温泉郷ユポポとゴーレム⑥/仕事終わりと黄金級
白銀級ゴーレムを担ぎ、ようやく村に戻ってきた。
ゴーレムを村の入口に置き、俺は大きく背伸びした。
「あ~~~……くたびれた」
「アンタ、よく運んだわね……」
「人の手で運べるような物じゃないんだけど……」
カグヤは呆れ、エミリーはただ驚く。
まぁ、生身じゃ持てないこともないけど運ぶのは無理。なので、呪力で身体を強化しつつ運んだ。これなら身体を鍛えつつ呪力も鍛えられる。シンプルかつ効果的な修行法だ。
すると、門兵のお爺さんが驚いていた。
「こりゃたまげたなぁ……野良かい?」
「ギルドの依頼で討伐した野良ゴーレム。しかも白銀級です。これからギルドに報告して工房に運びますので、このままここに置いてもいいですか?」
「おお、構わんぞ。にしても、まさか野良の白銀級……しかも討伐までしちまうとはなぁ」
エミリーが言い、お爺さんは白銀級をジロジロ見ていた。
ゴーレムは門兵お爺さんに任せ、俺たちは冒険者ギルドへ。
ギルド内に入ると、ママさんが数人の冒険者と何やら話をしていた。
「ん……ああ、戻ったかい。その様子じゃ終わったようだね」
「「楽勝」」
「……あの、報告したいんですけど、いいですか?」
「ああ。そうだね、せっかくだしあたしが聞こう」
ママさんと話していた冒険者は離れ、ギルド長室に案内される。
俺とカグヤは出されたお茶とお菓子に夢中だったので、エミリーが報告した。
「源泉周辺のゴーレムを討伐しました。数は四体。三体が青銅級で一体が白銀級でした」
「なんと。白銀級かい?」
「はい。えっと……青銅級はフレアさん、白銀級はカグヤさんが討伐。白銀級は持ち帰り村の入口に置いてあります。所有権は私にあるので、解体して売却したいのですが……」
「もちろんかまわんよ。手の空いた奴に工房に運ぶように伝えておく。どうせケインのゴーレムを修理するんだろう?」
「はい……あたしのゴーレムはすぐに直りますけど、ケインのは修理というか新規で購入するしかないと思います」
「だね。よし、白銀級を解体して使える部品は取っておきな。新しくゴーレムを買って、あんたらのゴーレムをカスタムするように技術者に伝えておいてやる」
「ママさん……ありがとうございます!」
「いいさ。お前もケインもアルコも反省してる。これからはちゃんとするんだよ」
「……はい!!」
ママさんは煙管をふかし煙を吐く。
俺とカグヤはユズ茶とユズクッキーを食べながら話を聞いていた。
「ところであんたら、やっぱり素手でゴーレムを破壊したのかい?」
「ん、まーね。アタシの蹴り技の敵じゃないわ」
「俺も、拳を強化すればゴーレムを砕けそうだ。もっと強い奴と戦ってみてもいいな」
「…………なら、朗報だ。黄金級ゴーレムを討伐しないかい?」
「「……黄金級?」」
ママさんは煙管の灰をトントン叩いて灰皿に落とす。
エミリーが目を見開いていた。
「ついさっき、野良の黄金級……個体名『キャンサー』が確認された。熟練クラスのゴーレムマスターを招集して討伐隊を結成するんだけど、あんたらも参加しないかい?」
「黄金級って強いの?」
「もちろんさ。黄金級ゴーレムには全て個体名が付いている。全十二体しかいないゴーレムだが、そのうち十体が野良化しちまってね……現れたら討伐しろってお国の命令なのさ」
すると案の定……カグヤの目がキラキラしていた。
「やる!!」
「ま、いいか。けっこう面白そうだし」
「よし決まりだ。討伐は二日後になる予定だ。準備をしておきな」
「え、すぐじゃないのかよ?」
「黄金級は特殊なゴーレムでね。停止中は強力な電磁壁を展開して近づけないのさ。活動中に破壊するしか手はない」
なるほど。カグヤが喜びそうな展開だ。
俺とカグヤはウキウキしているが、エミリーだけが震えていた。心なしか顔色も悪い。
「お、黄金級……白銀級とは比べ物にならない……まさか、黄金級がこの辺りに現れるなんて」
「アンタ、顔色悪いわよ?」
「ぅ……だ、大丈夫です」
「仕方ないさ。ゴーレムマスターにとって黄金級は恐怖の対象、金剛級は憧れだからね。おっと、報酬を忘れていた……ほれ」
ママさんは小袋を三つテーブルへ。
俺とカグヤが受け取り、最後の一個をエミリーへ。
「え、あ、あたしにも?」
「当然さね。さ、話は終わり。明日またギルドに来ておくれ」
「はいよ。さてカグヤ、飯でも食いに行こうぜ」
「さんせーい。ねぇねぇ、この村そんなに大きくないし、プリムたち探して一緒に食べない?」
「そうだな。じゃ、ママさんまた明日」
「じゃあねー」
「あ、ま、待って!!」
ママさんの部屋を出ると、エミリーがまた頭を下げる。
「本当にありがとうございました!! このご恩は忘れません!!」
「いいって。ほらほら、ゴーレムを直しに行けって」
「それと、案内ありがとね。ばいばーい」
頭を下げっぱなしのエミリーと別れ、俺とカグヤはプリムたちを探しに村を散策した。
◇◇◇◇◇◇
プリムたちを探して村を歩く俺とカグヤ。
観光地なだけあって出店がいっぱい並んでいる。空腹時に歩くのはかなり危険だった。
歩いていると、桶に張った湯の中に卵を入れて温めている店の主人が声をかけてきた。
「そこのお二人さん、温泉卵でもどうだい? カップル割引きもあるよ!!」
「カップルじゃないし!! コイツとアタシがカップルに見える?」
「そりゃ、若い二人が並んで歩いてるんだ。そう見えちまうのも仕方ないよねぇ」
カグヤが言い返すが店主は飄々としている。
俺はというと、温泉卵が気になっていた。
「あの、この卵ってどうやって食べんの?」
「殻剥いて一口でちゅるっと食べるのさ。こうやって……ちゅるっと!!」
「おお!!」
店主は卵を一つ掴んで殻をむき、そのまま一口で口の中へ。
ハフハフしながら卵を頬張る姿を見て、俺は購入を決意……プリムたちと食べるって言ったけど、卵一個くらいいいよね?
「おっちゃん、一個くれ!!」
「まいどっ!! 彼女さんはどうだい?」
「じゃあ一個。おいカグヤ、お前も食えよ」
「むー……まぁいいや。じゃあ一個もらいっ」
カグヤと温泉卵を食べる……うん、美味い!!
あつあつの温泉卵は口の中でとろける。黄身もとろとろで濃厚だ。
空っぽの胃に卵が流れていく……はぁ、最高。
「美味い……はぁ、最高だな」
「そうねぇ……ん? あ、あっちにプリムたちいる!!」
「お、ホントだ」
プリムたちは、数軒先の出店で買い物してた。何やら器を受け取って食べていた。
どうやらあっちもお昼らしい。ちょうどいいな。
「カグヤ、行こうぜ」
「うん!!」
「お。お仲間かい? よかったらうちの店にも連れてきてくれよ!!」
温玉屋の店主にそう言われ、俺とカグヤはプリムたちと合流するべく歩きだした。
そうそう。冒険とか観光とかってこんな感じなんだよ。楽しくて美味いって最高だぜ!!




