグヤは森に入ってキャンサーとやらをブッ倒す。プリムは怪我人の手当て、アイシェラとシラヌイはプリムの護衛、クロネは援護を頼むな」
「アンタが仕切んな。って言いたいけど……ま、それしかないわね」
「お任せください! 頑張ります!」
「お嬢様は任せろ。永遠にな」
「うちは死なない程度に頑張るにゃん」
『わぅん!』
うちのパーティーはやる気満々だ。
それにしても、キャンサーかぁ。
「どんなゴーレムだろうな」
「アタシは楽しめればいい。アンタもでしょ?」
「まぁな。それと、今回は譲らないぞ。やるなら二人でだ」
「わかってるわよ。じゃ、行くわよ」
「おう」
俺とカグヤは森に向かって歩き出し───。
「ま、待て待て、森から強烈な電磁波を感知!! 生身じゃ危険だ!!」
「そこの二人、キャンサーが起動するまで待て!!」
「まだ稼働してない。森に入るな!!」
熟練クラスのゴーレムマスターに止められ、仕方なく待つことにしましたとさ……やれやれ。さっさと動きだせって思う。