温泉郷ユポポとゴーレム⑤/BATTLE・ゴーレム
白銀級ゴーレム相手にカグヤは突っ込んで跳躍、硬そうな鋼のボディに飛び蹴りを食らわせた。
「アンタの相手はアタシっ! 楽しませなさいよっ!」
『敵・発見・破壊シマス』
白銀級ゴーレムのボディは、低純度のオリハルコンを含んだ合金製。
鉱物の中でも最上級の硬度を持つオリハルコンは、不純物が混ざっていてもミスリルやダマスカス鋼といった金属よりも遥かに硬度がある。岩をも砕くカグヤの飛び蹴りでも、ボディに傷一つ付かなかった。
カグヤは構えを取り、脚を掲げる。
「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ……って、言ってもわかんないか」
カグヤは、目の前のゴーレムを観察した。
今まで見た野良ゴーレムは、身体が欠けていたり錆があったり古めかしかった。だが、この白銀級ゴーレムは錆どころか亀裂すらない。ボディにオリハルコンが含まれている影響だろう。
大きさは二~三メートル。腕は蛇腹になっており、逆に足は短く太い。ボディは寸胴のようで、顔は四角くガラス玉のような眼が二つあった。
どう見ても、腕と手を武器にするゴーレムだ。
腕の形状からして、関節という物はない。
「とりあえず……様子見っ!!」
カグヤは白銀級ゴーレムに真正面から突っ込んだ。
どうでるか見極める。何ができるのか、どんな攻撃なのか。
すると白銀級ゴーレムが動く。
『排除、シマス』
「っ!!」
やはりだ。
白銀級ゴーレムの腕が鞭のように動きだし、不規則な動きで振り回し始めた。
「───あっぶ!?」
カグヤは急ブレーキをかけ飛びのくと同時に、カグヤが立っていた土が爆ぜた。
銀の腕が地面に叩きつけられ地面が爆破した。
カグヤはさらに飛びのくと、再び地面が破裂する。
「鞭……いや、そんな甘いモンじゃない、わねっ!!」
喋りつつ、カグヤは動く。
白銀級ゴーレムの『銀鞭』が的確な動きでカグヤを狙う。
懐に入れば鞭は当たらない、そう考えたカグヤは再び突っ込もうとするが……なんと、右手の腕が円を描くように回転し、まるで盾のように広がった。
触れればミンチになる。カグヤは白銀級ゴーレムから離れた。
「うわわっ!?」
だが、離れると『銀鞭』が襲ってくる。
近づけば『銀盾』が白銀級ゴーレムを守る。
攻守に優れたゴーレムだった。階梯天使くらいの実力があるかもしれない。
「なーるほどね……いいじゃん」
カグヤは、ワクワクしていた。
倒すことは造作もない。でも……油断すれば身体がミンチになる『銀鞭』を躱す緊張感に身を委ねたかった。
カグヤは間違いなく、フレア以上の戦闘中毒者だ。
死と隣り合わせの状況を、無意識のうちに楽しんでいる。
「神風流、『揺奇舞』」
カグヤは、緩急を付けた動きで白銀級ゴーレムを翻弄する。
仕組みはさっぱりだが、このゴーレムは自分の動きを察知している。だったら、それを乱す動きをしたらどうなるか。
『排除シマス、排除シマス、排除シマス』
「あははっ……あははっ!!」
白銀級ゴーレムは両腕でカグヤを狙い始めた。
増える手数にカグヤはなんとか避ける。そして、やはりこの状況を楽しんでいた。
カグヤは、笑いながら言った。
「ゴーレム……最っ高じゃん!!」
◇◇◇◇◇◇
俺は、金網を掴んでガシャガシャ揺さぶっている青銅級ゴーレムの一体に飛び蹴りを食らわせる。
すると、ゴーレムは吹っ飛びゴロゴロ転がった……あ、衝撃で腕が取れた。
ついでにカグヤの方をチラリと見る……ああ、やっぱり。
「あいつ、遊んでやがる……ったく、あの戦い方じゃいつか足元掬われるぞ」
ま、いいか。
ゴーレムは三体。エミリー曰く全て合金製の青銅級だ。
そのエミリーは、俺の後ろで自分のゴーレムに指示を出す。
「コマンド、【防御】プラス【待機】!!」
『了解』
「なぁなぁ、それってどうやって動かしてるんだ?」
「登録者の声と専用コマンド、あとこのリングで魔力を送って……って、そんなことより前!!」
「ん、おお」
ゴーレムの一体が腕を振りながら俺に向かって来た。
青銅級ゴーレム、鉄の棒みたいな腕、五指の代わりに鉄球が付いている。寸胴の身体に足も棒みたいに細い。かなり安っぽいデザインで壊れかけていた。
「おらっ!!」
ゴーレムに回し蹴りを食らわせると、あっさり倒れる。
だが、腐食しても金属なので硬い。魔獣より耐久性はあるだろう。
俺は構え、両手の五指を開いて前に突き出す。
「甲の型、『四肢鉄塊』」
両手の小指から薬指、中指、人差し指と握りこみ、最後に親指を握りこんでがっちり固め、呪力で自身の手に『硬くなれ』と呪をかける。
同様に、爪先と踵にも呪をかけ、鋼よりも硬い鉄の拳と足が完成した。関節を固めると動かせなくなるので、攻撃を当てる部分だけを硬化させる技だ。
「いくぞ……墳っ!!」
俺に向かって来たゴーレムの一体に、顔、胸、腹と連続で拳を叩き込む。
すると、ボディが破裂し破片が散らばり、ゴーレムの動きが停止した。
「お、いけるな。『極』を使わなくても、腕力と拳を強化すれば壊せるな」
「う、うそ……青銅級ゴーレムの合金ボディ、いくら腐食して強度が下がってるとはいえ、素手で……ほんとに人間なの?」
「人間だっつの。それと、俺の力はそれだけじゃないしな」
俺の背中から緑の炎が噴射し、蝶の翅のように広がった。
野良ゴーレムは素手で破壊できることがわかったし、残り二体はさっさと終わらせることにした。
「第五地獄炎、『爆蜂スズメバチ』」
緑の炎の翅から、手のひらサイズほどの『蜂』が、緑色の炎で形成される。
蜂は二匹。緑色に燃えながら青銅級ゴーレムの元へ一気に飛び、破損した部分から体内に潜り込み……一気に破裂した。
そう。爆蜂スズメバチは圧縮空気。獲物の体内に侵入すると圧縮された空気が一気に破裂する。ナマモノ相手に使えばかなりグロい光景が見れる技だ。
「え……な、なに、今の……は、蜂?」
「ああ。圧縮空気な……って、わかんなくていいや」
エミリーに適当に説明し、ゴーレム三体は鉄屑に変わった。
さて、カグヤの方はどうなったかな。
「裏神風流、『巨神槍突』!!」
飛び上がったカグヤの両足が巨大な槍に変化。白銀級ゴーレムの両腕と真正面からぶつかった。
結果、ゴーレムの両腕は滅茶苦茶に破壊され、カグヤの両足が白銀級ゴーレムの頭を貫き、そのまま白銀級ゴーレムの機能が停止した。
「アタシの勝ちっ!!」
こうして、源泉荒らしの野良ゴーレム退治は終わった。
◇◇◇◇◇◇
ゴーレムを全て倒し、金網の周りをぐるりと回った。
白銀級ゴーレムの元へ戻ると、カグヤが伸びをする。
「どうやら、もういないみたいね」
「だな。これで全部終わり……ってわけじゃないんだろ?」
エミリーに聞くと、なぜかちらちらと白銀級ゴーレムの残骸を見ている。
「え、ええ。そうね……この白銀級ゴーレムがこの辺りの最上位機種かも」
「で、どうする? 今日は帰るか?」
「そ、そうね……その」
「なによ。はっきりしないわね」
カグヤがエミリーにズイッと詰め寄る。
エミリーはどこか言いにくそうだったが、意を決したのか話し出す。
「あ、あの……あたし、案内しただけで何もしてないし、こんなこと言うのもおこがましいんだけど……お願いがあるの」
「なに? 最初からそう言いなさいよ」
「う、うん。あの……ほんの少しでいいから、この白銀級ゴーレムのパーツを分けて欲しいの」
「「は?」」
「わかってる。白銀級ゴーレムの素材はそこそこの高値で売れるし、魔獣の素材と同じ扱い……討伐者が全ての所有権を得るってことも。でも、この素材があれば、ケインのゴーレムも修復できるし……お願い、少しでいいから素材を譲って!!」
「「…………」」
俺とカグヤは互いに顔を見合わせ、頭を下げるエミリーを見た。
というか、そんなことかよ。
「別にいいわよ。ってか、全部持っていきなさいよ」
「え」
「俺らにとっちゃガラクタだしな。金は別に困ってないし、まぁその……お前の仲間のゴーレム、俺が壊したしな」
「え……」
「で、どうやって運ぶ? アンタのゴーレムで運ぶ?」
「あ、俺も運ぶ。けっこうな重さだし、いい修行になりそうだ」
「い、いいの?」
「ええ。ってか、アンタがそんなこと言わなきゃ放置して帰るつもりだったしね」
俺は白銀級ゴーレムの身体を持ち上げる……お、重っ。
「こ、これはいい修行になるな……重いっ!!」
「じゃ、アンタは残りのゴーレム、使えそうな部分を運びなさいよ。でっかいのはこの馬鹿が運ぶからさ」
「おいこら、馬鹿ってなんだ馬鹿って……重っ」
「あ……ありがとう!! ありがとうございます!!」
頭を下げるエミリーは、嬉しそうに笑っていた。
俺はクソ重い白銀級ゴーレム、エミリーのゴーレムは青銅級ゴーレムの使えそうな部分を拾い集めて運んだ。
さて、依頼は完了。さっさと村に帰って温泉にでも浸かろう。